発達の準備性
1.発達の前段階
子どもは日々成長を続けていますが、ある発達上の達成がなされる時には、その前提となる状態が準備されていることが必要になります。
たとえば、幼児が歩けるようになるためには立ち上がれることが必要です。立ち上がるためにはお座りが出来ることが必要ですし、お座りが出来るようになるためには首が据わっていることが必要です。また、それらに伴う筋骨格系や神経系の成熟も必要条件になります。
身体的な発達を例えに用いましたが、心理的な発達が達成される場合においても同様に前提となる状態が準備されています。
目に見える発達が起こる時には、その発達を可能とする準備が子どもの中で少しずつ整っていき、その準備がある程度整った状態になると目に見える行動となって表に現れてきます。
子どもの中で準備・発達が進みつつある部分に着目することは、子どもの「これからの」発達を知る上でとても重要なことです。
2.発達の最近接領域
では、準備・発達が進みつつある部分というのはどのように知ることができるでしょうか。進みつつあるということは、言い方を変えると、まだ1人では出来るようになっていないということです。そのため、現時点の子どもの発達水準を知るだけでは、準備・発達が進みつつある部分を知ることはできません。
準備・発達が進みつつある部分を知るためには、子どもの活動を見ていくことが大事になります。子どもにとって独力では出来ないことの中には、他者と一緒なら出来ることがあります。そのような他者と一緒なら出来ることが発達が進みつつある部分であり、独力で出来ることと、他者と一緒なら出来ることの間の領域は「発達の最近接領域(Zone of Proximal Development:ZPD)」(Vigotsky,1933)と呼ばれています。
ZPDは発達の個人差を考える上でとても重要なものです。なぜなら、現時点で同じ発達水準にある子どもたちであっても、ZPDに違いがあれば、それぞれの子どもに適した教育的な働きかけが異なるためです。
ZPDを把握することは子どものこれからの発達に関する見通しを持つ上で有用なことです。見通しを持ちながら子どもと関わっていくことで、よりその子どもに適した働きかけができるのだと思います。
3.大人の場合
ZPDは子どもの発達を想定している概念なので、そのまま大人の発達にも当てはめることには無理があるかもしれませんが、発達しつつある領域という考え方は大人の場合であっても有用であるように思います。
当たり前ではありますが、何らかの目標が達成される時、何もしていないのにいきなり目標が達成されるということはほとんどないでしょう。そこに至るまでにはいくつかの積み重ねがあり、その積み重ねの上に目標の達成があります。
その積み重ねをしていく際に、自分の中でどんな準備が進んでいるのかを知ることは状況を整理するのに役立つと思います。独力で出来ること、独力では出来ないが他者の助力があれば出来ること、すぐに取り掛かることは難しいことなど、自分の状態や状況を整理することができれば、現時点で自分が取り組むべき事柄が明確になりやすいのではないかと思います。
子どもであっても大人であっても見通しを持つことはこれからのことを考える上で有用なことです。もちろん、常に見通しを持って行動ができるとは限りませんし、見切り発車になってしまうこともあるかもしれませんが、繰り返し自分自身について検討してみることが大事だと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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