生涯発達の視点
1.生涯発達とは
発達や成長という言葉で子どもを連想する人は多いのではないでしょうか。確かに発達研究は子どもを対象としたものが盛んですし、年齢が進むほど心身の機能は低下していくので「大人の発達」と聞いてもピンとこない人が多いかもしれません。
人は生まれてから死に至るまで、変化を続けていきます。乳幼児期から青年期における変化ほど大きなものではありませんが、成人期以降老年期まで少しずつでも変化していきます。そうした変化に対して「発達」の言葉を用いているわけですが、ただ変化を発達と呼ぶだけでは心身機能の衰えとの違いがわからなくなってしまいます。
ここでは発達を簡単に「環境に適応する力をもつこと、および環境に適応すること」と考えてみます。
環境とは、自分が置かれた生活状況、社会状況です。そして適応とは、その状況に合わせて自分を変化させたり、自分に合わせて状況を変化させることです。
生まれたばかりの乳児はまだ環境に適応する力が限られています。そのため、たとえば泣くことによって養育者の行動を促し、世話を受けることによって空腹を満たしたり不快感を除去したりして自分の状態を変化させます。世話を受けながら筋骨格系・神経系の成熟や学習によって自身を発達させていきます。
大人の場合、それまでの発達によって適応するための力は蓄えていますが、適応する力をもっていることと環境に適応することはまた別の問題になります。新しい環境に適応するためには学習や問題解決をしていくことが必要になります。たとえば、職業生活をリタイアした人は職業生活のない新しい環境に適応していくことが必要になります。そのためにはその個人が変化していくことが重要になります。そのような変化が生涯続くことを強調するのが生涯発達の観点になります。
2.生涯に渡る変化
生涯発達という言葉は使っていませんが、エリク・エリクソンやロバート・ハヴィガーストは1940~50年代に乳児期から老年期までのライフサイクル理論を提示していました。生涯に渡る発達という考え方自体は存在していましたが、注目されにくいのは「発達」と一括りにできるような共通性を見つけるのが難しいためかもしれません。
発達のイメージを線グラフで考えてみると、乳児期から成人期までは右肩上がり、それが平行に維持されつつ、壮年期・老年期では右肩下がりになっていく、というような山なりのイメージをもっている人も少なくないと思います。
しかし、生涯発達の視点で考えてみると、線グラフには山があったり谷があったり、1本ではなく複数本の線が引かれていたりするグラフをイメージできるのではないでしょうか(わかりづらい、かな?)。
高齢になってそれまで出来ていたことが出来なくなることはありますが、それは若年の場合も同様にあると思います。ちょっと極端な例ですが、赤ちゃんの時は泣くことで色々な世話をしてもらうことが出来ますが、20歳の人が泣くことで世話をしてもらうというのは難しいでしょう。
発達を、個人の心身の成熟と環境への適応という観点からみると、状況が異なれば発達の仕方も個々で違いが現れてきますし、そうした違いが個性になっていくのだと思います。
人の一生を四季にたとえることがあります。「青春」という言葉はよく使われますが、その後に「朱夏」「白秋」「玄冬」と続きます。青春~玄冬の順で年齢が重なっていくわけですが、各年代にも四季があるとすれば、子ども時代の玄冬や高齢になってからの青春という考え方も出来ると思います。もちろん同じ青春でも年齢が違えば趣きも違ってくると思いますが。
生涯発達の視点は、若年を変化する時代、老年代を固定した時代と捉えずに、生涯に渡って変化が続いていくと考える上で重要な視点だと考えています。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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