情報への感度
1.情報の取捨選択
現代は情報化社会、あるいは情報社会と言われています。特にスマートフォンが普及してからは人々が得られる情報の量は圧倒的に増え、情報の重要性も増しています。何かをしようと考えた時、重要なイベントの時だけでなく、それこそ食事や旅行などの際にも情報を調べてから出かける人が多いのではないかと思います。
ただ、世の中を飛び交う情報の量は格段に増えていますが、人が処理できる情報の量もそれに合わせて増大しているわけではありません。情報を得る方法や情報の使い方は人それぞれのやり方で適合させていくことができますし、情報の取り扱いが向上すれば処理できる量も増えると思いますが、やはりどうしても限界があるものです。
そこで、これは昔も今も変わらないことですが、人は意識的・無意識的に情報の取捨選択を行っています。自分の中に情報の重要度や優先度があり、自分と関連が強いものは意識に残るように、関連の薄いものは意識に残らないように選択を行っています。それによって情報量に圧倒されずに処理していくことが可能になります。
当然ながら情報の取捨選択によって取り入れる情報には偏りが生じます。偏りは個人の重要度・優先度からも生じますが、それだけでなく個人の認知特性や志向性、心理的死角などの要因によっても生じます。偏りがあることがすぐに問題になるとは限りませんが、偏りが大きくなればなるほど判断を誤りやすくなったり他者と認識の差異が生じてくるかもしれません。
常日頃からバランス良く情報を集めることができればそれに越したことはないのですが、バランス良くというのも意外と難しいものなので、偏りの可能性について気づけることが大事になるのではないかと思います。
情報の偏りに気づくためには、自分が情報を取り入れる際の死角について考えてみることが役に立つと思います。
※死角は「直接見えない範囲」という視覚に関して使う言葉ですが、今回のブログ記事では視覚に限定せず「認識されていない箇所・範囲」の意味で使っています。
2.五感の死角
人は外界の情報を感覚器官、いわゆる五感を通して取り入れています。ただ、感覚器官で捉えられた情報の全てが認識されているわけではなく、その一部が注意や集中といった作用によって実際に認識されるようになります。
また、当然ながら見えない場所にある物や聞こえないくらい小さな音などは感覚器官で捉えることができないので認識することはできません。
このような感覚器官にとっての死角は生活の中に無数にありますが、たとえば、見る場所を変えることでそれまで見えなかった範囲が見えるようになりますし、それによって自分の死角をつぶすことができます。
複数の視点でものを見ることは、上記した「バランスよく情報を集める」ことと言えると思います。感覚器官の場合、自分の死角に気づいてそれをつぶすことは比較的やりやすいですが、心理的な死角の場合ではこれがなかなかうまくいかないことがあります。
3.心理的な死角
感覚器官で捉えた情報の全てが認識されるわけではないと述べましたが、この点に心理的な作用が関係してきます。注意・集中だけでなく、情報の重要度・優先度、興味・関心、その時の心理状態などが複合的に作用して、ある情報が認識されたりされなかったりします。
たとえば探し物をしている時、自分のすぐ近くにその物があって視界にも入っていたはずなのにしばらく見つけられなかった、という経験はないでしょうか。
このことのひとつの可能性として、探すことに意識を集中し優先度、関心が高かったとしても「そこにあるとは思っていなかった」ことによってその物を認識できなかったと考えることができます。この場合、「そこにあるとは思っていなかった」ことが心理的な死角になります。
視覚的な死角の場合には、自分が見えていない部分に気づくことは容易ですし、どこに移動すればそこが見えるかということもわかりやすいですが、心理的な死角の場合、みえていないことに気づくのが難しいことも多いですし、気づいたとしても、ではどうすればみえるようになるかわかりづらいことも少なくありません。
そのため、心理的な死角が存在することを前提に考えておき、必要に応じて他者から意見をもらうことが大事になると思います。
4.その時の気分状態の影響
心理的な死角は個々人のもつ身体的・心理的特性によって、ある程度の傾向性はありますが、その時の気分状態により強く影響を受けるように思います。
楽しい気分の時には楽しくなる情報ばかりに意識が向き、不安な気分の時には不安になる情報ばかりに意識が向かいやすくなります。
特にここ1年ほどはコロナ感染の状況がずっと続いていますし、多少の慣れもあるかもしれませんが、多かれ少なかれ誰もが不安を感じていると思います。
特に最近はコロナワクチンの様々な情報が飛び交っていますし、不安な状態でその情報を集めていると、自分の不安感をより高めてしまうような情報ばかりに目がいってしまう人もいるかもしれません。
ただ、ワクチンの使用はメリット・デメリットがありますし、不安を感じる情報もあれば、安心を得られる情報もあると思います。
不安な時には安心を得られる情報は死角に入りやすいので、そのことを意識しつつ、総合的に情報を集めて、自分が摂取するかどうかを判断できればよいのではないでしょうか。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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