問題を認識し、その解決に取り組んでいくことが自己効力感を高めることにつながる
1.問題は日常的に起こるもの
生活を送っていると様々な問題が起こってくると思います。些細なものから重大なものまで色々あると思いますが、放っておいてもそこまで支障が生じない場合もありますし、問題を解決できないままだと生活を送ることが難しくなる場合もあるかもしれません。
問題が起こっている状況では多かれ少なかれ心理的なストレスを感じるものですが、些細な問題だからストレスは小さい、あるいは重大な問題だからストレスが大きいとは限りません。場合によっては自分でも気づかないまま大きなストレスを受けていることもあると思います。
ストレスの程度には、問題の大きさももちろん関係していますが、それとともに個人の傾向性も関係しています。その人にとって気になる事柄が絡んでいるほど些細な問題であっても大きなストレスを感じやすくなります。
ストレスについて考えていくには、客観的な意味での問題の大きさとともに、問題をどのように捉えているかということや個人がどんなことにストレスを感じやすいかということを併せて考えていくことが重要です。
2.問題への対処と効力感
ストレスを感じている状態は不快感を伴いますので、できれば避けたいと思うかもしれませんが、ストレスを感じるような問題に対処していくことは効力感や自信につながります。対処行動と個人やチームの成長との関係を示唆する研究が発表されていました。
心理的ストレスの原因を解決しようとする行動がチームや選手の個人を成長させる
(TSUKUBA JOURNAL)
上の研究は高校生のサッカー選手を対象に、チームとしての自信(集団効力感)、人間関係のストレスレベル、ストレス反応、対処行動などを調査したもので、選手を競技レベルの高い選手群と平均的な選手群に分け、両者の結果を比較しています。
調査の結果から、
〇高レベル群はストレスレベルが高い(平均群よりストレスを強く感じている)
〇高レベル群はより高い集団効力感をもっている
〇高レベル群は問題がコントロール可能だと感じている
〇高レベル群は原因である問題を解決しようとする傾向(問題焦点型行動)がある一方で、平均群は問題によって生じた感情に対処しようとする傾向(情動焦点型行動)がある
〇ストレス反応では、平均群は無気力を感じやすい傾向がある
などの傾向がみられました。
問題をコントロール可能と捉え、問題解決に向けて行動することが効力感を高めるのではないかと考えられる一方で、競技レベルの高い選手がより強いストレスを感じていることから、全ての選手において問題焦点型行動と情動焦点型行動の両方のスキルを身に付けることが重要であると結んでいます。
3.問題焦点型行動と情動焦点型行動
競技レベルと問題焦点型行動の関係について少し検討してみます。
今回はストレス原因となる問題として人間関係のストレスが取り上げられていましたが、競技レベルの高い選手の問題焦点型行動は必ずしも人間関係の問題だけに限られるものではないように思います。たとえば、自分の競技スキルの伸び悩みについても同様に問題を解決しようとするのではないかと考えられます。
問題解決の取り組みによって、自分のスキルを伸ばすことができますし、その経験が自身や自己効力感につながっていくのだと考えられます。また、問題が集団に関するものであれば、集団の問題を解決することは個人だけではなく、集団のストレスを改善することにもなりますし、そのことが集団効力感を高めることにもつながるのではないでしょうか。
もうひとつの視点としては、個人の取り組みが集団へ伝播していくことも考えられます。集団内のある個人が問題解決に取り組んでいるのを見た別の個人が同じように問題解決に取り組むようになるかもしれませんし、集団内で協力して問題解決に取り組むようにもなるかもしれません。このことも集団の団結や効力感につながると思います。
問題解決に取り組もうとすることは自己効力感や肯定的思考も関係していると思いますが、その出来事が問題であるとより強く認識しているからだと思います。このことはストレスレベルが高いことにも現れています。つまり、あまり問題と感じていなかったり自分の感情的な問題だと感じている場合には問題解決行動には至りにくいのだと考えられます。
問題を強く感じるほど問題解決行動につながりやすいのだと思いますが、それはストレスを強く感じることでもあります。そのため問題焦点型行動と情動焦点型行動はセットで考えた方がいいということなのだと思います。
4.問題に取り組む姿勢が重要
今回取り上げた調査は集団の効力感に焦点を当てたものでしたが、この調査結果は個人の場合であっても適用できる部分があるのではないかと思います。問題解決に取り組むことはその問題に関連したスキルや知識を高めることにつながると思いますし、自己を高めることは自信や効力感につながると思います。
もちろん問題によっては解決に至らない場合も少なくないと思います。今回はサッカー選手の調査でしたが、競技レベルが高いからといって必ずプロ選手になれるとは限りません。みんながみんなプロを目指しているわけではないかもしれませんが。
なんにせよ、問題解決を目指すからといって何が何でも問題を解決しなければならない、と考えてしまうと苦しくなってしまうのではないかと思います。問題を解決できればそれに越したことはないですが、より重要なのは問題解決に取り組む姿勢だと思います。
たとえば、人間関係の問題はサッカーチーム内だけでなく、どんな集団にもつきものだと思いますが、今自分が属している集団の問題が解決できなかったとしても、問題に取り組んだ経験はまた別の集団に属した時に役立つかもしれません。
人間万能ではないので、やはり出来ること出来ないことがあります。出来ないことに焦点が集まってしまうと自信を喪失することになってしまいますが、自分が出来ることを考えながら、問題に取り組むことを繰り返して中で自分が出来ることを少しずつ増やしていければいいのではないでしょうか。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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