頭の中を整理する
1.情報収集とその分析
前々回のブログ、情報への感度では、外部の情報を取り入れる際、死角の存在や心理的作用によって集める情報に偏りが生じることを書きました。
集める情報が偏ることは自分がどう考え行動すべきかという判断に影響し、偏った行動を繰り返してしまったり誤った行動をしてしまったりする可能性を高めます。そのため情報が偏ることを前提として、意識的にバランス良く情報を集めることが大事なことと書きました。
ただ、行動の偏りや誤りは情報の偏りのみによって起こるわけではなく、集めた情報をどのように処理していくかによっても起こります。情報をバランス良く集めることと同時に、情報を分析する過程で思い込みや先入観の影響を少なくすることが適切な判断や行動のために重要となります。
今回は情報を分析するために必要となる情報の整理について考えたいと思います。
2.客観的情報と主観的情報
情報は大きく分けて、客観的情報と主観的情報の2つがあります。
客観的情報とは、自然環境で起こる物理現象や世の中で起こる出来事などです。客観的情報の特徴は、表現の仕方に違いがあったとして、基本的には誰でも同じ認識に至るということです。たとえば、ここに木が立っていると言った場合、視覚的に認識できなかったとしても、そこに木があることは誰にとっても変わりません。
次に主観的情報とは、個人が抱いている思考や感情、身体的な感覚などです。主観的情報の特徴は、客観的情報とは逆に誰もが同じ認識に至るとは限らないということです。たとえば、パーティに参加していて楽しいと感じるかつまらないと感じるかは人によって異なりますし、他者が楽しい・つまらないと感じていることを知ることや共感することはできますが、他者の感覚を自分がそのまま感じることはできません。
どの情報により重きが置かれるかは個々人の傾向によって違いがありますし、状況にも左右されますが、人は客観的情報と主観的情報を総合・統合して物事を判断し行動しています。
2-A.例示
ここで例文を挙げて、それを客観的情報と主観的情報に分けてみたいと思います。
”ここにリンゴが2つある。ひとつは赤いリンゴで、よく熟しており甘くて美味しそうなリンゴ。もうひとつは青いリンゴで、熟しておらず渋くて美味しくなさそうなリンゴである。私は赤いリンゴを選び食べることにした”
まずは客観的情報から抜き出してみましょう。
「リンゴが2つある」ことは誰にとっても変わらないことなので客観的情報です。「赤いリンゴ」と「青いリンゴ」という色の情報も人によって表現に違いはあるかもしれませんが、基本的には他者と共有可能と考えられるので客観的情報と捉えてよいと思います(※色覚や視力に個人差があることを考えれば厳密には主観に分類されるかもしれませんが、ここではひとます置きます)。
次に主観的情報を抜き出してみます。
「熟しており」「熟しておらず」はリンゴの色から推測した個人の思考になりますので主観的情報になります。「甘くて」「渋くて」は熟しているかどうかの推測から判断した個人の思考なので主観的情報です。「美味しそう」「美味しくなさそう」はリンゴの味に対する個人の味覚なので主観的情報です。
最後の部分は、個人がそう決断しただけであれば主観的情報ですし、実際に行動に移したのであれば他者からも観察可能なため客観的情報になります。
3.主観的情報の妥当性
上段では例文を基に客観的情報と主観的情報を分けてみました。例文の場合、客観的情報は「赤いリンゴと青いリンゴ、2つのリンゴがある」ことだけが客観的情報であり、情報の半分以上は主観的情報でした。
「私」は「甘くて美味しいリンゴ」を食べたいと思い「赤いリンゴ」を選んだわけですが、この判断・行動の妥当性について考えてみたいと思います。
「私」の思考の流れは、
・赤い(事実)→熟している(はず)→甘くて美味しい(はず)→選んで食べる(判断・行動)
・青い(事実)→熟していない(はず)→渋くて美味しくない(はず)→選ばず食べない(判断・行動)
となります。(はず)とした箇所は「私」の主観です。
まず色で成熟具合を推測していますが、これが正しいとは限りません。赤色が強い場合は熟し過ぎている可能性がありますし、リンゴの種類によっては青い状態がちょうど良い熟れ具合かもしれません。
次に推測した熟れ具合から味を想像していますが、熟しすぎているとすればパサパサして味も薄く美味しくないでしょうし、熟した青りんごであれば甘くてジューシーで美味しく食べられます。
つまり実際にリンゴを食べてみた結果
・赤い→熟しすぎていた→パサパサして美味しくない→選んで失敗
・青い→熟していた→甘くてジューシーで美味しい→選んで満足
となる可能性があるわけです。
甘くて美味しいリンゴを食べようと赤いリンゴを選んだのに、主観的情報に頼った結果、実際には甘くないし美味しくないリンゴを食べてしまった、ということになるかもしれません。このような結果を避けるためには、主観的情報の妥当性を検証してみることが重要です。
例文の中の「私」は主観的情報を用いて判断した結果、美味しいリンゴを食べることができませんでした。主観的情報は言い換えると確実性が不明な情報と言えます。確実性が不明な情報に基づいて行動すれば、当然ながら自分の目的を達成できるかどうかもわからないことになります。
目的達成の可能性を少しでも高めるためには主観的情報の確実性を高めること、主観的情報を客観的情報に近づけることが重要になります。リンゴの例を考えれば、リンゴの成熟や種類について調べることが美味しいリンゴを食べる、あるいはリンゴを美味しく食べるという目的達成につながると思います。
主観的情報の妥当性を検証するためには、まず自分が持っている情報の中でどれが主観的情報なのかを判別しなければなりません。そのために情報を客観と主観に分けて考えることが必要です。
4.重要な判断に備えて
人は日々色々なことを判断して行動していますが、どちらのリンゴを選んで食べるか程度のことであれば、美味しければそのまま食べればいいし、美味しくなければ別の物を用意すればいい話です。どうしたら美味しく食べられるかを考えるのも良いかもしれません。
ただ、時に自分や他者の命を左右するような判断をしなければならないことがあるかもしれません。
1週間ほど前の新聞記事ですが、雲仙普賢岳火砕流30年(産経)という記事がありました。その時現場にいた記者の方はそれまでの噴火では定点を越えていなかったことで「ここまではこない」と思い込んでしまったようです。おそらくそう考えた人はこの記者の方だけではなかったのだと思いますが、その結果火砕流によって多大な被害が起こってしまいました。
このような重大な結果を引き起こすような判断を求められることは少ないかもしれませんし、あらゆる出来事に関して毎回情報の整理を行っていくことは、時間的にも労力的にも難しいと思います。
ただ、自分にとって重大な判断をすることは人生の中で少なからずあると思いますし、その時に備えて情報を整理する練習をしておくことで、いざという時により適切な判断を下すことができるのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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