自分が身につけている型・パターンの有効性と無効性
1.藤井名人おめでとうございます
先日、将棋の名人戦第五局が行われ、そこで藤井六冠が渡辺名人を破り、史上最年少で名人位そしてタイトル七冠を獲得することがニュースになっていました。
将棋・藤井聡太六冠が名人戦制す 最年少で七冠に
(日本経済新聞)
さらに残るタイトルの王座戦でも勝ち残っていて、保持しているタイトルを防衛することが条件にはなりますが、今年の秋には初めての八冠制覇が達成されるかもしれません。
私自身は子どもの頃に将棋に触ったことがある程度で、棋譜を読んで対局の内容について考えたりすることはできませんし、藤井さんの凄さはよくわからないですが、インタビューなどを読んでいると勝負へのこだわりと同時に自分の将棋を追求しているという印象を受けます。もちろん自分の将棋を追求しているのは彼だけではないと思いますが、追求の積み重ねが新手という成果につながっていくのだと思います。
史上初や最年少というのはもちろん偉業だと思うのですが、将棋の世界において先人のいない新たな道を切り拓いていくところに藤井さんの凄さの一端があるのかもしれません。
2.温故知新
囲碁や将棋には定石、あるいは定跡と呼ばれる決まった打ち方、指し方があります。定石は今までの研究から最善とされている打ち方で、初学者はまず定石から覚えていくようです。以前何かで見たのですが、ある棋士の方が教えられた時は、定石の意味や理由については考えずひたすら定石を覚えることに専念した結果、次第に定石の意味や理由に気づくようになっていったということでした。
定石はAの時にはxと打つ、Bの時にはyと打つというようにある種の型、パターンだと思いますが、初学者が型を身につけるというのは土台を築くようなものなのだと思います。土台が強固であればあるほど、その上にはより多くのものを積み上げることができますし、揺るがぬ土台であれば上屋が崩れてしまう可能性を減らすことができます。
定石を覚えることは藤井さんも例外ではないだろうと思います。新手というのは何もないところから生まれてくるわけではなく、その事前段階として定型的なものを身につけることが必要なのかもしれません。どんなものが新しいのかを知るためには古いものを知っていなければなりませんし、将棋に関して言えば、手がただ新しいだけでなく有効なものでなければなりません。
定石を身につけることは過去の歴史の積み重ねから学ぶということだと思いますが、過去から現在を見ることと現在から過去を見ることを繰り返していくことで新しい手が見えてくるのかもしれません。
3.日常の中の定石
定石という言葉は囲碁や将棋にだけ使われる言葉ではなく、日常の中でも使われる言葉です。ということは日常の中でもやはりある程度決まった型、パターンがあるということでもあります。たとえば食材をまとめ買いして冷凍しておくとか、朝起きたら軽くストレッチをするなど、色々あると思います。
人の生活の仕方は千差万別なので、日常の中の定石は囲碁や将棋のような最善手というよりは生活の知恵とかルーチンワークなどに当たると思います。やるべきことというよりは、やっておくと便利とか調子が良いなどの行動や考えです。
定石的な行動や思考は最初の内は注意を払って行われているものですが、次第に注意集中の必要は減っていって効率化されていきます。そうすると作業スピードが上がったり、また別の事柄にリソースを注ぐことができるようになったりします。
日常の中の定石は誰にでも当てはまるものではないですが、自分なりの型やパターンを身につけることで作業を効率化し、活動の幅を広げていくことに役立っています。
4.自分の過去と現在に注意を向ける
自分の行動や思考がパターン化され効率的になることは意識的な努力をする必要性が少なくなるということですが、それは同時にパターンが繰り返されることで自分が身につけた型に気づきにくくなるということでもあります。
人は成長していく過程で数多くの型を身につけていくので自分の型を全て把握するのは困難なことですし、今の状況に自分がどんな型で対応しているのかわからないことも少なくありません。
同じ失敗を繰り返してしまったという経験のある人もいると思いますが、失敗が繰り返されてしまったのは自分が用いている型やパターンが現状の生活には合わなくなっているためかもしれません。
身につけた型やパターンは、幸か不幸かに関わらず、その時には何らかの有用性をもっていたのだと思いますが、汎用性が高いとしてもそれがずっと通用するとは限りません。そのため身につけた型を変容させたり新しい型を身につけることが必要になります。
今の自分がどのような型やパターンを用いているか知ること、それが過去にはどのように有効だったか、今の生活の中ではどのように有害になっているのか、そのように今の自分と過去の自分を関連づけて考えていくことで、うまくいかない状況を乗り越えるための手が見つかるかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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