認知症の新治療薬
1.アルツハイマー病の新しい治療薬
先日、日本のエーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の治療薬「ADUHEL(一般名:アデュカヌマブ)」が米国食品医薬品局の迅速承認を取得したというニュースが発表されていました。
以下はエーザイのニュースリリースです
ADUHELM™(アデュカヌマブ) アルツハイマー病の病理に作用する初めてかつ唯一の治療薬として米国FDAより迅速承認を取得
アルツハイマー病の治療薬として承認されていたものは「ドネペジル」などいくつかありましたが、それらは脳内の神経伝達物質を制御することによって認知機能の維持・改善をすることが目的であり、アルツハイマー病の進行を遅らせることは出来ても進行を止めることまでは至っていませんでした。
今回の新薬はアルツハイマー病を進行させる原因と考えられている『アミロイドβ』のプラーク(凝集したかたまり)を減少させることによって、病状の進行抑止など、より根本的な治療効果を目指して開発されたものです。
アルツハイマー病は進行性の疾患なので、新薬によって病状の進行を抑止することができ、症状の改善も期待できるとすれば、アルツハイマー病を抱える人の健康を取り戻すことができるだけでなく、介護を行う家族や支援者の負担軽減にもつながります。
ただ、現状では薬の有効性について、まだ証明が不十分な点もあり、今後も有効性に関する研究を積み重ねていくことが求められています。
2.アルツハイマー病のメカニズム
アルツハイマー病が発症する原因については今もまだわかっていませんが、アミロイドβと呼ばれるたんぱく質が脳内で蓄積していくことが発症と深く関わっていると考えられています。
アミロイドβが脳内で異常に蓄積していくことによって、脳内の神経細胞が障害を受け、記憶や見当識、判断力などの認知機能の障害と、それに伴う行動面・心理面の症状が見られるようになります。さらに神経細胞の障害が進んでいくと脳が委縮していき、コミュニケーションや身体的な活動が困難になり、ほとんど寝たきりの状態になってしまうこともあります。
また、アルツハイマー病の発症と直接的に関連しているかはわかっていませんが、脳血管系の疾患や生活習慣病などが認知機能の低下と関係している可能性が指摘されています。
アルツハイマー病の発症にはまだ不明な点もありますし、加齢や遺伝などコントロール不可能な要因もありますが、心身の健康な状態を保っていくことが発症のリスクを減らすために重要なことです。
3.新薬の感想
アルツハイマー病の発症にはアミロイドβの蓄積が関わっており、アデュカヌマブはそのアミロイドβを減少・除去することで症状の改善や病状の進行を抑制することを目的としています。
ただ、アミロイドβを減少させることが主な薬効だとすれば、病気が進行して神経細胞の障害や脳の萎縮が生じている状態に対しては効果が限定的なものになるかもしれません。進行の抑制には効果があっても症状の改善には効果がない可能性があります。
実際に承認前に行われた試験でも、改善が確認されたデータと確認されなかったデータの両方の結果が出ているようです。
新薬にどんな有用性があるのかについては今後の研究を待たなければなりませんが、アミロイドβを減少させることが病状の進行抑制につながるとすれば、認知症状の改善を目的とする既存薬とは役割が異なることになりますし、病状に進行に応じた使い分けや新薬と既存薬の併用が効果的であるかもしれません。
4.コメディカルの役割
仮に感想で述べたような効果が新薬にあるとすれば、今まで以上に早期発見・早期治療が重要になりますし、アルツハイマー病の患者さんに関わるコメディカルの役割の必要性も増してくるように思います。
アルツハイマー病を含む認知症では、徘徊・多動など行動面の症状や不安・抑うつなど心理面の症状が現れますが、年齢や副作用を考えれば、症状の全てに薬物治療で対応していくことは現実的ではありませんし、たとえ薬物療法を行う場合であっても、薬物を用いない治療を並行して行っていく必要があります。
アルツハイマー病の病状が高度の状態まで進行してしまった場合は働きかけ自体が困難になってしまいますが、進行抑制によって軽度~中等度に留まるとすれば、身体的なリハビリテーションや心理的なケアを行うことで、日常生活を行うための機能を維持していくことができるかもしれません。
5.高齢社会
高齢者の人数は今後も増えていくと想定されていますが、認知症が加齢と関係が深いことを考えれば、認知症に罹患する人も増えていくと考えられます。
そのような社会の中では、認知症の患者さんの治療やケアの必要性・重要性はさらに高まっていくと思います。
アデュカヌマブはアルツハイマー病の治療薬ということで、他の認知症の治療には適用されないかもしれませんが、アルツハイマー病は認知症の6~7割を占める疾患であり、新薬の有用性が証明され日本でも承認されれば、アルツハイマー病の患者さんだけでなく、その家族にとっても有益なことだと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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