複数の観点から食事の質を評価することの重要性

1.睡眠、食事、御手水
生活を送る上で欠かさず行っていることが人それぞれあると思いますが、あらゆる人にとって欠かせないものとして食事、睡眠、御手水があります。これらが欠けてしまうか不十分になってしまうと生存が危うくなるか、そこまでいかなかったとしても健康状態にはネガティブな影響を与えるものです。
御手水はちょっと置いておいて、食事と睡眠はただとればいいというものではなく、その量・時間と質が重要になります。睡眠についてはショートスリーパーやロングスリーパーの例外的な人もいますが、多くの人は6~8時間ほどが適正な睡眠時間と考えられていますし、浅い睡眠と深い睡眠の、REM睡眠とノンREM睡眠のサイクルが安定しているほど睡眠の質が高いと考えられます。
このように睡眠に関しては適正な時間や質の良し悪しは個人差はありつつも多くの人に比較的共通しています。それに対して食事の量や質の評価はどうでしょうか。睡眠に比べると食事の量や質を多くの人に共通するものとして評価するのは難しいように思います。それは食事を評価する際の基準が複数あって、ある人にとって良い食事が他に人にとっても良い食事とは限らないからですが、食事の質を評価する試み自体は行われています。
2.栄養素と食品の多様性による食事の質の評価
食事の質の評価するための基準はいくつかありますが、どんなものを食べているか、どんな栄養素を摂取しているかという点は可視化しやすいポイントだと思います。
日本人の子どもにおける超加工食品の摂取量と
食事の質との関連
(東京大学プレスリリース(PDF))
この調査研究では、摂取する栄養素と食品の多様性と糖分、塩分、脂質から食事の質を評価しています。多種の栄養素を様々な食品から過不足なく摂っているほど食事の質が高いと評価されます。そして食事の質のスコアと1日の総摂取カロリーにおける加工食品の割合の高さの関連を調べた研究になります。加工食品は未加工食品~超加工食品の4段階に分けられていましたが、摂取カロリーにおける超加工食品の割合が高いほど食事の質が低いという結果になっていました。
超加工食品の割合が高く食事の質が低いことが、健康や身体的な病気などにどのように影響するのかについては今後の研究課題になっていましたが、摂取する栄養の偏りや糖塩脂の摂りすぎなどがあるとすると、将来的な生活習慣病の発症や心身の発達への影響などが可能性として挙げられるかもしれません。
食べている食品や摂取する栄養素から食事の質を評価することは主に身体的な健康や疾病の予防や治療という観点から食事の質を評価しているように思われます。このような評価を食事の質の身体的評価と呼ぶことができるのではないかと思います。
3.食事に対する心理的満足
食事は病気の予防や治療においてとても重要なものです。特に生活習慣病や一部の疾患では食事療法が治療の中心になることもあります。そのような疾患を治療している人は食事に制限を設けることが多いですが、栄養バランスが考慮された食事内容になるので、身体的な観点からすれば食事の質は高いと言えますが、そういった食事を摂っている人が必ずしも満足感を得ているとは限りませんし、逆に食事を制限を苦しく感じていることも少なくありません。
食事の質を評価する際に身体的観点から評価するだけでは不十分と思います。食事への関心の強さや食事に対する満足感など、心理的な観点から食事の質を評価することも重要です。いくら身体に良いという食事を続けていても満足感を全く得られていないとすれば、心身全体の健康にとっては良くてプラスマイナスゼロかもしれません。
心理的な評価は身体的な評価に比べると個人差が大きいように思います。食事への関心の強さは人それぞれですが、関心の強い人にとっては主菜・副菜が揃った食事に高い満足感が得られるかもしれませんし、関心の薄い人にとっては手軽に済ませられる食事に高い満足感が得られるかもしれません。
毎回の食事で高い満足感が得られなくてもそれほど問題はないかもしれませんが、満足感を得られない食事が長い間続いてしまうと、次第に心理的な健康が損なわれてしまう可能性があります。そのため心理的な観点から食事の質を評価することも大事なことと思います。
4.複数の観点から食事の質を評価する
食事の質の評価における身体的・心理的観点について取り上げてみましたが、他にも評価するポイントを加えることができるかもしれません。たとえば評価における社会的な観点を挙げることができると思います。需要供給のバランスであったり希少性や価格であったりなどが質を評価するポイントになると思います。手に入りやすい方が質が高いと見るか、希少性が高い方が質が高いと見るかは判断の分かれるところですが、観点としてあってもいいかもしれません。
食事の質を評価するための観点は人によって色々挙げることができると思いますが、重要な点としては単一の観点からの評価だけでは人の健康への影響を評価するには不十分ではないかということです。身体のことだけを考えては心理的な満足を得られないかもしれませんし、好きな物だけを食べていては栄養バランスが悪くなるかもしれません。あるいは手に入れることが困難な物を求めすぎては食べる物がなくなってしまうかもしれません。
食事の質を評価する際は複数の観点から評価すること、そしてそれらの観点の間でバランスをとっていくことが重要と思います。毎回の食事で常にバランスがとれている必要はないと思いますが、特定の観点で高品質を目指すよりはそれぞれの観点でほどほどの質を確保していくことが、将来的に心身の健康を高めることになるのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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