共感のいくつかのかたち ~言葉の共感と仕草の共感~
1.コミュニケーションとしての共感
誰かと話をしていると、相手の心情に対して「その気持ちはよくわかる」などのように感じることがあるかと思います。相手が感じていることを、自分も同じように感じることを共感と呼びます。何事に対しても共感を感じるとは限りませんし、共感を覚えることが多い少ないといった個人差はあると思いますが、多かれ少なかれ誰にでも共感は起こっているように思います。
人と人とのやりとりにおいて、共感はコミュニケーションを円滑に進めるための重要な要素のひとつです。それは共感が相手に対する理解を伝える側面があるためです。相手が自分を理解していると感じられることで、会話や共同作業をスムーズに進めやすくなります。
ただ、コミュニケーションを行っている間、常に相手に対する理解を言葉にして伝えるということはまずないと思います。話のフレーズやセンテンス毎にお互いに自分の理解を伝えていたとしたら、そのたびに話が止まってしまうことになるので、円滑とは逆の結果になってしまうでしょう。
会話を展開させるために「わかる」ことを伝えたり、確認のために「それってこういうことだよね」などと自分なりの理解を伝えることはあると思いますが、スムーズにコミュニケーションが進んでいる時は、むしろ理解を言葉にして伝えることは少ないかもしれません。
そのように理解を言葉にして伝えない状況であったとしても理解されていると感じることはあると思います。言葉によって理解を伝えられなくても相手が理解しているように感じられるということは、言葉以外の方法によって話を聞いていることや理解していることが伝わっているためであると思います。
2.言葉を用いない共感
人と人とのやりとりは、言葉を使う使わない、意識するしないに関わらず、多くのことが起こっています。起こっていることの内容によっては相手とのやりとりとは思わないこともあるかと思います。
たとえば、道で人とすれ違うだけのことであっても、まっすぐ進めばぶつかってしまうと思えば、少し横に避ける行動を起こすと思います。この場合、お互いに横にずれるかもしれませんし、相手が避けたから自分はまっすぐ進もうと思うかもしれません。
ただすれ違うだけの行動を他者とのコミュニケーションと考えることはあまりないかもしれませんが、相手の行動によって自分が影響されたり、自分の行動が相手に影響を与えたりというやりとりが起こっているという意味ではコミュニケーションと考えて問題ないのではないかと思います。
このすれ違いの中でも共感は起こっています。相手の視線や体の動きから相手がどうしようとしているのかを察知して自分の動きを調整しますが、視線や動きから相手のことがわかることは共感の働きによるものだと考えられます。
このように共感は必ずしも言葉を通してだけ生じるものではなく、視線や表情、身体の動き、あるいは言葉の内容ではなく、声の大きさや高さ、話すスピードなどに対しても共感は起こっていると考えられます。
3.共感と修正
会話をしていて言葉によって理解を伝えていなかったとしても理解されている感覚を抱くのは言葉以外の方法によって理解を伝えているためです。
ただ、共感して理解したことが常に合っている、正しいとは限りません。またすれ違いを例に出しますが、ぶつからないように動こうとして相手と同じ方向に動いてしまった経験をもつ人は結構いるのではないかと思います。でもそのままぶつかってしまうことは少ないのではないでしょうか。
これは共感が一度起こったらそれで終わりというわけではなく、進行していく過程であることを意味しています。相手に対する共感と自分の行動の調整が繰り返し細かく起こり続けているために、一度間違えてしまっても最終的にはぶつからずにすれ違うことができます。
以上は言葉を使わないやりとりの事柄ではありますが、会話でのコミュニケーションにおいても同様のやりとりは起こっています。前項でも述べたように会話の内容だけでなく、相手の仕草やトーンにお互い共感し修正しながら合わせていくことによって、お互いに理解している、理解されているということを伝えあっているのだと思います。
4.その人特有の共感
人と人とのやりとりにおいて、何かしらの共感は常に起こっているものだと考えられます。その中には「わかる」という感覚や相槌などのように意識されるものもありますが、仕草やトーンに対する共感はほとんど意識されないまま起こっているものだと思います。
共感は基本的にはその時の状況に合わせて起こっているものですが、意識されない共感の中には(意識されるものも含むかもしれません)その人に特有の共感の仕方が表れており、場合によってはそのような特有の共感は状況に沿わないこともあるかもしれません。
上述したように、共感は相互で起こっている過程であるため、状況に沿わない共感がスムーズなコミュニケーションを阻害するとは必ずしも言えないとは思いますが、コミュニケーションに苦手さを感じている人の中には、その個人特有の共感に対する感覚が関係していることもあるかもしれません。
意識されないまま起こっている共感、といいましたが、意識されないことは意識できないことではありません。
そのため、自分が共感すること、されることに対してどんな感覚をもっているのか、自分の仕草が相手とのやり取りにどんな影響を与えているのかなど、自分自身の特徴を知ることによって自分がどんなコミュニケーションを行っているのかを知ることができますし、それを知ることで今までとは違った形でのコミュニケーションが行えるようになるかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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