意識の幅の広げ方 ~ひとつのことからふたつ想像する~
1.コミュニケーションのチャネル
人同士のやりとりは多くの場合言葉を介して行われています。二人であっても多人数であっても、誰かが言葉を発し、それを受けて他の誰かが言葉を発し、またそれを受けて誰かが言葉を発し…というように言葉が紡がれていくことによってやりとりがつながっていきます。
言語的なやりとりが人同士のコミュニケーションの基本であることは間違いないのですが、言語だけがコミュニケーションの全てかというともちろんそんなことはありません。言葉以外にも表情や声のトーン、動作や仕草など非言語的な要素もコミュニケーションに関係しています。
人同士のコミュニケーションは言語的・非言語的な複数のチャネル(経路)を使ってやりとりをしており、チャネルやその組み合わせによって伝わる内容や伝わり方が異なってきます。言葉であればその話の意味内容が伝わりやすいですし、表情であれば気分や感情が伝わりやすいです。また言葉では「嬉しい」と言っていても不満そうな顔をしていれば、本当は嬉しくないのかなと感じるかもしれません。
このように一口にコミュニケーションといっても、そのチャネルはいくつもありますし、チャネルによって伝わりやすいものや強度に違いがあります。チャネルが複数あることでコミュニケーションは豊かなものになりますが、それは同時に出し手と受け手の間でどんなやりとりが行われているのか、それを把握することが難しくなるということでもあります。
2.意識されないコミュニケーション
人と話をしていて、何かうまく伝わっていないと感じたことのある人は少なくないのではないでしょうか。その理由の一つはコミュニケーションのチャネルの多様さにあるかもしれません。
非言語的コミュニケーションが割合として大きいですが、言語の部分を含めて人はやりとりの全てを意識して行っているわけではありません。たとえば、〈つい〉〈うっかり〉出そうと思っていなかった言葉を口にしてしまったことがあると思いますし、好きなものを前にして自然と笑みがこぼれてしまったり、苦手なものに接して知らず知らず声のトーンが下がってしまうことがありますが、そのような様子を人から指摘されて気づくという経験をしたこともあるのではないかと思います。
コミュニケーションには意識されている部分と意識されていない部分の両方があります。その割合を示すことは難しいですが、やはり意識されない部分の方が大きくなりがちなのではないかと思います。そのため意識されている部分ばかりに注目してしまうと、コミュニケーションが円滑に進んでいる場合はいいのですが、いざ齟齬が出てきた時にその理由に気づきにくくなるということがあるかもしれません。
そういった齟齬を解消するためには、意識されていない部分も含めてどのようなコミュニケーションが行われているのかをみていくことが大事になります。
3.可能性を想像する
さて、意識されていない部分への気づきはどのようにして出来るのでしょうか。そもそも意識されていないということは、何が意識されていないのかということもわからないので、それを意識することは無理なことのように思えるかもしれません。
意識されていないことにも濃淡があります。薄く靄がかかったような事柄であれば考えを巡らせることで気づくことができるかもしれませんが、分厚い霧に覆われたような事柄はいくら考えを巡らせてみても気づくことはできないかもしれません。
気づくことが難しい事柄については、それだけ深く無意識に沈んでいると考えることもできますし、何か気づくことを阻害する要因があると考えることもできますが、いずれにしても考えや思いを巡らせることでそれを見つけようとすることは相当に困難であるということです。
そのような場合に有効になるのではないかと思うのは想像することです。何が意識されていないのかわからないということは、何かが見つかったとしてそれが答えかどうかはわからないかもしれないということです。もちろん「これが答えだ」という感覚を得られることもありますが、行き詰まってしまった時には何かひとつの答えを見つけようとするよりも、様々な想像を広げる中で可能性を探ってみることもアリなのではないかと思います。
4.想像する癖をつけていく
では何を想像するのか、ということですが、想像する内容を決めて想像したとしてもそれは意識的な作業なので、意識されていない部分には至らないかもしれません。かといって意識されていない部分を想像することは困難です。
そのため何を想像するかよりも意識的に想像する癖をつけていくことが重要ではないかと思います。想像する癖をつけることが目的なので内容はどんなことでもよいと思います。
たとえば、「昼食をカレーにするか牛丼にするか迷って結局カレーに決めた」という場合、言い方として「昼食をカレーにしない選択肢を選ばなかった」「昼食を牛丼にする選択肢を選ばなかった」「昼食を牛丼にしない選択肢を選んだ」などの言い方を想像してもいいですし、あるいは他に「あそこのカレーが美味しいという話を聞いた」とか「昨日も牛丼だったな」と想像することもあるかもしれません。
頭の中では常に様々なプロセスが進行していますが、その多くは意識されないまま進んでいます。意識されなくても問題のないプロセスもありますが、中には意識されないことで困った状況を引き起こしてしまうプロセスもあります。
意識されないプロセスそのものを直接知ることは難しいですが、普段から想像する癖をつけていくことで意識の幅が広がって、その時起こっていることに思い至る可能性が高くなるのではないかと思います。
上に書いたような想像を常にしていくことは労力的に厳しいですし、無理にやろうと思っても続かなくなってしまうと思うので、最初の内は場面を区切って後から想像してみるといいと思います。続けていくうちに癖がついてくればそれまでよりも必要な労力は少なくなりますし、想像する内容に意識を割けるようになればその内容について考える余地も増えてくると思います。そんなふうに想像することを繰り返していくことで意識することが出来る領域が少しずつ広がっていくのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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