自己や対象を批判的に眺めること
1.判断材料の取捨選択
人は日々様々なことを判断しています。「今日は何を着ていこうか」とか「今日の夕飯はどうしよう」といった日常的なことから、「今後仕事をどう進めていくべきか」とか「将来の希望を叶えるためには今何をしたらいいか」といった中長期的なことまで。同時並行で考えなければならない事柄もありますし、期限が長いもの・短いものもあります。
何かを判断するためには、そのための判断材料・情報を集めることが必要になります。たとえば、着ていくものを決めるためには、季節や気温、流行や好みなど、人によって情報の数や種類は異なるかもしれませんが、いくつかの情報を参考にしながら着ていくものを決めると思います。
しかしながら、集めた情報の全てが判断のために使われるわけではありません。集めた情報の重要度は個々で異なるでしょうし、場合によっては情報同士が矛盾することもあると思います。そのため判断をする前に情報を取捨選択することが必要になります。着ていくものの例でいえば、季節が夏であっても肌寒い気温の日であれば長袖を着ていく判断をするかもしれません。
気温などの感覚的に判断できる情報であれば取捨選択はそれほど難しくないかもしれませんが、物事の良し悪しや真偽を判断するための情報の取捨選択は難しい場合が多いですし、判断に迷ったり誤った選択をしてしまうことがあるかもしれません。そのような時には情報について批判的に考えてみることが重要になります。
2.批判的思考
批判という言葉に対してネガティブなイメージをもっている人は少なくないかもしれません。相手を否定したり、場合によっては悪口についても批判という言葉を使っていることがあります。
しかしながら、本来、批判は否定的な意味に限られるわけではありません。デジタル大辞泉(小学館)によると
①物事に検討を加えて、判定・評価すること
②人の言動・仕事などの誤りや欠点を指摘し、正すべきであると論じること
となっており(③は割愛)、①の説明には肯定や否定といった意味は含まれていないと考えられます。
次に批判的に考えることについてですが、批判的思考の特徴として、①論理的思考の自覚、②探求心、③客観性、④証拠の重視という4つの特徴が挙げられています(平山・楠見,2004)。
①筋道を立てて考えることを意識すること
②多角的・多面的に考えること
③思い込みや先入観を混ぜないこと
④意見の確かさを説明できる根拠をしっかりと準備すること
というような特徴になるかと思います。
批判的思考は思考の開始から結論をだすまで過程が重要なのだと思います。人が何か考えようとする時には、結論が先にあってそれに合わせて情報を集めてしまう誘惑が常に存在しているので、そうならないためにこそ批判的思考が必要なのだと思います。
3.批判的思考の重要なポイント
批判的に物事を考えることは自分の考えを整理したり、情報の取捨選択をしたりしていく上で重要になりますが、実際に批判的思考をするために必要なことを考えると、3つのポイントがあるのではないかと思います。
第一に、批判する対象について理解を深めることです。対象を理解しないまま批判をしようとすると的外れな意見になってしまったり、ただの非難になってしまったりすることは往々にしてあると思います。
第二に、思考過程や結論を他者に説明したり、他者と共有したりすることを念頭に置きながら物事を考えることです。批判的思考の特徴を見てみると、自分の思考が独りよがりなものとならないように、自分の中に他者の視点を取り入れることを含んでいます。そのためには他者を意識しつつ思考することが重要です。
第三に、自分自身に対する批判的な視点をもつことです。第二の点と重なる部分でもありますが、批判は自分ひとりが理解できればいいというものではなく、他者と共有できること、さらには批判対象が人である場合、その相手が理解できることが重要だと思います。そのためには自分を批判的に見ることはとても重要な要素です。
批判的思考は自分の意見をもったり、何らかの結論をだしたりするために重要な過程ですが、個人的な考えではありますが、意見が対立している場合の相互理解や対立を解消して相互が納得できる結論をだすために重要な思考方法だと思います。
もちろん、あらゆる対立を解消できる、とまでは考えませんが、誤解や偏見に基づく対立については解消できる可能性のあるものが少なくないように思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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