低体重状態での栄養素の欠乏と食行動のコントロールについて
1.シンデレラ体重
最近ネットを見ていたら「シンデレラ体重」という言葉があることを知ったのですが、調べてみたところ、いつごろから使われているかは定かでないようですが、BMI値が18.0になる体重をシンデレラ体重と呼ぶようです。
BMI(body mass index)は健康診断などでも使われているので聞いたことがある人が多いと思いますが、体重(kg)を身長(m)の二乗で割ることで算出され、値は以下のような判定になります。
~18.5(低体重)
18.5~25.0(普通体重)
25.0~(肥満体重)
ちなみに、日本ではBMI22.0が標準体重とされていますが、この数字は統計的に最も健康リスクが低いため標準とされているようです。
シンデレラ体重のBMI18.0は低体重に分類される数値になります。体型や体重は目に見えるもの、あるいは数値でわかるものなので、割合で言えば女性の多いかもしれませんが、気になるという人も少なくないのではないでしょうか。20歳女性の平均身長・体重からBMIを算出すると20.5前後になるので実際に細身の人が多いのだと思います。
今に始まったことではないですが、ダイエット食品やサプリメント、ダイエット方法などを目にすることはよくありますし、メディアに出演する芸能人やモデルも細身に見える人が多いので、そういったことも体型や体重に意識が向くきっかけになっているかもしれません。
2.低体重の栄養状態
BMI18.5未満は「痩せすぎ」ということになりますし上に挙げた平均は20.5でしたので、そこまで数値の低い人はあまり多くはないかもしれませんが、体質や筋肉量、骨密度も関係しますが、BMIの値が低いということは摂取する栄養が少ないということでもあります。
低体重が複数の健康リスクの要因になることは知られていましたが、低体重者の健康状態、栄養状態を調査した研究は多くはありませんでした。そうした実態調査の研究が藤田医科大学から発表されていました。
シンデレラ体重がもたらす健康リスク
若い女性のモデル体型指向に警鐘
~本学教職員44名を対象にした解析結果より~
(藤田医科大学プレスリリース)
この研究はBMI17.5未満の若年女性の健康診断時の栄養状態について調査したものです。対象となった女性たちには、握力低下やコレステロール低下、ビタミン類の欠乏などの特徴が見られたということでした。
同じように低体重だったとしてもどんな食事を食べているかはそれぞれ異なっているため状態像や欠乏している栄養素に違いがあるのだと思いますが、食事内容からすると必要となる栄養分を摂取できていないことはほぼ共通しているようです。
3.ダイエットと摂食障害
太りすぎも痩せすぎも普通体重から大きく離れるほど健康リスクは大きくなります。生活習慣病など、今までは栄養の摂りすぎや偏りがクローズアップされることが多かったですが、低体重も同様に健康リスクを高めます。特に女性の場合は妊娠・出産に関連してリスクを指摘されていました。
ただ、それでも摂取する栄養の多すぎ、少なすぎを自覚したり指摘されたりすることによって食生活を変えることができれば将来的なリスクを下げることができます。自分の状態に合わせて食事を調整できればリスクが生じた場合にも対応はしやすいと思います。
問題になるのは食行動のコントロールができなくなってしまうことです。食行動の異常は摂食障害というカテゴリーになりますが、際限なく食べてしまう、極端な食事制限、大量に食べてもどすなどの行動が止むことなく続いてしまいます。
特に多いのは極端な食事制限に続く過食嘔吐です。思春期くらいのダイエットがきっかけになることが多いのですが、体型・体重を気にして食事制限をするようになり、しかし空腹にはなるので食べなかった分大量に食べてしまう。でも太りたくないので食べたものをもどしてしまうなどの行動です。これが続くと歯止めが利かなくなり、時に夢遊病のように冷蔵庫の中のものを食べていることもあります。
摂食障害を患っている人には低体重の人が多いのですが、低体重による栄養障害だけでなく、過食嘔吐によって臓器にもダメージを負ってしまうこともあります。
4.摂食障害における自己認知
上で太りすぎ、痩せすぎでも食行動の食生活を変えることができればリスクを下げることができると書きましたが、特に過食嘔吐を繰り返すような摂食障害の人の場合、食行動を改善していくことは困難なことが多いです。
それは、ひとつには太ることへの恐怖心から食行動のコントロールが難しいことが挙げられますし、また別の理由としては、体型・体重に関する自己認知を訂正することが困難なためでもあります。
摂食障害の人は痩せるために食事制限をすることが多いのですが、傍から見ると明らかに痩せすぎな体型・体重であるにも関わらず、本人はまだ太っていてさらに痩せなければならないと考えています。一方でそのような認識がありながらも、他方で同じように痩せすぎな人を見ると「痩せすぎだから食べた方がいい」と言うこともあります。一般的な瘦せすぎの認識はあるのですが自分に対する認識はそれに当てはまらないことが多いのです。
そのため「太っていない」とか「痩せすぎている」といった説得はあまり効果をもたないことがほとんどで、場合によっては入院によって状態の管理を行わなければならないことも少なくありません。
5.中長期的なダイエット
摂食障害の治療では、食事療法を行いながら自己認知への働きかけや心理的な問題の取り組みを行っていくことが基本になりますが、状態が重くなるほど十分な食事を摂ることが難しくなりますし、治療過程も長期に及ぶことが少なくありません。身体的・精神的な不調で困ることはあっても低体重状態に問題意識をもちにくいため、たとえば入院で体重が増えても退院後はまた体重が落ちてしまうことも多いです。
摂食障害の問題のひとつは食行動のコントロールができなくなることです。ダイエットなどで食事制限をしている状態では栄養不足や偏りが生じやすくなり、それが慢性化すると一種の飢餓状態になります。飢餓状態が続くと栄養摂取の欲求が高まり、欲求が高まりすぎれば食行動のコントロールが破綻してしまうのだと思います。
一度コントロールが破綻してしまうとそこからの立て直しは困難になってしまうので、予防的な観点が重要になりますが、そのためにはやはり食事をしっかりと摂っていくことが必要です。たとえ食事制限をして量を減らしていたとしても特定の栄養素が欠けないようにバランスのよい食事を心がけることが必要だと思います。
現代的な価値観ではスマートな体型は魅力のひとつだと思いますし、自分にとって理想の体型になる、維持するためにダイエットに励むというのは多くの人が経験していることなのではにないかと思います。
ただ、そのために過度な食事制限をしてしまうと重大な結果を招いてしまうかもしれません。急激な変化はやはり何かしらの無理をしている状態だと思います。短期的に体重を落とすというのは誘惑的なものではありますが、中長期的な視点でダイエットを行っていくことが結果的に望むものを得られる可能性を高めるのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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