感情のラベリング
1.感情の喚起
人は日常の様々な場面で色々な感情を抱くものです。進学や就職、結婚、あるいは大病を患うなど、人生における大きな出来事の時にはもとより、食事やリラックスタイム、日課、仕事などの日常の細々とした場面でも感情は起こってきます。人の生活において感情の起こらない場面の方が少ないぐらいかもしれません。
もちろん、どんな場面でどんな感情が起こってくるかは人によって違いがあります。ある人が楽しさを感じるように場面であっても他の人の場合には不安を感じることもあるかもしれませんし、多くの人が感動したという映画を見ても特別感動はしなかったということもあるかもしれません。
また、同一個人においても同じものを見て同じ感情を抱くとは限りません。子どものころに家族が寝静まってから一人でお手洗いに行くことが怖いと感じていても、大人になったら全く気にならなくなったということもあると思います。
感情は今までの経験、その時の気分状態、一人でいるか複数人でいるか、などの諸条件によって、強かったり弱かったり、感じたり感じなかったりする、意外とあやふやなところがあるものなのだと思います。
2.感情の種類
起こってくる感情にはいくつかの種類があります。日本語には喜怒哀楽という言葉がありますが、それ以外にも不安・恐怖、希望・期待、嫉妬・羨望などなども感情の種類に入るのではないかと思います。
また、楽しいとか哀しいなどの単一の感情が起こってくることもあるかもしれませんが、複数の感情が混ざり合って起こってくることが多いのではないかと思います。たとえば、友人が大きなことを成し遂げて嬉しいと思う反面悔しいとも感じていたり、新しい生活に希望を抱きつつもしっかりやっていけるか不安を感じたりなど、実際に起こってくる感情は複雑なものだと思います。
感情が起こってくる時には、心理的な感覚だけでなく身体的な感覚も伴っています。体温の上昇や筋肉の緊張、喉が渇いたり体が震えたりすることもあります。
それらの身体的な感覚は感情の種類と明確な関係をもっているとは限りません。嬉しい時にも哀しい時にも体温は上昇するかもしれませんし、感動で体が震えることもあれば恐怖で体が震えることもあります。
このように感情が起こってきた時には心理的・身体的に様々な反応が人のなかで生じていますが、この感情の場合はこのような反応が起こる、とは一概に言えないところがあり、そのことが感情反応の特徴と言えると思います。
3.感情のラベリング
上記したように、仮に感情にあやふやさや複雑さがあるとすれば、私たちが感じている感情は思っているよりも明確ではないように思います。私たちは感情が起こっているその初めから、喜びの感情が起こっているとか哀しみの感情が起こっていると感じているわけではなく、心理的・身体的な感覚が生じ、その感覚に対して喜んでいる、哀しんでいると自分なりに解釈しているのかもしれません。
言い換えると、私たちは自分のなかで起こっている感覚を参考にして、今自分はこのような感情を抱いている、と自分に言い聞かせていると言えます。そのように自分の感覚に名前をつけることによって感情を明確にしているのだと思います。
もちろん、全ての感情がそのような過程を踏んでいるかどうかはわかりませんが、たとえば、「もやもやした感じ」など言葉にしづらい感覚を抱くことがあることを考えれば、名前をつけることで明確化する過程もあるんじゃないかなと思います。
感覚に名前をつけることで感情を明確化する過程があるとすれば、たとえコントロールすることは難しいにしても、自分が感じている感覚や感情に意識的に介入して変化させる余地があるのではないかと思います。
4.感情の解釈
感覚や感情に介入するというのはちょっとわかりにくいかもしれないので、ひとつ例を挙げて考えてみたいと思います。
「ある試験の本番を直前に控え待合室にいる。体は強張っていて、心臓はドキドキと鼓動が速くなり、手の平にはじんわりと汗をかいている」
一般的に上のような状態は緊張して不安になっていると捉えられることが多いのではないかと思います。試験を落とせないと考えたら緊張しますし、自分の力が発揮できるかどうか不安にもなるでしょう。
ただ、ここで「緊張している、不安になっている」と捉えてしまうと余計にアガッてしまうかもしれません。そうならないため「自分は不安になっているのではなく、本番を前にして気持ちが昂っているんだ」と自分に言い聞かせることでアガッてしまうことを回避できるかもしれません。
実際に自分に言い聞かせるためには普段から練習を繰り返しておく必要があると思いますし、あまりに感覚や感情が強い場合には興奮状態でそれどころではないかもしれません。常に使える方法ではありませんが、自分の感情に違う解釈を与えることでその後の自己状態や展開を変化させることができる可能性はあると思います。
いつでも誰にでも適した方法ではないと思いますが、実践自体は比較的簡単にできるものだと思いますので、機会があれば試してみてはいかがでしょうか。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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