動機づけを高めるための要因と他者との協力の重要性について
1.動機づけの過程
人は起きている間ほとんど常に何かしらの行動を起こしています。やりたくてやることもあればやりたくなくてやらないこともありますし、やりたくないけどやるとかやりたいけどやらないということもあります。能動的か受動的か、意識的か無意識的かに関わらず、行動のための選択を続けています。
行動を誘発するための内的な力を動因と言い、欲求・動機がそれに当たります。ただ、動因があるだけでは行動は完結せず動因に対応した外的な対象が必要になります。そのような外的対象を誘因と言います。
食事を例に出せば、食欲が動因、食べ物が誘因になります。動因と誘因の両者が揃わなければ行動が起こらないということはなく、どちらか一方だけでも行動を起こすための要因になります。たとえば食欲が強ければ食べ物を探そうとする行動が起こりますし、好物が目の前にあればそれに手を伸ばすかもしれません。
何かしらの要因によって行動が起こり、要因が解消することによって行動が終了するまでの一連の流れを動機づけ過程と言います。行動を起こすところまでなら動因か誘因の片方があればいいのですが、動機づけ過程の始まりから終わりまでの間には動因と誘因の両者が必要になります。
上の例で言えば、食べ物を見つけたとしてもそれが嫌いな物でどうしても食べる気にならず探す行動を続けるかもしれませんし、好物に手を伸ばしたけれども食欲が湧かなければお腹が空くまで待つかもしれません。
このように動機づけ過程の始まりから終結までを見た場合、動因と誘因をセットで見ていくことが重要です。
2.動機づけの複雑さ
食事や睡眠などの生理的欲求や住環境などの安全欲求は、それを満たせるかどうかは生存に直結するため、どのように満たすかという手段・方法の違いはあっても満たさないという選択は基本的にはありません。
(参考ブログ:自分の欲求との付き合い方)
そのため生理的欲求や安全欲求に対する動機づけ過程は比較的シンプルなのですが、人の場合、生理や安全という基礎的な欲求だけではなく、社会的欲求や承認欲求、自己実現欲求があり、それらの動機づけ過程にどう対応していくかとなるとかなり複雑になってきます。
上位の欲求は欲求同士が相反する場合もありますし、欲求の満足に他者が関係している場合もあります。そのため欲求を即時的に満たすことが難しい場合が多く、ある欲求の満足を諦めることでその他の欲求が満たされることもあります。欲求の満足を延期させること、欲求を満足させる方法だけでなく、どの欲求を満足させどの欲求を満足させないかなどの選択をすることが必要になります。
複数の動因、複数の誘因が同時に存在する時には、どんな行動を起こすべきかというのは簡単には決められなくなります。その場合には自分の欲求や置かれた状況を整理して考えることが重要ですが、それでも他者がどのように関わってくるのか、自分が感情がどう動くかなど多様な要因が関係してくるため動機づけ過程はどうしても複雑になりがちです。
3.リハビリで動機づけを高める要因
高い動機づけを維持しながら取り組みを進めていくことはどのような分野にとっても重要なことです。動因や誘因に対する意欲が低下してしまっては動機づけ過程自体が成り立たなくなってしまうからです。
カウンセリングも同じところがあるのですが、医療ではリハビリテーションの取り組みで動機づけが課題になることが多いです。リハビリは低下した機能を回復・向上させることが目的ですが、その取り組みは長い期間に渡ってしまうことが多く、また効果が見えにくいこともあるため、どうしても動機づけを維持することが難しくなるタイミングがあります。
そのようなリハビリテーションに対する動機づけを高める要因について調査を行った研究が発表されていました。
何がリハビリテーションに対する患者の意欲を高めるのか?
~患者・医療者間の意見の一致と相違~
(浜松医科大学報道発表(PDF))
研究ではリハビリへの動機づけを高める要因について、患者・医療者双方にアンケートを行い、両者の共通点と相違点を明らかにしています。
両者で意見の多い共通点としては
・「回復の実感」
・「明確な目標の設定」
・「患者の生活に関係のある訓練」
の3つが患者の動機づけを高める要因として挙がっていました。
異なる点としては
・「医療者間よりも患者間の方が動機づけを高める要因に個人差が大きいこと」
が挙げられていました。
このことから、「中核的な動機づけ要因に加えて、患者背景や個々の患者の好みも考慮す
べきである」と結論されていました。
4.認識の共有
リハビリへの動機づけを高める要因をまとめてみると、患者さんが主体的にリハビリに取り組んでいけるようにしていく、ということになるのではないかと思います。言われたからやっているような状況では動機づけは高まらないでしょうし、なかなか効果的なものにもならないように思います。
患者さんが自分にとっての動因と誘因をある程度明確に認識した上で、どの動因と誘因を一致させることで満足を得られるのか、どのようにリハビリを進めていくことで一致度を高められるかということを考えることが重要なのだと思います。
そのためには患者さんの個別性を理解していくことが重要と思います。今回共通点として挙げられた3つの要因は意見が多かったということであり、全ての患者さんがそれらを重視しているわけではありませんし、たとえそれら3つを重視してたとしても、他の重視する要因が変われば、それぞれの要因との兼ね合いも変わるかもしれません。
また患者さんの個別性に対する理解は、患者・医療者のそれぞれが勝手にもっていればいいということでなく、個別性に対する認識を共有していくことが重要なのだと思います。研究の考察でも「背景や好み」に言及していましたが、リハビリとして何を行うかだけでなく、何のために行うか、どんなことを重視しているかを共有することで、患者・医療者双方が共通の目標をもって協力してリハビリに取り組むことができるのではないかと思います。
5.自分の動機づけを整理する
人は多様な欲求をもっています。生理的欲求や安全欲求は比較的シンプルと書きましたが、たとえば食欲であっても人によって誘因となる食べ物は異なりますし、同じ個人であっても日によって違う物が食べたくなると思います。
このように個々人で多様な欲求をもっている上に、社会的欲求から上位の欲求になると他者との関係も絡んでくるので、動因-行動-誘因の連鎖はとても複雑なものになります。自分の動因と誘因をどんな行動でつなげるのか、複数の動因・誘因をどのように順位付けるか、他者の動因-行動-誘因の連鎖とどうやって折り合いをつけるのかなど、考慮すべき事柄が多くなり、場合によっては自分自身の欲求を把握すること自体が難しくなってしまうこともあります。
自分の状態についてよくわからなくなってしまうことは長いスパンで考えると避けられないことだと思います。そのような時には自分なりに動機づけ過程を整理して考えてみたり、1人で難しければ他者とのコミュニケーションを通して整理していくこともひとつだと思います。
現代のメディア環境であれば、必ずしも他者と直接関わることなく社会的欲求や承認欲求を満たすことが可能かもしれません。たとえばSNSを使えば他者の発信していることからその人を知ることができますし、自分が発信した内容が賞賛されることもあるかもしれません。
動機づけ過程の多くは半意識的だったり無意識的だったりするので、自分の動因と誘因は常に意識するようなものではありませんが、意欲が下がってしまい何のためにやっているのかわからなくなってしまった時には、自分の動因と誘因について整理し主体的に行動を選択していくことで、再び意欲を向上させ行動や結果に対する満足感を得られるかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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