心理カウンセリングの効果
1.心理カウンセリングの効果
最近では心理カウンセリングも徐々に浸透してきており、カウンセリングを受けたことがある、受けているという人も増えてきているのではないかと思います。また、受けたことはないけど興味はあるという人もいるのではないでしょうか。
心理職を生業とする立場の者としては当然カウンセリングを行うことには意味があるだろうと考えていますが、カウンセリングの主な進め方は相談者とカウンセラーで話をすることであり、それにどんな効果があるのかというのはわかりにくいのではないかと思います。
そこでこのブログでは、カウンセリングの効果についてどのようなものがあるのか考えてみたいと思います。
2.カウンセリングとは
カウンセリングは困りごとや悩みを抱えた相談者が、専門的な知識や技術を持ったカウンセラーとともに、話をすることを通して相談者が抱える問題の解決や解消に取り組んでいくことを指します。
カウンセラーが自分の専門性に基づいてアドバイスをすることもありますが、相談者とカウンセラーが相談者の抱える問題について話し合い共に考えていくことが基本的なカウンセリングの形になります。
当初は心理学的な相談に対してカウンセリングの言葉が用いられていましたが、現在では様々な相談活動にカウンセリングの名称がつけられています。
2-1.心理カウンセリングを始める前に
悩みや困りごとは生きていく中で避けられないものだと思いますし、たとえ順調に物事が進んでいる最中であっても生じてくることもあります。もしかすると、些細なことも含めれば悩みや困りごとのない時というのはないかもしれません。
悩みや困りごとの内容は様々ですが、解決までに比較的時間のかからない問題もあれば、長い時間を要する問題もあります。そして問題がいつ解決に至るのかというのはなかなか予測の難しいことでもあります。些細な問題の解決が容易いということもないかもしれませんし、重大な問題だから時間がかかるとも限らないと思います。解決が難しいと思っていた問題が偶然のきっかけによって解決するということもあるかもしれません。
悩みや困りごとを抱えた時、まずは自分で問題に取り組んでみたり、周囲に相談したりしながら対処していくことが一般的かと思いますが、対処に行き詰まってしまった時にはカウンセリングを利用することが状況打開の一助になることもあるかもしれません。
2-2.心理カウンセリングの目的・目標
悩みや困り事を抱えた時にそのことを相談するためにカウンセリングを利用するわけですが、その内容は多岐に渡ります。健康に関すること、生活環境に関すること、経済的な状況に関することなど様々ですが、悩みや困りごとの種類によって適した相談先があります。カウンセリングは専門的な相談支援全般を指す言葉ですが、心理カウンセリングはその名の通り心の問題に関する事柄を話し合っていくことが中心になります。問題はいくつかの要素が複合していることが多いですし、主な悩みや困りごとが心の問題ではなかったとしても、心理的な事柄が関係している場合には心理カウンセリングを行うことが役に立つこともあるかもしれません。
心理カウンセリングの効果について考えた時、どんな目的で心理カウンセリングを利用するのか、何を目標にして心理カウンセリングを進めていくのかについて考えていくことは大事なことです。少し極端なたとえになりますが、法的な問題について相談するために心理カウンセリングを利用したとしても有意義なものにはならないでしょうし、不全感の残る結果になってしまうと思います。法的な問題であれば法律の専門家に相談することで満足のいく結果を得られる可能性が高いと思います。相談内容とカウンセリングの専門性が一致していることが相談を効果的なものにするためには重要なことです。ただ、誤解のないように付け加えると、カウンセリングに行く前に目的や目標を明確にしておかなければならないというわけではありません。目的や目標についてカウンセラーと共に考え話し合うことはカウンセリングの重要なプロセスの一部です。目的・目標について考え話し合うことは抱えている問題について考え話し合うことと重なりますし、それはカウンセリングを効果的なものにするために必要なことです。妙な言い方ですが、カウンセリングの目的・目標について考え話し合うこと自体がカウンセリングの目的のひとつと言ってしまってもいいかもしれません。
心理カウンセリングを進めていくと色々な気づきを得られることが多いですが、その気づきによって抱えている問題の異なる側面を見つけることがあったり、問題の内容が変化したりすることがあります。そのたびに心理カウンセリングで取り組む事柄が微妙に変化していきます。毎回目的や目標について話し合うわけではないですが、繰り返し確認していくことで進む方向が少しずつ明確になっていくと思います。
2-3.心理カウンセリングの方法
カウンセリングは相談者とカウンセラーが話をすることができる環境が必要です。以下のような形式で行われています。
①対面 ②電話 ③メール ④ビデオチャット
①対面は相談者がカウンセラーのいる相談室まで出向いてそこで話をする形式です。誰かひとつの部屋にいるというのは緊張するものですが、直接会うことになるのでやりとりする情報は最も多くなります。
②電話③メール④ビデオチャットは任意の場所でやりとりを行うことができる形式です。人の多い場所で電話やビデオチャットは難しいかもしれませんが、メールであればどこでも可能かもしれません。直接会う形式ではないためやりとりする情報は限定されます。②音声のみ、③文字のみ、④音声と映像となり、届くもの以外の情報については確認するか想像するかになります。
カウンセリングは1対1、あるいは1対2など少人数で行うことが多いですが、相談者もカウンセラーも複数人で行うグループカウンセリングも行われています。グループは基本的に対面形式のみになると思います。
2-4.心理カウンセリングはどこで受けられる?
