孤立と孤独感
1.社会的動物としての人
人は「社会的動物」といわれています。この場合の「社会的」とは個体が単独で生活を営んでいるわけではなく、個体同士が集まって集団を形成しているという意味です。家族、地域コミュニティ、職場・学校など、人はなんらかの組織・集団に属して生活を送っています。
人は所属する組織・集団から様々な影響を受けています。その影響に満足や必要性を感じれば帰属意識は強くなりますが、満足や必要性を感じられなければ帰属意識は弱くなり、場合によってはその組織・集団から離れていくかもしれません。
所属する組織・集団は複数である場合が多いと思いますし、ある組織・集団から離れた場合でも新たに所属する対象を見つけようと行動する傾向があるので、どこにも属さずに独りになってしまうことは稀だと思います。
しかしながら、組織・集団に所属することは人が生活を営んでいく上で欠かせないものの、トラウマ的な経験から組織・集団に所属することに嫌気がさしてしまったり、現在のような緊急事態の下にあったりして、一時的あるいは持続的に孤立・孤独な状況になってしまうことがあります。
短期間の孤立・孤独であれば、それほど大きな影響はありませんが、長期に渡る孤立・孤独は心身の健康にネガティブな影響を与えます。孤立・孤独の状態にある人はそうでない人に比べて、精神疾患、認知機能低下、心血管系の疾患などのリスクが高く、また死亡率が有意に高いといわれています。
2.孤立と孤独
孤立・孤独という言葉は似たような言葉ではありますが、人によって指し示す意味が異なる場合があります。色々な分け方がありますが、ここでは以下のような意味で用いたいと思います。
・孤立
所属する組織・集団の数、他者と接触する頻度や時間など、客観的に観察可能な社会的つながりや交流がない、あるいは少ない状態
・孤独
社会的な交流の有無にかかわらず、個人が主観的に「孤独である」と感じている状態
上記の意味で孤立・孤独を用いれば、4つのパターンがあることになります。
①孤立しており、かつ孤独を感じている状態
②孤立しているが、孤独は感じていない状態
③孤立していないが、孤独を感じている状態
④孤立しておらず、孤独も感じていない状態
①と④は理解しやすいものだと思いますが、②と③は少しわかりづらいかもしれません。
②は社会的な交流がないことに特別問題を感じていない状態です。実際に問題がない場合もあると思いますが、イライラして物に当たったり、アルコールやギャンブルを止められなかったりする行動の原因が孤独感にあるにも関わらず、孤独感に気づかずに対処もしていないとすれば、それらの行動を止めることは難しいかもしれません。
③は社会的な交流の機会は十分にあるにも関わらず孤独を感じている状態です。たとえば、自分が理解されていないとか、自分の居場所が見つけられていないなどと感じているとすれば、人々に囲まれて生活していても孤独感を抱くことがあります。
3.孤立や孤独をどのように考えるか
孤立・孤独に対処していくことは一筋縄でいかないことが多いと思います。たとえば、同じように①の状態にある人でも、普段④の状態にある人が一時的に①の状態になっているのか、それとも長期間①の状態にあるのかによって、どのように対処していくのかは異なります。前者の場合は何らかの方法で社会的交流をもつことが出来れば再び④の状態に戻るかもしれませんが、後者の場合は社会的交流をうまくもつことができず③の状態になってしまうかもしれません。
孤立・孤独が心身の健康にとってリスク要因であることを考えるなら、④が理想的な状態であるように思われるかもしれません。しかしながら、社会状況や自己状態の変化によって①~④の状態は流動的になりますし、④の状態を維持し続けることが難しい場合もあると思います。
また、前提が変わってしまいますが、孤立・孤独の状態が必ずしも健康にネガティブな影響を与えているとは限らない場合もあると思います。一時的にでも孤立した状態になることが自己の安定のために重要である場合もありますし、孤独の寂しさや辛さを抱えていくことが自己の成長につながることもあります。
そのため、孤立や孤独について考えていく場合に重要になることは、当人にとって独りであることがどのような意味をもっているのかを考えることだと思います。「孤立・孤独は解消すべき」という結論ありきで考えてしまうと、問題を抱えている当事者のニーズとズレが生じてしまうことが多いと思います。もちろん、孤立・孤独を解消することが必要な場合もあると思いますが、あくまで当事者のニーズを受けた上で結論をだすことが重要だと思います。
どのような過程を経てその状態になったか、その状態を本人(や周囲の人々)はどう感じ考えているのか、どんな状態になりたいと考えているのか、など状況を整理した上で問題に取り組んでいくことが重要です。
ただ、1人で問題を抱え続けることは辛いことです。孤立して孤独を感じている状況で人に助けを求めることは難しいかもしれませんが、周りに相談できる人がいないと感じているようであれば、私のところへ連絡をもらえればと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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