神経発達症の種類と特徴
1.神経発達症/障害(発達障害)とは
近年、発達障害という言葉がメディアでも見られるようになり、言葉と理解が徐々に広がってきているように思います。特にアスペルガーやADHDという言葉を聞いたことのある人は多いのではないでしょうか。
ただ、発達障害全般となると知らない名称・特徴も結構あるかもしれません。そこで今回は『精神疾患の診断と統計マニュアル第5版(DSM5)』(アメリカ精神医学会)における発達障害の種類と特徴について紹介していきます。
発達障害は発達期に生じる(主に12歳以前)発達の偏りが生活上の困難をもたらしている状態とされています。この点は発達障害のタイプによらず共通になります。
また、正式な診断名は「神経発達症(障害)」となります。この場合の神経とは、主に脳機能のことを指しています。
2.神経発達症の種類と特徴
DSM5では、神経発達症は全部で8のカテゴリーに分けられています。
1.知的能力障害群(Intellectual Disabilities)
2.コミュニケーション症群(Communication Disorders)
3.自閉スペクトラム症群(Autism Spectrum Disorders)
4.注意欠陥・多動症群(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorders)
5.限局性学習症群(Specitic Learning Disorders)
6.運動症群(Motor Disorders)
7.チック症群(Tic Disorders)
8.他の神経発達症群(Other Neurodevelopmental Disorders)
社会性・コミュニケーション発達の領域、知的発達の領域、運動発達の領域と発達の幅広い領域に渡ってカテゴリーが設けられています。各カテゴリーの特徴が単独で見られる場合もあれば、いくつかのカテゴリーの特徴が併存している場合もあります。
少し長くなりますが、簡単に特徴を紹介していきます。
2-1.知的能力障害群
知的機能の発達が平均的な発達水準と比べて遅れており、年齢相応の身辺自立や社会的適応機能に制限がある病態です。
重症度の判定について、以前は知能検査におけるIQを基準として行われていましたが、現在では実際の生活状況を考慮することがより重要になっています
2-2.コミュニケーション症群
言葉の使用と理解、状況に応じたコミュニケーションの困難など、主に言葉を使うことと言語的コミュニケーションに制限が見られる病態群です。
①言語症、②語音症、③小児期発症流暢症、④社会的コミュニケーション症という4つの下位分類があります。知的発達や運動発達の遅れ、聴覚障害などの問題がないにもかかわらず、言語発達が遅れている場合にこれらの診断が適用されます。
2-3.自閉スペクトラム症群(ASD)
従来、自閉性障害・アスペルガー障害・広汎性発達障害などに分けられていた病態が自閉スペクトラム症という名称にまとめられました。スペクトラムとは、自閉的特徴が診断を受ける人だけでなく、一般集団にも同様の特徴が連続的に見られるということです。
自閉スペクトラム症は①社会的コミュニケーション領域、②限局された行動・興味の領域、の両方の困難が発達早期から見られ、それが社会的活動に支障を及ぼす場合に診断されます。
2-4.注意欠陥・多動症(ADHD)
意図的な注意の分散や集中の困難さや落ち着きなく動き回ってしまう特徴が見られる病態です。「不注意」と「多動・衝動性」の片方、あるいは両方の特徴が6ヶ月以上の期間に渡って、2つ以上の場所(たとえば、家庭と学校など)で見られる場合に診断されます。
「多動・衝動性」の特徴は周囲からも目立つため気づかれやすいですが、「不注意」の特徴だけがある場合は周囲からわかりにくく気づかれないこともあります。
2-5.限局性学習症
全般的な知的発達に遅れは見られないが、読むこと・書くこと・計算推論することのいずれかひとつ以上の習得と使用に困難が見られる病態です。
学校現場では、学習の困難を伴う場合があり、知的発達の遅れと混同されてしまうこともあります。また、他の神経発達症と併存しているケースでは、限局性学習症の特徴が気づかれにくくなることがあります。
2-6.運動症群
運動症群は常同運動症と発達性協調運動症に分けられています。
常同運動症は、手を震わせる、身体を揺するなど、同じ行動が無目的(に見える)に繰り返されてしまうことで日常的活動に支障がでてしまう病態です。
発達性協調運動症は、物をつかむ、はさみを使うなど、複数の感覚や筋肉を連動させる行為の発達が年齢に比べて遅く、そのために日常的活動に支障がでてしまう病態です。一般的には極端な不器用さと周囲からは見られることが多いです。
2-7.チック症群
チックとは、突発的に一定のリズムで繰り返される不随意(意図しない)運動および発声のことです。まばたきや首ふり、反響言語(相手の言葉を繰り返す)など、様々なタイプの運動チック・発声チックが知られています。運動・発声両方のチックが1年以上続いている場合には、トゥレット症という診断がつけられます。
2-8.他の神経発達症
神経発達症の特徴は見られるが、1~7の神経発達症の診断基準を満たさない場合に、他の神経発達症の診断が用いられます。
3.困りごとを中心に考えてみる
以上、かなり簡単ではありますが、神経発達症の種類と特徴について述べました。
発達障害という言葉が広まったことで、もしかしたら自分の子どもも、あるいは自分も発達障害なのではないか、と考えて不安を感じる人が増えているかもしれません。ただ、特徴があるから神経発達症である、というわけではなく、どんな生活を送っているかということも重要な判断材料になります。
言い方を変えると、生活を送ることが困難になるほどの支障がなければ、あえて障害と考えるよりも発達の個人差や個性としてとらえる方が今後の生活を送る上でも有益だと思います。
ただ、そうは言っても発達の凸凹があれば、苦労をすることはありますし、不安になってしまうこともあると思います。
以前に比べて発達相談や育児相談のできる窓口は増えていますし、保健センターなどでは親子教室を定期的に開催しています。不安のある時にはそのような相談機関で相談をしながら、必要があれば医療機関を受診してみるのが良いと思います。
不安があり、神経発達症かどうかをはっきりさせるために受診をしたいという思いをもつ人もいると思いますが、「診断を受けたけれど、結局どうしたらいいかわからない」と悩んでいる人もいました。大事なことは困っていることは何か、どうすれば困りごとに対処していくことができるかを考えることだと思います。そして、1人で悩んでも答えが出ない場合は相談機関に相談をしてみてください。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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