心理的な健康の損傷とメンタルヘルスサービスの利用しやすさ
1.うつ病が慢性化することのリスク
人は日々の生活の中で様々なストレスを感じています。気分転換やストレス解消によって、それらのストレスが適正な水準に保たれているなら、ストレスは生活にメリハリを生むための有用な刺激になりますが、過度にストレスを感じる状態が長く続くと(あるいはストレスが過少な場合もあるかもしれません)心身に様々な症状が生じます。
過度な精神的負荷がかかった結果生じる状態の中でよく見られる状態としてうつ病が挙げられます。精神疾患の中でもうつ病は発症率の高い精神疾患であり、調査によって若干の幅はありますが、うつ病の障害有病率は6~8%程度といわれています。この数字は診断基準を満たす状態の割合なので、診断基準を満たさないようなうつ状態になる人も含めるとより高い数字になると思います。
うつは心の風邪と形容されることがあります。うつはどんな人でもなる可能性のある状態であり、精神的な問題を抱えているからうつ病になるわけではないという意味合いが込められているのだと思います。精神疾患に対する先入見を取り除いていくためにはそのような表現をすることも必要なことだとは思うのですが、風邪という表現からうつを軽く捉えてしまう可能性もあるように思います。
症状の程度や発症に至るまでの経緯によっても経過は異なります。重いうつ症状を患ったとしても一過性の経過を辿ることもありますし、回復と悪化を長い期間繰り返して慢性化していくこともあります。一度寛解しても再発する可能性はあるのですが、30%の人が寛解に至らず慢性の経過を辿ると言われています。慢性化してしまうと長い期間にわたって心身の機能が障害されてしまいます。悲観的になることはないですが、心身の不調を感じた際にはやはり治療を検討することが大事と思います。
2.うつ病の新たな治療法
うつ病の治療は薬物療法を中心に、必要に応じて休息や環境調整を取り入れて進められていきます。薬物療法と併用して、あるいは単独でカウンセリングを継続していく人もいますし、薬が効きづらい場合には電気治療や磁気治療を行うこともあります。ただ治療の効果は個人差があるものですし、電気治療や磁気治療は専用の設備が必要になります。薬物療法がなかなか奏功しない場合にまた別の治療法を試したいと思っても難しいこともあるかもしれません。
うつ病の治療法の開発研究は日夜行われていますが、その中でも比較的導入しやすく、副作用も少ないことが期待される方法が発表されていました。
うつ病に対する超低周波変動・超微弱磁場環境(ELF-ELME)治療による症状改善を解明
(名古屋大学研究発信サイト)
これまでの研究からうつ病の発症や悪化にはミトコンドリアの機能異常が関連している可能性が報告されており、上記の研究では機能低下したミトコンドリアを除去し、新しいミトコンドリアを誕生させて機能を活性化させることでうつ病の改善を図っています。手続きとしては超低周波超微弱磁場環境を発生させる装置を頭に装着し、それを8週間、1日2時間続けるというものでした。対照群と比較した効果研究など、今後検証すべき事柄は多く残されているようですが、頭に装着できるくらいの大きさの装置なので持ち運びも可能ですし、磁場を発生させるといってもかなり微弱なもので、少なくとも今回の研究では有害事象は見られなかったということです。
研究グループは装置を用いた在宅治療を想定しているようでした。装置の価格によっては、在宅治療は実際には難しいかもしれませんが、改良が進んで薬を処方するのと同じくらい手軽なものになれば、一人ひとりが利用することも可能になるかもしれません。
3.心理的健康の増進のために
研究グループは今回の治療法が「うつ病治療に革命的で画期的な変化をもたらす可能性」があると締めていましたが、確かに効果が高く、誰でも利用でき、副作用もない治療法となれば、もうこの治療法以外は必要ないというふうになるかもしれません。もちろん今後の研究結果次第ではありますが、うつ病の治療に限らず、多くの治療法には効果に個人差がありますし、うつ病の発症、悪化に関わる要因がミトコンドリアだけとも限りません。原因が違えば異なる治療法が必要になる可能性は高いですし、治療法がひとつあればそれで十分というようにはなかなかならないのではないかと思います。
ただ、治療の選択肢が増えるというのはかなり重要なことだと思います。うつ病に罹患した人の30%の人が寛解まで至らないというのは自分に適った治療を受けることが難しい状況なのかもしれませんし、現在行われている方法では治療が困難ということなのかもしれません。新しい治療法の開発や病理の解明によって治療困難なケースは減っていくことが期待されますし、それが利便性の高い方法であれば、うつ症状の程度に関係なくサービスを受けることが一般的になるかもしれません。
現状で達成されていないことをあまり希望観測的に考えない方がいいとは思いますが、診断基準を満たさなくとも生活がしづらくなってしまう状態は当然あり得ますし、そのような状態にある人たちは統計的な数値には表れにくいと思います。ただ統計に表れないから無視できるかというとそんなことはありませんし、心理的な健康を害する人が増えれば社会的な影響も大きくなります。それを避けるためにはメンタルヘルスに関する社会的な取り組みは重要ですし、また心理的な事柄を相談することに対するハードルを下げたりアクセスしやすくしたりする取り組みも重要です。選択肢が多様化することによってそうした取り組みを進めることができるのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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