自分の欲求との付き合い方
1.欲求とは
生きていく上で「こういうことをやりたい」とか「あういうものが欲しい」など、何かを望むことは日常的なことです。このような何を望む心の働きを心理学では「欲求」と呼んでいます。欲求は人が行動を起こすための力であり、人のあらゆる行動に欲求が関係しているため、中には特別意識しないような欲求もあると思います。
欲求をいくつかの種類に分類する試みは多くの人によってなされていますが、その分類の有名なものとしてはマズローの「欲求階層説」があります。
マズローは人の欲求を以下の5つに分けました。
1.生理的欲求
2.安全欲求
3.社会的欲求
4.承認欲求
5.自己実現欲求
これら5つの欲求は階層を成しており、1の欲求がある程度満たされると2を満たしたいという欲求が高まり、2の欲求が満たされると3の欲求が・・・というように、1から5に向かって生存に必要な欲求が満たされると、より社会的な欲求が高まっていくと考えられています。
欲求は生存に必須のものであったり、生きていく意味を持つためのものであったりするので、基本的にはそれが満たされることが重要になりますが、自分が置かれた状況によっては全ての欲求が満たされるとは限りません。
※5つの欲求について
マズローが挙げた5つの欲求について簡単に説明します。
1.生理的欲求
生理的欲求は食欲、睡眠欲、性欲など、身体の働きに基づいた欲求です。この欲求は生存に必須の欲求であり、欲求が満たされない場合は生存そのものが危うくなってしまいます。生存の基礎となる生理的欲求が満たされることで、以降の欲求の意欲が高まっていきます。「腹が減ってはいくさはできぬ」というわけですね。
2.安全欲求
安全欲求は生存の可能性を高めることを求める欲求です。安全が満たされないことが生存を危うくする直接の原因にはなりませんが、たとえば「住む家がある」「衣服が揃っている」ことで天候が変化してもより安定した環境で生活することができます。この欲求は生きていくために安全・安心・安定を求める欲求になります。
3.社会的欲求
社会的欲求は他者との関わりや集団への所属を求める欲求です。人は社会的な動物であり、基本的に群れで生活することを志向する傾向があります。社会の中で生活することを求めることで物質的・心理的な充足感を得ることができます。
4.承認欲求
承認欲求は他者からの注目や称賛を求めたり、自分で自分を認めたいという欲求です。他者との関わりだけでなく、より積極的な意味で自分が評価されること、自分がユニークな存在として自他から認められることで承認欲求が満たされることになります。
5.自己実現欲求
自己実現欲求は自分が抱いている理想に自分を近づけていきたいという欲求です。理想と現実はズレが存在するものですが、理想の自分に向かってそのズレを少しずつでも小さくしていくことで、より自分らしく生きていると感じられるようになります。
2.欲求の抑制と心身の健康
欲求を満たすことが難しい時、人は色々な反応をします。ある人は自分にそのような欲求があることに気づかないように振る舞うかもしれませんし、ある人は今は我慢して近い、あるいは遠い将来に欲求を満たそうとするかもしれません。欲求を満たすことは困難な時の反応は人によってかなり多彩で、その人の性格・傾向との関連が強いものです。
欲求の満足を難しくする要因は、たとえば空腹を感じているが食べるものが今はないなど物理的な要因による場合ももちろんありますが、現代の日本での生活においては、大抵の場合心理・社会的な要因、すなわち個人の抵抗感や他者との関係などによる要因が多数を占めると思います。
たとえば、空腹を感じていて空腹を満たすためのお弁当も持っているが、仕事中・授業中などの理由でお弁当を食べることができないということがあります。この場合、お弁当を食べることが物理的に不可能ということはありませんが、社会的観念に照らして考えると空腹といえどもお弁当を食べることを躊躇してしまうのではないかと思います。
このように抱えている欲求を即時的に満たすことができない場合はその欲求満足を延期したり形を変えてみたりすることが必要になります。空腹であれば決められた休憩時間まで待っていればいいことですが、欲求の特徴によってはそれを満たすことが難しい場合もあります。
上で述べたように、欲求が満たされない場合の対応方法として延期したり無視したりといった反応が見られますが、耐えることができる範囲を超えて欲求を満たすことができない状態が続いてしまうと心身の健康が損なわれ、場合によってはうつや不安などの症状があらわれることもあります。
そのため、自分のが望んだ完璧な形でなかったとしても、なんらかの形で自分の欲求を部分的にでも満たしていくことが重要になります。
3.欲求を満たす選択肢
欲求は満たされることが重要ですが、あらゆる欲求が完璧に満たされるとは限りません。むしろ自分が望んだ形とは異なる形で部分的に満たされることの方が多いかもしれません。
欲求が満たされるか、満たされないかの二択になってしまうと満足か不満足かのどちらかになってしまい、満足できれば問題はないのですが、不満足が続いてしまうと先述のように健康が損なわれる可能性が出てきてしまいます。
そのため、自分の欲求を満たすための方法を複数用意しておくことが大事になります。たとえば、「友人と話がしたい」と思っていたとします。この時その欲求を満たすための方法としては「直接会う」「電話をする」「LINE等で文字のやりとりをする」などいくつかの方法が考えられます。
また、「友人と話がしたい」という欲求を掘り下げてみた時に「楽しみたい」とか「寂しい」といった感情があるかもしれません。その場合、「友人と話をする」という選択肢だけでなく、「趣味に興じる」「繁華街へ出かける」なども選択肢に入ってくるかもしれません。
欲求をどのように満たすかということや、何故その欲求を持っているのかについて考えてみることで、満たすことができない欲求は少なくなるのではないかと思います。もちろん望んだ形とは異なる形で欲求を叶えることは多かれ少なかれ不満足感を抱くことにつながるかもしれませんが、そういったフラストレーションをどう抱え、対処しくかということも重要な視点だと思います。このことはまた別のブログ記事で検討してみたいと考えています。
欲求は自然と湧き起こってくるものなので、たとえ不快に感じる欲求であったとしても、感じないようにしたり排除したりといったことはとても難しいものです。もしかしたらそんなことは不可能かもしれません。
そのため生きていく上で自分の欲求とどのように付き合っていくか、ということが心身の健康を向上させていくためにも、また生活を充実したものにするためにも大事なことだと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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