心理カウンセリングを行っている場所は大きく分けて以下の領域で行われています。
①医療 ②教育 ③福祉 ④産業 ⑤司法 ⑥カウンセリング専門機関
一般的にどなたでも利用が可能な場所としては①や⑥が挙げられます。病院の中で保健適用で行っていることもありますが、基本的には自費でのカウンセリングになり、利用するための条件などはないことが多いと思います。
②~⑤は基本的に利用する対象者が限定されています。②は地域の学校に所属している生徒・保護者や教職員、③はたとえば精神保健福祉センターなどが該当しますが、その地域の居住者や労働者が対象となりますし、⑤は保護観察や(医療)刑務所に入所する人が対象になります。
少し特殊なのが④で、産業保健の一部で会社の従業員にカウンセリングを提供しているケースがある他に、保険会社が自社の保険加入者に保険サービスのひとつとしてカウンセリングを提供していることがあります。
3.心の問題と心理カウンセリングの効果
上でも述べたように、心の問題に取り組んでくことが心理カウンセリングの大きな目的になります。個々の問題は様々な形があり得ますが、大きく分けると心の問題は情緒(感情や気分)、認知(思考や記憶)、そして行動の側面に分けられます。これらの側面が複合して具体的な悩みや困りごとを形作っています。ここでは3つの側面に分けて心理カウンセリングの効果を考えてみます。
3-1.情緒面の効果
感情や気分は自然と湧き起こってくるもので、コントロールするというのはなかなかできないものです。もちろんその場で表現するかどうかを選ぶことはできますが、その時の情緒をすぐに表現できるとも限りません。情緒の内容によってはその時の状況にそぐわないために表現できないこともあると思います。情緒の強さにもよりますが、情緒表現を抑えなければならないことは強いフラストレーションをもたらします。それが続けば強いストレスとなって心身の健康を損なってしまうでしょう。
心理カウンセリングを行っていると、相談される方から「今まで(ほとんど/あまり)話したことがなかった」話を聞くことは少なくありません。やりとりの中には自覚的かどうかに関わらず色々な情緒が含まれています。強く抑え込まれたり排除されたりしてきた情緒が表現されるには相応の時間を必要としますが、カウンセリングに参加する両者のやりとりから情緒表現が促されて、気持ちが楽になったり重しがとれたような感覚になったりなど、何かから解放されたような感覚を得られることがあります。
情緒的な変化が起こることで、時分の中の情緒により気づきやすくなり、ポジティブなものであってもネガティブなものであっても自己の情緒を表現することにより自由になることができるかもしれません。
3-2.認知面の効果
心理カウンセリングは話をする、あるいは話をしないことで進んでいきます。心理カウンセリングでは単に話し合う内容だけではなく、カウンセリングに参加する両者がどんなやりとりをしているのかということが重要になります。言語的・非言語的にどんなやりとりが行われているのかを捉えることで、自分のことや相手のことを知っていきます。話していること、考えていること、感じていること、身体の動きなどなどが知るための手掛かりになります。
相談する側(クライエント)と相談される側(カウンセラー)の両者がお互いのことを知っていくということを妙に思う人もいるかもしれません。クライエントが自分のことを知るためにカウンセリングは行われるものではないかと思うのではないでしょうか。自分のことを知り理解していくことは心理カウンセリングで得られる効果のひとつですが、そのためには自己を主観的に捉えるだけでなく、客観的に捉えることも重要になります。俯瞰的に自分を眺める、あるいは他者の視点から自分を眺めることと言えるかと思います。自分を他人のように眺めることもできますが、どうしても見えない部分というのが出てきてしまいます。そのためカウンセラーから自分がどう見えているのか、何故そのように見えているのかを知ることが自分の見えていない部分、気づいていない側面を知るために有用になります。
心理カウンセリングではクライエントが自分の話をし、カウンセラーはそれを聞くことが中心であるため、カウンセラーのことを知るといっても限定的ではありますが、カウンセラーを知ることを通して自己理解を深めていくことができ、自己を客観視することや相対的に捉えることで、考え方の癖に気づいたり考えを整理したりすることにつながっていきます。
