長時間労働とメンタルヘルスの関連性について
1.長時間労働の問題
働くことは日々の糧を得るための手段でありますし、仕事そのものを楽しめる場合には人生を豊かなものにできる可能性を持つものでもあります。ただ、仮に楽しめるものであったとしても長すぎる労働時間は心身の健康を損なってしまうかもしれません。
長時間労働の問題は過去から存在していましたが、無理な長時間労働による健康被害や過労自殺の問題が各種のメディアで取り上げられることも増えてきて、過度な長時間労働が社会問題として認識されるようになりました。
長時間労働を是正するための法的整備や企業等の取り組みも少しずつ進められてはいますが、どのように進めていくかに関しては様々な意見があるようです。
長時間労働がメンタルヘルスと何らかの関係をもっていること可能性はあるとは思うのですが、労働時間の減少がそのままメンタルヘルスを害する人の減少につながっているわけではありませんし、学術研究においては関係が見られるという研究もあれば、見られないという研究もあるなど、長時間労働が直接的にメンタルヘルスの悪化につながっているかどうかは不明確な点があります。
また、個人的に聞いた話ではありますが、残業時間の上限が決められたことによって従業員が会社を離れてしまったという話も聞いたことがあります。
会社ごとに、あるいは個々人によって様々な事情があるとは思いますが、単純に労働時間だけから働く人の健康状態を推し量ることは難しく、労働時間以外の要因を含めて考えていく必要があるのだと思います。
2.労働時間以外の要因
長時間労働が直接的にメンタルヘルスを害するわけではないかもしれないという一方で、長時間労働によってメンタルヘルスを害してしまったと感じる人がいるということは、長時間労働は間接的な形でメンタルヘルスに影響を及ぼしているのかもしれません。
長時間労働とメンタルヘルスをつなぐ要因として、東京医科大学の研究は睡眠時間の減少と不規則な食事をその要因として取り上げられていました。
残業それ自体ではなく、睡眠不足と食事の不規則さがメンタルヘルスに害を与える
(東京医科大学 プレスリリース)
上記の研究では、労働時間、ストレス反応、睡眠時間、食事の不規則さの関連について調査を行っており、ストレス反応に対する各要因の影響を調べたものです。
研究によると、労働時間の長さがメンタルヘルスの悪化に直接影響しているという結果はみられなかったものの、長時間労働は睡眠時間の減少と食事の不規則さに影響しており、睡眠時間の減少と不規則な食事がメンタルヘルの悪化に影響しているとのことでした。
労働時間が長くなるほど睡眠をとれる時間が短くなりますし、食事をとる時間もバラバラになってしまいます。前回のブログでも書きましたが、食事の時間が不規則になると睡眠覚醒リズムがズレやすくなり、そうすると睡眠にあてられる時間が短くなっているのに加えて、質の良い睡眠もとりづらくなってしまいます。心と体を回復させるための十分な睡眠時間と質が確保できなくなり、メンタルヘルスの悪化につながってしまうのだと思います。
3.メンタルヘルス維持・向上の対策
さきほどの研究でも述べられていましたが、労働時間の長さが直接的にメンタルヘルスの悪化につながっているわけではないということは、労働時間だけを基準にしてメンタルヘルスの対策を考えるだけでは不十分ということです。
たとえ労働時間が過度に長いわけではないとしても、不規則な食生活を続けていたり、十分な睡眠をとれていなかったりすれば、やはりメンタルヘルスを害してしまう可能性が高くなってしまいます。
また、仕事内容、職場環境や人間関係などもメンタルヘルスには影響しています。仕事内容が簡単すぎる/難しすぎるとすれば、仕事に集中しにくくなるかもしれませんし、職場環境に不満を抱いていたり人間関係に軋轢があったりすれば、職場にいること自体にストレスを感じるかもしれません。
仕事だけに限った話ではないかもしれませんが、メンタルヘルスの対策について考えていく場合には複数の観点から総合的に判断していくことが大事になります。
労働、睡眠、食事時間などの客観的にはかることのできる基準と、仕事、職場、人間関係などに対する個人の主観的な感じ方についての基準の両方の基準を見ながらどんな対策を立てていくかを考えることで、メンタルヘルスの維持・向上に有効な対策が見つかりやすくなるのではないかと思います。
4.自分に合った環境
多くの人が社会の中で働いている中では、やはり一定の基準が必要になります。たとえば、法的に定められた労働時間、法定労働時間は1日8時間、週40時間が限度となっています。ただ、この時間が短い/長い、丁度良いなどは人によって感じ方が異なると思いますし、その日の体調によっても変わってくると思います。
そのため最近ではフレックスタイム制の労働時間を設けることで、1日や1週間の労働時間に幅をもたせて働くことのできる企業も増えてきています。また、コロナを契機としてリモートワークを取り入れる企業も増えました。
組織に属する以上は自分の働きたいように自由に働くというのは難しい場合がほとんどだと思いますが、やはり人それぞれ自分に合った労働時間や労働形態というものがあると思います。
実際に働いてみないと自分に合った働き方はわからないかもしれませんが、自分に合った形を見つけ、少しでも自分が快適に感じられるようにするにはどうしたらいいかを考えていくことがメンタルヘルスのためには重要なここと思います。
同時に、どうしても変えていくことが不可能だと感じる場合にはそこから離れることを検討することもひとつだと思います。他の人にとって良い環境が自分にとっても良い環境とは限らないですし、健康を損なってしまってはそもそも働くこと自体ができなくなってしまうかもしれません。
自分がどこまでできそうかを見極めていくことも大事なことだと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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