コロナ禍におけるやる気・意欲の低下とその対処
1.やる気の浮き沈み
新年度が始まってひと月が過ぎようとしています。朝晩は多少肌寒さを感じる日もありますが、日中は半袖で過ごせそうなほど暖かい日も増えてきました。暖かいと活動的になることもありますし、気持ちが良くてやる気のなくなることもあったりしますね。
やる気は気分のようなもので、やる気が起こっている期間とやる気の起きない期間は切り替わっていくのが自然なように思います。同じ状態がずっと続くとしたら、病的というわけでなくとも躁的な状態や抑うつ的な状態になっているのかもしれません。
ただ、やはり問題になりやすいのはやる気の起きない状態が続くことかと思います。空回りしてしまうこともありますが、やる気がありすぎて困るよりはやる気が起こらなくて困ることの方が多いのではないでしょうか。
やる気は精神的な状態と関連しています。精神的な不調は何らかのストレスがきっかけとなって生じてくることが多いですが、やる気の起きない状態が長く続く場合、ストレス→抑うつ状態→やる気が起きない→ストレスに対処する行動が起こせない→さらなるストレス、というように負のスパイラルの陥っているのかもしれません。
前回のブログ記事でも触れましたが、そのようなスパイラルを変化させていくためには、問題焦点型行動や情動焦点型行動をとっていくことが重要になります。
2.問題そのものを解決することが難しい場合
問題焦点型と情動焦点型の両行動は併せて行っていくことが効果的で、どちらか一方だけになってしまうとストレスを和らげることが難しくなってしまうことがあります。問題に対処したとしてもすぐに解決に至るわけではありませんし、情動に対処するだけでは問題がどうなるかは偶然に頼らざるを得ないからです。
ただ、やはり問題が必ずしも解決可能なものとは限りません。問題の性質によってはその状況に耐えていかなければならないこともあると思います。
東大とベネッセの共同研究で以下のようなニュースが発表されていました。
子どもの生活と学びに関する親子調査2021結果速報
(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所 共同プロジェクト)
※リンク先はPDFファイルです。
上記の調査結果では、主に子どもの学習面に関する結果を分析しまとめたもので、2019~2021の3年間で子どもの学習意欲が低下傾向にあり、その原因のひとつとしてコロナ禍が挙げられていました。
コロナが世界と日本に広まってから2年以上が経過しています。その間、そして現在も対策は続けられていますが、出口がどうなるかはまだ見えてこない状況でもあります。そのような中で個々人も自分でできる対処をしているのだと思いますが、やはり辛い状況であることには変わりありません。そのような状況をこの結果は表しているのだと思います。
ただ、そのような中でも学習意欲を向上させている子どもたちがおり、どのような子どもたちの調査結果についても分析を行っています。
学習意欲を向上させた子どもたちは、勉強の仕方がわかった・授業が楽しくなった・進路について深く考えるようになった、などの『肯定的な変化』が意欲が低下した子どもたちに比べて出現率が高かったということです。そして、『子ども自身が学び方を身につけたり、関心・意欲が高まるような授業を受けたり、自分の将来を深く考えるといった「学びの本質」にかかわる働きかけが重要』と結論しています。
※『』内は結果速報からの引用です。
学習に対する子ども自身の積極的な姿勢を引き出していくことが子どもの学習意欲を高めることにつながる、ということですね。
3.理解を深め、好奇心を満たす
上記の調査結果から、子どもに学習意欲を高めるためには、学習内容を理解できること、学習内容に対する好奇心、今自分がやっていることが将来どうつながるかという視点、などが重要なのだと思います。
将来への展望はその人の年齢ややっていることの目的などによって変わってくるので、単純に当てはめることは難しいですが、やっていることに対する理解や好奇心が意欲と関わるという点については大人の場合であっても援用できるのではないでしょうか。
たとえば、なんだかよくわからないまま仕事をやるよりは自分がやっていることが何に関係しているのか理解できた方が意欲を持ちやすいと思いますし、余暇活動でもつまらないと思ってやるよりは楽しい・面白いと思えた方がやる気が起きます。
自分なりに取り組んでいる事柄に対する理解を深めたり、好奇心を満たせるような余暇活動を見つけていくことでやる気の起こらない状態を脱していくきっかけになるのではないかと思います。
4.一本の矢は折れても三本の矢は折れない
今回取り上げた調査研究では、子どもの学習意欲を高めるために『「学びの本質」にかかわる働きかけが重要』と結論されていましたが、現在のコロナ状況下ではそれがいかに難しいかも結果に表れているように思います。
絶対にそうだとは言い切れないですが、学習意欲の低下の原因のひとつにコロナの影響があるとすれば、コロナがなければ学習意欲は低下しなかったかもしれないということです。もしかしたら今の状況下では意欲を高めるような働きかけができていてなお、意欲が低下してしまうことがあるのかもしれません。
もちろん、意欲を高める働きかけが無駄だというわけではありません。
人の心は複数の要因が絡み合って作用し、その結果として感情や考えが生じてくるものなので、ひとつの要因から心の動きを説明することはできませんが、コロナ禍が長い期間に渡って人の心に大きな影響を与えていることは間違いないと思います。
すぐには解決できない大きな問題が存在しているからこそ、ひとつの対処法を行うだけではなく、複数の対処方法を組み合わせて行っていくことが大事だと思いますし、自分なりの対処法や他者への働きかけ方を試行錯誤しながら見つけて実践していくことが重要なのではないでしょうか。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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