3-3.行動面の効果
心理的な問題に関する悩みや困りごとには、情緒面や認知面の事柄だけでなく行動面の問題を抱えていることもあります。たとえば、止めたいと思っているのに止められない行動や不安が強いためにしようと思っても出来ない行動などがあると思います。そのような行動面の変化も心理カウンセリングの効果のひとつとして挙げられます。
上でも例として不安を挙げましたが、行動は情緒や認知と強く関連しています。何かしら行動を起こす時にはそのための動機が存在しますが、動機は情緒や認知から生じていて、自分の情緒や認知に対する理解を深めていくことでそれらと行動のつながりに気づきを得ることができます。
3-4.変化の広がり
情緒や認知と行動の間に関連性があるということは、情緒面や認知面の変化が起こることによって行動の変化が生じる可能性があるということですし、反対に行動面の変化が起こることで情緒面や認知面の変化が起こる可能性があるということです。心理カウンセリングでどんなことに取り組んでいくかは人によって異なりますが、ある部分の変化は他の部分へと波及していくことが多いです。抱えている問題やカウンセリングの目的・目標、カウンセラーの専門性などとの兼ね合いもありますが、自分にとって取り組みやすい事柄から扱っていくことが心理カウンセリングをより効果的なものにするために重要なことだと思います。
3-5.カウンセリングの注意点
カウンセリングは続けていくことで次第に効果が現れてくるものだと思いますが、ただ続けていけば効果が現れるかというと、それは難しいかもしれません。
上記したように、カウンセリングの行う際にはぼんやりとではあっても目的・目標を意識していくことが重要になります。目的・目標を持つことでカウンセリングで話し合われている事柄の間のつながりが見えてくると思いますし、モチベーションの向上にもつながるのではないかと思います。
また相談者とカウンセラーの間の信頼関係が構築できるかどうかも重要になります。カウンセリングを続けていくと相互の認識のズレが発生することは避けられませんが、そのようなズレについて話ができる関係を構築することが不可能だとすれば、カウンセリングが効果的なものとなるのは難しいかもしれません。
目的・目標も信頼関係も確立させていくには時間を要するものですが、それらの点に意識的に取り組んでいくことでカウンセリングをより効果的なものにできるのではないかと思います。
4.まとめ
カウンセリングをやってみようと思う時は、何かしら困りごとや悩みを抱えている時だと思います。抱えている問題をなんとかしたいという気持ちが行動を起こすための動機となります。なんとかするための選択肢のひとつとしてカウンセリングはあります。
ただ、なんとかしたいという動機があったとしても何をどうしたいのかという目的・目標は必ずしも明確であるとは限りません。問題が起きてしばらくは状況の整理がつかずに混乱した状態にあるかもしれませんし、問題を長く抱えている場合にはどうしたらいいのか途方に暮れているかもしれません。そのためカウンセリングを始めるに当たって動機は必要ですが、目的・目標が明確でなければならないということはありません。カウンセリングの中で話し合っていくことで次第に明確になっていくと思いますし、話し合うことで動機を維持し高めることにもつながります。
カウンセリングの目的・目標とカウンセリングを行うことで得られる効果は重なってきます。心理カウンセリングで取り組んでいくことは基本的に心理的な問題に関わる事柄になりますし、得られる効果もその取り組む内容に関係したものになります。心理カウンセリングの効果としては情緒面・認知面・行動面の変化に分けられます。それぞれの面は関連し合っており、ある面の変化が他の面の変化につながっていくことがあります。そのため動機づけの強い事柄や取り組みやすい側面を扱っていくことがカウンセリングを進めていく上で重要になります。
______________________________________________
「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
______________________________________________
新宿・曙橋でカウンセリングルームをお探しなら新宿四谷心理カウンセリングルームへお越しください