信頼関係の構築
1.人間関係における信頼
人は集団で生活を営んでおり、他者とのつながりは人が生きていく上でとても重要なものです。相手とのつながりが心地よいものであれ、心地よくないものであれ、その相手との関係が必要なものであれば関係を続けていかなければならないでしょう。
人と人を結び付けているものは情であったり利害であったりしますが、どちらの場合であっても相手と一定の信頼関係をつくれていることが関係を継続していくためには必要なことだと思います。
お互いに信頼することが難しければ、一緒にいると不安を感じると思います。普段通り振る舞うことも難しいでしょうし、落ち着かない気持ちが続くと心理的な健康にもマイナスになります。
相性などの問題で信頼関係をつくることが難しい場合もあるかもしれませんが、全面的にではないにせよ、信頼を置けるポイントを見つけてその中で関係をつくっていくことはできるのではないかと思います。
信頼できるかできないか、0か1かではなく、どの程度信頼できるかによって相手との関係性も異なってくるのではないでしょうか。家族、友人、同僚など、それぞれに信頼感をもっていたとしても、それがどのような性質の信頼性かということは違っていると思います。
たとえどんな関係であろうともお互いに信頼を置けることは関係を続けていく上で重要なことですが、ではその信頼とはどのようなものでしょうか。人のどのような行動や性質が信頼につながるのか、今回はそれについて考えてみます。
2.モノの信頼性
人間関係の話からは少しずれてしまいますが、信頼という言葉は必ずしも人と人との関係だけに限って用いられる言葉ではありません。たとえば、製品や検査などに対して「信頼性の高い製品」とか「信頼性の高い検査」など使われています。
この場合の信頼性とはどんなことを意味しているのでしょうか。製品の信頼性を例に考えてみましょう。
世の中には様々な製品がありますが、求められることは共通しています。すなわち、機能性・耐久性・安全性です。これらを高い性能で備えていることが信頼性の高い製品ということになります。
たとえば、洗濯機の信頼性を考えた場合、汚れをしっかりと落とすこと(機能性)、壊れず長く使えること(耐久性)、事故防止機構が備わっていること(安全性)のそれぞれを高い水準で満たしていることが信頼性の高い洗濯機ということになります。
逆に信頼性の低い洗濯機は、汚れをあまり落とせず、すぐ壊れて修理が必要になり、使う人の意図しないタイミングで動き出して怪我をする可能性がある、ものです。このような洗濯機を使いたいと思う人はまずいないでしょう。
信頼性の高い製品は機能性、耐久性、安全性の3点を全て満たしていることが必要です。汚れをすごく良く落とすけど1回使うと壊れてしまうとか、頑丈だけど運転中揺れがひどくてたまに倒れてしまうなどの洗濯機は信頼して使うことはできません。
3.人間関係に置き換えてみると
上段では製品の信頼性について述べました。人間関係における信頼は感情も入ってくるため同じように考えられない点もありますが、製品の信頼性から援用して人間関係の信頼について考えることもできると思います。
製品の信頼性は機能性・耐久性・安全性が必要でしたが、これを人間関係の信頼に置き換えて考えてみると、お互いが相手の利益になれること(≒機能性)、関係を壊すような行動をしないこと(≒耐久性)、相手に危害を加えないこと(≒安全性)となるでしょうか。
自分や相手が何かしらの利益を受けられることは関係をつくる動機になります。それは楽しさであったり安心感であったりなど、必ずしも実益を伴うものである必要はないと思います。
また、自分か相手のどちらかが一方的に利益を得るような関係になってしまったり、どちらかが嘘をつくような関係は、一方が他方を搾取するような関係になってしまい、そこに信頼は生まれないと思います。
なによりも、危害を加えてくるような相手とはそもそも関係をつくりたいとは思わないでしょう。
言い換えると、お互いにとって有益で、安全だと感じられ、その関係を持続できることが信頼を置ける関係だと言えると思います。
4.信頼関係を少しずつ育む
人間関係における信頼は有益性・持続性・安全性が重要であると述べましたが、当然ながら出会った瞬間にそれらが生まれるわけではありません。
これはモノの場合も同様でしょう。たとえば、新しい工作道具を買ってみて、最初のうちは扱い方を心得ていなくて使い勝手が悪いと思っていたけれど、使い込んでいくうちに手に馴染んで愛着も湧いてきた、ということもあると思います。
その相手が信頼できるかどうか、自分が相手に信頼してもらえるかどうかは、やはりある程度の時間をかけなければ分からないものですし、お互いに相手に信頼してもらう努力も必要なのだと思います。
もちろん出会った瞬間に「この人のことは信頼できそうにない」と感じることもあるかもしれませんし、そのような相手と無理に関係をつくっていく必要はないと思いますが、上で述べたような信頼の置けるポイントを見つけて、一定の条件下で関係を続けていくことも有益であるかもしれません。
モノであれば見切りをつけてまた別のモノを用意するということができますが、人の場合はそう簡単にいくものではありませんし、苦手な相手と思ったとしても関係に見切りをつけることはできないこともあると思います。
信頼関係を深めていくためには時間が必要なことですし、出会う人全てと深い信頼関係を結ぶことは無理があると思いますし、その必要もないように思います。深いものあれ浅いものであれ、相手と自分の関係や置かれた状況に合わせた信頼関係をつくっていくことが大事なことではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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