行きつ戻りつの成長過程
1.子どもの発達
近年は生涯発達という言葉も使われるようになり、発達が乳児期から老年期までの生涯に渡って続いていくものという考え方が一般的になりつつあるように思いますが、それでもやはり発達・成長の言葉を見た時に思い浮かぶのは子どものイメージという人が多いのではないでしょうか。
発達と聞いて子どもがイメージされやすいのは、生涯発達の概念が比較的新しいこともあると思いますが、やはり実感できる発達的な変化が大きいからではないかと思います。子どもを育てている中で日々の成長が感じられることもあると思いますし、親戚や知人の子どもが少し見ないうちに大きくなっているのを見ることもあると思います。
子どもの発達は大人に比べると、その変化が速くて大きいように感じられますが、それでも右肩上がりで直線的に発達上の達成が為されるわけではありません。波があったり行きつ戻りつしながら進んでいきます。
成長に波があったり行きつ戻りつがあったりするのは発達というものの特徴でもありますが、発達的な変化が起これば個々人はその変化に適応していく必要が生じます。適応することは一筋縄ではいかないこともありますし、ある程度の時間を要するものでもあります。
また、子どもの場合は適応の際に起こってくる問題に対処するためのスキルが十分でなかったりすることもあって、どうしたらいいのかわからず戸惑ってしまうこと多いように思います。
行きつ戻りつが発達の特徴といいましたが、起こっていることにうまく対処することができなくて混乱してしまっているような状況では、発達上の理由によってではなく情緒的な理由によって発達の後戻り(退行現象)が生じてくることがあります。
2.赤ちゃんがえり
発達的に達成されていたことができなくなってしまう退行現象ですが、退行自体は子どもに限ったことではなく、たとえば過度なストレスが継続的にかかった状態などでは大人であっても生じる可能性のあることです。ただ、現れやすさとしては対処スキルなどの理由により子どもの方が可能性が高いように思います。
小さい子どもに見られる退行は赤ちゃん返りと呼ばれることも一般的だと思います。赤ちゃん返りは母の妊娠や弟妹の誕生などを機に見られる退行現象です。
たとえば、トイレットトレーニングがある程度進んでいた子が急におねしょの頻度が増えてしまったり、親から少し離れたところで活動できていた子が親にくっついて離れられなくなってしまったりといったことが赤ちゃん返りに数えられることでしょうか。
このような赤ちゃん返りは、以前には親の愛情不足と考えられていたこともあったようです。ただ、この言葉では語弊があるように思います。子どもが不安を感じていることは間違いないと思いますが、それは実際の親子関係のみから不安が生じているわけではなく、子どもの想像からも生じているからです。
妊娠・出産ということになれば、以前と全く同じように子どもと接することは難しいかもしれませんが、その状態の中で出来る限り子どもと接する時間を作ったとしても、弟妹の誕生は事実ではあるので、子どもが弟妹に親をとられてしまうかもしれないと想像すれば不安になると思いますし、子どもの年齢によっては年下が生まれるから年上の自分はしっかりしなければいけないと気負って自分にプレッシャーをかけてしまうこともあるかもしれません。
以上のような、子どもの情緒的な理由によって赤ちゃん返りが生じているとすれば、単純に親子の接する時間を増やせばいいというわけではなく、子どもの情緒的な状態に応じて子どもとどう関わっていくかを考えることが重要です。
もちろん、退行に見える状態は情緒的な理由によっても発達的な理由によっても起こってくるので見分けがつきにくい場合もありますし、仮に情緒的な理由で起こっているとして、では子どもがどんな情緒の状態になっているのかはわからないこともあります。
そのため、直観的にわかる場合は別ですが、実際の関わりでは試行錯誤を繰り返しながら親子の情緒が響き合うようにチューニングしていくことが大事になります。
3.親子関係で情緒を抱える
退行は子どもだけではなく大人にも見られる状態といいましたが、退行した状態はその時のその個人の状態が行動によって表現されていると考えられます。何かしらの理由があって言葉での表現が難しいため行動によって表現されているのだと思います。
子どもが退行してまるで赤ちゃんのような行動をしているとして、では赤ん坊のように自分を扱ってほしいと感じているかというと、必ずしもそうとは限らないと思います。子どもにとって自分の中で起こっている感覚がよくわからなくて混乱してしまい、その結果として退行した状態になっているのかもしれません。仮にそうだとすれば、子どもの行動を受け容れつつ言葉にしていくことで子どもの混乱が収まり、赤ちゃん返りの行動は少しずつなくなっていくかもしれません。
もちろん、場合によっては一時的に赤ん坊のように接することが必要なこともあるかもしれません。ただ、その場合であっても子どもの不安を親子関係で抱えていくことができればそう長く続くものとはならないと思います。子どもが弟妹に嫉妬心をもっていたとしても、同時に兄姉としての誇らしさを感じていることも多いからです。
嫉妬心や誇らしさは例えではありますが、子どもが混乱している時には、矛盾するような情緒を抱えていることが多いように思います。そうした両価的な情緒を、最初は親子関係の中で抱えながら、次第に子どもが一人で抱えられるように関わっていくことで退行した状態は少しずつ解消されていくと思います。
子どもの発達状況によって適度な関わり方がどんなものになるかは異なってきますが、子どもの情緒を親子関係の中で抱えていくことは子どもの発達・成長には欠かせないものだと思いますし、それを繰り返していくことによって子どもは少しずつ自律/自立できる状態をつくっていくのだと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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