関係から愛着を考える・少し補足
1.愛着の個人差
前回のブログでは子どもと養育者の間に築かれる愛着関係について書きました。その中でストレンジ・シチュエーション法について触れましたが、説明不足でわかりづらかったように思いますので、今回はその点について補足を加えていきます。
(参考・関係から愛着を考える)
母子関係の研究から愛着理論を提唱・発展させたのはジョン・ボウルビィです。当初ボウルビィは不安感と安心感に関わる生物学的な行動として愛着を考えていましたが、後には、母子関係から始まって人と人の間に結ばれる情緒的なつながりと捉えるようになりました。
ストレンジシチュエーション法による研究を行ったメアリー・エインズワースはボウルビィの研究チームへの参加やウガンダでの実地研究などから愛着関係を子どもにとって安心感を得て環境を探索するための「安全基地」と考えましたが、子どもの養育者に対する行動は一様ではなく、個人差があることもわかっていました。
ストレンジシチュエーション法はそのような子どもの愛着の個人差を評価するために考案された実験・研究方法です。この研究が行われた当時は主に子どもの反応や行動が観察の焦点でしたが、近年ではそれに加えて養育者の反応や行動、子どもと養育者の相互交流なども研究対象になってきています。
2.ストレンジシチュエーション法
ストレンジシチュエーション法は先述した通り、子どもの愛着の個人差を観察するための実験方法です。実験段階は8つのフェーズに分かれており、そこでの子どもの情緒的な反応や行動とその変化、養育者とのコミュニケーションなどが観察対象となりました。以下にストレンジシチュエーション法の手続きを述べていきます。ちなみにストレンジシチュエーション法の対象となった子どもは満1歳の子どもです。
①子どもは養育者と一緒に実験室の中に入る。
②養育者は椅子に座って雑誌を読み、子どもはおもちゃで遊んでいる。
③子どもにとって見知らぬ大人が部屋に入ってきて、子どもに関わろうとする。
④養育者が子どもと大人を残して部屋を出る。
⑤養育者が部屋に戻ってくる。
⑥養育者と見知らぬ大人が部屋を出ていき、子どもが部屋でひとりになる。
⑦見知らぬ大人が部屋に戻ってきて、子どもを安心させようとする。
⑧養育者が部屋に戻ってきて、子どもを抱き上げる。
以上がストレンジシチュエーション法の手続きになります。この方法では子どもにとって新奇な対象は大きく2つあります。初めて来る場所と見知らぬ大人です。この状況で子どもは不安やストレスを感じますが、その不安やストレスに対してどのような反応を示すか、見知らぬ大人や養育者に対してどのような行動が見られるかなどを観察者は記録しました。
3.愛着の4つのタイプ
ストレンジシチュエーション法の結果からA~Dの4つの愛着関係のタイプ(当初は3つでしたが、後に無秩序型が追加されて4つになりました)のタイプが見出されました。
4つのタイプはそれぞれ
Aタイプ:回避型
Bタイプ:安定型
Cタイプ:葛藤型
Dタイプ:無秩序型
タイプごとに、ひとりになった際の反応や見知らぬ大人への対応、養育者とのコミュニケーションに特徴があり、それぞれ異なった愛着関係を発達させていると考えられています。以下に説明を加えていきます。
回避型
回避型の愛着関係を示す子どもは、養育者が部屋を出ていった際も、また養育者が部屋に戻ってきた際にもあまり反応を示しません。
養育者が部屋を出ていくことに気づいても、そのままおもちゃ遊びに集中しており、動揺したり不安になったりする様子はあまり見られず、養育者が部屋に戻ってきた時にもおもちゃ遊びを続け、養育者に関心を持っていないように見えたり、時には避けようとする行動が見られることもあります。
このことは子どもが不安の感情をあまり感じなかったり(あるいは無視している)、養育者と安心感をもてる愛着関係をつくれていないことを示していると考えられます。
安定型
安定型の愛着関係を示す子どもは、養育者が部屋から出ていった際には動揺して不安な様子が見られ、泣いてしまうこともありますが、養育者が戻ってきて抱き上げられると、それほど時間はかからず落ち着きを取り戻し、再びおもちゃ遊びをするようになります。
このタイプの愛着関係では養育者が子どもにとっての「安全基地」になっていることを示していると考えられます。子どもは養育者の不在に不安を感じますが、その不安も養育者との関係の中で容易に治めることができ、養育者の存在を安心感の供給源としながら遊びや周囲の探索を行うことができます。
葛藤型
葛藤型の愛着関係を養育者との間に築いている子どもは、養育者に対して複雑な心中を示すような行動をとります。
このタイプの子どもは養育者が部屋を出た際に、安定型の子どもと比べ強い不安を示すことが多く見られます。動揺や混乱した反応が強く、養育者が戻ってきた時にもなかなか落ち着くことができません。
養育者との接触を強く求める一方で、時に養育者に対して攻撃的な反応を示すこともあり、再び遊びや探索行動を始めることが難しい子どもが多いです。
このことは子どもが養育者との愛着関係に安心と同時に不安を感じていることを示していると考えられます。子どもと養育者は安定して一貫した愛着関係を築けていないのかもしれません。
無秩序型
無秩序型の愛着関係をもつ子どもは、養育者が部屋を出た際、また部屋に戻った際ともに強く混乱しており、一貫した行動をとることが難しい様子を示します。
養育者が部屋を出ていった時には、動揺し不安がる様子が見られたと思えば、おもちゃ遊びを続けるといった行動も見られます。また、部屋に養育者が戻ってきた時には、身を固くするような反応が見られたり、養育者に接近する行動をとりながら同時に顔を背けたり体を離そうとする行動が見られるなど、それぞれの行動がバラバラで一貫しない反応・行動が見られます。
これらの反応・行動は子どもが養育者との愛着関係において、強く混乱しており自分が何をしたらいいのかわからないことを示していると考えられます。
4.子どもと養育者の相互影響
愛着関係のタイプについて、少し詳しく見ていきましたが、同じ子どもと養育者のペアであっても常に同じ反応・行動が見られとは限りません。子どもと養育者双方のその時の心理状態・身体状態によって反応・行動は変わってきます。
また、養育者の関わり方のみによって子どもの愛着関係のタイプが決まってくるわけでもありません。たとえば、養育者が安定した心身の状態で子どもと関わっていたとしても子どもの気質的に落ち着きにくい場合には、養育者の側も落ち着かない気持ちになってしまうかもしれません。
ただ、そうはいっても乳幼児にとって養育者との関わりはとても影響の大きいものです。長い目で見た時に、養育者が概ね安定しているか、あるいは不安定な状態かによって愛着関係の質は変わってきます。
たとえば、抑うつ的ではない母親と抑うつ傾向のある母親の子どもとの関わり方を分析した研究では、抑うつ的ではない母親が子どもの顔を見ながら話しかけることが多いのに対して、抑うつ傾向のある母親は子どもの顔を見ずに話しかけることが多く、それぞれで子どもの反応・行動には違いが見られたと報告されています。
このような母親の子どもに対する行動の違いは意識的にそうしているわけではなく、意識せずにそうなっていることであり、母親の気分状態が母親の子どもとの関わり方に影響していることを示しています。
養育者の関わりが全てを決めるわけではありませんし、常に安定した状態で子どもと関わることができるわけではないですが、養育者が”概ね”安定した状態で子どもと関わることがとても重要です。
そのためには、特に子どもが小さい間は、自分の心身の状態に注意深く配慮しながら、不調を感じた時には対処したり相談したりできる環境を整えておくことが大切だと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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