関係から愛着を考える
1.愛着関係の発達
生まれたばかりの人間の子どもは自力で動くことはできず、当然生きるために必要なものを自分で手に入れることはできません。そのため、身近にいる大人(親・養育者)から与えてもらうことが必要になります。生まれたばかりの子どもは泣くことで大人の関心を引き、自分に何かが必要であることを伝えますし、大人は子どもの泣き声から何が必要かを判断し食事をあげたりおむつを替えたりします。
世話を受けることと世話をすることを繰り返していくことで、子どもと大人は情緒的なつながりをつくっていきますが、そのような世話を受ける側(子ども)と世話をする側(親)の間の情緒的なつながりを愛着(アタッチメント)といいます。
愛着というと子どもの親・養育者に対する愛着ということが注目されがちですが、親・養育者の子どもに対する愛着も同様に重要なものです。子どもは世話を受けることを通して、親は世話をすることを通して愛着を発展させていきます。
愛着は一方が他方に対して一方向的に抱くものではなく、子どもと親の間に生じる情緒的なつながりであり、両者の関係性を表す言葉と考えることが適切なように思います。個人の愛着について考えていく場合であっても、その個人と愛着対象がどんな関係性をもっているのか、個人と対象のペアを見ていくことが重要になります。
2.内的ワーキングモデル
子どもは世話を受けることを繰り返していくことで、自分が世話を受けることに関する記憶を積み上げていきます。誰が、どんな状況で、どんなことをしてくれたのか、自分はその時どんな状態だったのかなど、経験し学習していくことで親との関係のパターンが定着していきます。
こうした自分の行動と親の行動のパターンに関する認知的な枠組みは「内的ワーキングモデル」と呼ばれています。親との関係における枠組みは、子どもにとってその後の対人関係の持ち方の基礎になっていきます。
子どもは泣くことで他者の関心を引く、といいましたが、それは意図的にやっていることではなく、空腹や不快感などに対する生まれつき備わった生理的な反応です。生後から見られるようになる生理的微笑も同様に非意図的な行動で、生まれたばかりの子どもはそのような他者の関心を引くための行動が生まれつき備わっています。
微笑は子どもの成長に伴って、社会的微笑、選択的微笑と変化していきます。社会的微笑は対象を選ばない近くにいる人に対する微笑みですが、選択的微笑では主に自分の身近にいる世話をしてくれる相手に対して微笑むようになります。このことは同じ大人であっても、自分を世話してくる大人を見分けられるようになったことを表していると考えられます。
愛着の発達を示す行動は微笑だけに限りませんが、内的ワーキングモデルと子どもの実際の行動は連動して変化・発展していきます。最初はただ生理的に反応するだけだった行動が意図を持って行われるようになり、さらに対象も分化していき特定の相手との間で愛着関係をもつようになります。
このように子どもと親の間で愛着関係が発達していくことによって、子どもの内的ワーキングモデルが形成され、そのモデルを参照しながら子どもはその後の人間関係を築いていきます。乳幼児期の子どもと親の愛着関係が全てではありませんが、子どもが他者とどう関わるのかについてその時期の愛着関係はとても重要なものになります。
3.愛着関係のタイプ
愛着関係と一口にいっても、全ての親子ペアで同じような関係が見られるわけではありません。子どもには持って生まれた気質があり、それは子どもごとに異なっていますし、親・養育者も自分が親とどんな愛着関係をもっていたかによって、異なる内的ワーキングモデルをもっているからです。
子どもと親の愛着関係には過去の研究からいくつかのタイプが観察されています。エインズワースはストレンジ・シチュエーション法(※)を用いて親子を観察した結果、愛着のパターンを3つ、後に1つ追加されて4つのタイプに分類しました。
※ストレンジ・シチュエーション法
親との分離と再会に子どもがどんな反応を示すかを観察する方法です。最初は母子が同じ部屋で遊んでいる状況で、親だけが一度部屋から退室し、しばらくしたら戻ってくる。親が部屋からいなくなった時と部屋に戻ってきた時の子どもの反応からパターンが分類されました。
4つのタイプは以下のものです。
Aタイプ・回避型:親が部屋を離れた時に混乱することなく、部屋に戻ってきた際には親と距離をとる
Bタイプ・安定型:親が部屋を離れた際には混乱する様子が見られるが、部屋に戻ってくるとすぐに落ち着きを見せる
Cタイプ・葛藤型:親が部屋を離れた際は混乱する様子が見られ、部屋に戻ってからもむずがったり怒りを見せたりする
Dタイプ・無秩序・混乱型:親が部屋を離れる時も戻ってきた時もどう反応したらいいかわからない様子で混乱している。泣いたり身を固くしたり、近づいたり離れたりなど、一貫しない行動が見られる
ストレンジ・シチュエーション法では、主に子どもの反応に焦点を当てて観察が行われましたが、子どもに対する親の反応も重要な要素です。
たとえば、子どもが安定した状態であれば親も安定した態度で関わることができると思いますが、子どもが不安定な状態のままだったとしたら親も困惑してしまうかもしれませんし、子どもが不安定な状態であっても親が安定した態度でいることで子どもは次第に安定した状態になるかもしれません。逆のパターンも当然あり得ることだと思います。
上記したように、子どもの気質などの要因もあるため一概にいえない部分もありますが、親の行動に対する子どもの反応は、現状の愛着関係がどのような性質のものであるのかを示す目印になるものです。関係の調節が必要かどうかはその時々の判断次第ですが、親の行動が変化することで子どもの反応が変化することもあり得ることだと思います。
4.関係で愛着を考えていく
愛着というと、子どもがどんな愛着のパターンを形成しているか、という観点から考えられることが多いように思いますが、愛着にはその対象、相手がいるものであり、両者の間でどんな愛着関係が結ばれているかを見ることもやはり重要と思われます。
相手が違えばそこで示される愛着のパターンも変化する可能性はあり得ます。子どもの場合であっても、親に対する愛着パターンと親以外の親しい相手に対する愛着パターンは異なるかもしれません。
もちろん、乳幼児期に観察された愛着のパターンが成人期以降にも同様のパターンが見られるという研究結果はありますが、これは相手が関係ないということではなく、異なる相手であっても個人は同じパターンで関わろうとする傾向があるということだと考えられます。
個人が自分の内的ワーキングモデルを参照しながら他者に関わるということは、繰り返し似たようなパターンで他者に関わるということですし、そうなると異なる相手であっても似たような反応が得られる可能性が高くなり、結果として乳幼児期に形成された内的ワーキングモデルが維持されていくのだと思います。
見方を変えると、異なる関わり方をしたり異なる反応が返ってきたりすることで、内的ワーキングモデルは変化していくかもしれないということでもあります。愛着は一度ある程度の形に出来上がったらそれ以降は変化しないということはなく、他者との関係次第によって変化していくものとではないかと思います。
______________________________________________
前のブログ記事:長時間労働とメンタルヘルスの関連性について
次のブログ記事:関係から愛着を考える・少し補足
カウンセリングをご希望の方はご予約ページからご連絡ください。
______________________________________________
「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
______________________________________________
新宿・曙橋でカウンセリングルームをお探しなら新宿四谷心理カウンセリングルームへお越しください