パーソナリティと人間関係 ~他者の期待と自己の欲求の兼ね合い~
1.パーソナリティにおける気質と環境
Aさんは賑やかな人とか、Bさんは穏やかな人というように、自分も含めてある人の特徴を表す時には様々な形容詞が使われますが、人はそれぞれ考え方や行動の傾向性があり、同じ場面に遭遇しても異なる考え方や行動を示します。こうした傾向性はパーソナリティ・人格と呼ばれています。
パーソナリティは誕生時に備わっているものではなく、成長していく過程で少しずつ形成されていくものですが、生まれた時点でも赤ちゃんごとに異なる傾向性をもっています。たとえば、視覚的な情報に反応しやすいとか聴覚的な情報に反応しやすいなどです。こうした生まれつきの傾向性は気質と呼ばれています。
パーソナリティの形成は生まれもった気質的な傾向性と環境からの影響の相互作用によって進んでいくため、どんな気質を備えているかによって環境からの情報の受け取り方が異なります。極端なたとえにはなりますが、生まれつき視覚情報を受け取る器官が使えないとすれば、そうでない人と比べて環境からの情報は異なってきますし、パーソナリティの形成もまた違ってくるでしょう。
気質も環境もパーソナリティ形成に大きな影響をもっているのですが、大人の段階から考えると環境からの影響の方がパーソナリティへの影響はより大きいように感じられます。このように感じられるのはおそらく、気質は生まれてから基本的に変化しないと考えられるのに対して、環境からの影響は生きている限り受け続けるためであるように思います。また、パーソナリティのコアな部分は5~6歳頃までにある程度固まってくるのですが、そのようなコアな部分はパーソナリティのベースとしてあまり意識されず、環境の影響を受けやすいより表層的な部分が意識されることが多いからというのもあるかもしれません。
気質は環境からの刺激に対する感度や反応性に関わるものなので、特に幼少期にはその影響は大きいものですが、成長してからは場面によって気質的な傾向性を抑えるようになるかもしれません(たとえば苦味や辛味といった味覚)。ただ、強く疲労した状態や対処しきれない状況のもとでは、気質を含めたパーソナリティのコア部分が表れやすくなるかもしれません。
2.パーソナリティの傾向性と確率
パーソナリティは人の考え方や行動に傾向性や一貫性があることを表す概念ですが、当然ながら同じ場面であっても常に同じ考え方や行動をするわけではありません。その時の状態や状況によって、同じ場面であっても異なる考え方や行動をすることがあります。
傾向性はあくまである考え方や行動をする可能性が高いということであって、それ以外の考え方や行動をする可能性は存在しています。たとえば、運動することが好きだったとしても体調が悪かったり、あるいは仕事中だったりすれば運動をしない可能性が高くなります。もちろん、それでも運動をする場合もありますが。
状態・状況に関係なく、ある考え方や行動が止められないという場合には依存症状ということも考えられます。依存症は物質やプロセスに対する依存だけでなく、パーソナリティとも関係してくるのですが、論点が広がってしまうのでまた別の機会に譲りたいと思います。
人のその時々の考えや行動はパーソナリティの傾向性とその時の状態・状況との兼ね合いによって決まってきます。この時に状態・状況の影響をどれほど受けるかは、パーソナリティの在り方によって変わってきます。自己を押し出す傾向が強いほど(たとえば我が強いなど)影響を受けづらくなるかもしれませんし、自己主張が控えめなほど(たとえば流されやすい)影響を受けやすいかもしれません。
パーソナリティの傾向性によって、人の考えや行動をある程度予測することはできますが、実際にどんな考えや行動が起こるかは確率的なものになります。
3.他者の存在と緊張感
人の考えや行動の決定に、パーソナリティに加えて環境要因が影響するのですが、その環境要因の中でも影響が大きいのは、他者からの影響、つまり人間関係が挙げられるのではないかと思います。ここで言う人間関係は必ずしも知り合っている関係に限りませんが、友人・知人からの影響の方が知らない人からの影響よりも大きいことが多いのではないかと思います。
人の目が気になる、というのは多くの人が経験のあることだと思いますが、一人でいる時には気にせずできることであっても、周りに人がいる時には控える行為があるのではないかと思います。また、委縮して行動できなくなってしまったり、無理に活動的に振舞ったりということもあるかもしれません。
他者の存在は多かれ少なかれ緊張を生じさせるものだと思います。緊張することが悪いことというわけではありませんが、緊張感は心の状態や身体の状態に大小の影響を与えますし、そうした影響に対してどのように反応するかはパーソナリティの在り様によって変わってきます。緊張感があることによって自己表現が促進される人もいれば、抑制されるという人もいると思います。
このような人との関係で生じる反応も個人のパーソナリティの傾向性の一部なのですが、傾向性に沿った反応が必ずしも自我親和的なものとは限りません。他者の在り様によって自分の在り方が変わっている感覚が強い場合には、自分のことがよくわからない、自分がないかのように感じられることもあるのではないかと思います。
4.パーソナリティと人間関係
関係を重ねていくと、Aさんはこういう人、というように相手に対するイメージが形成されていきます。そのイメージが固まっていくと、きっとAさんはこうするだろう、という予測が立つようになるのですが、こうした予測は意識されない部分でなされていることも少なくありません。
予測は相手に対するある種の期待と考えることができますが、期待は相手に伝わることで相手に対するプレッシャーになるかもしれません。プレッシャーに対してどのように反応するかは人それぞれ異なりますが、期待に応えようとする傾向性が強い場合には、相手の期待に合わせて自分の言動を調整しようとします。そのような状況が繰り返されると、期待に応えようとする人は自分の欲求に気づくことが難しくなってしまうかもしれません。
相手に合わせることもパーソナリティの傾向性の一部ではあるのですが、それはあくまで一部であってすべてではありません。合わせようとする面もあれば自己主張しようとする面もあるはずなのですが、合わせることが当たり前になると自己主張することは抑制されてしまうかもしれませんし、そうすると主張すべき自己がわからなくなってしまうかもしれません。
相手によって、また場面によって振る舞い方が変わってくることは当然あることなのですが、それもまたその時々の相手・状況と自分自身との兼ね合いによって微妙に変わってくるものです。場合によっては普段とらないような言動をとることもあり得ることなのですが、そうではなくいつも同じパターンの振る舞いを繰り返している時には、自分の欲求や相手の期待、自分と相手の関係といったものを見直してみることも必要なことと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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