夢を見ることの役割・機能と夢に表れる意味について

1.夢の不思議さ
睡眠は基本的に毎日必要となる生理現象です。身体的にも精神的にも睡眠の重要な要素はいくつかありますが、特に精神面における重要な要素として夢見ることがあります。
夢をどれくら記憶しているかについては個人差がありますが、たとえ覚えていなかったとしても睡眠中に夢を見ないことはないと考えられます。夢はレム睡眠中に見ているとされますが、ノンレム睡眠とレム睡眠はひと晩の間、周期的に交互にあらわれており、睡眠中にノンレム睡眠だけになっていることはないからです。
夢の体験は人によって様々だと思いますが、夢に対してよくわからない不思議な感覚を覚える人は多いように思います。起きている時に夢について考えることは、実際に起こった事ではなく夢だとわかって思い出しているわけですが、夢を見ているさなかの自分はそれが夢だとわかっておらず、まるで実際にそれを体験しているように感じられますし、現実には起こりえないようなことであっても疑いをもたないことがほとんどです(正確にはそういう感覚だったように思う、ですが)。また、楽しい夢とか怖い夢という呼び方をすることもあるように、夢の中で、あるいは夢を思い出すことで色々な感情が喚起されることもあります。
近年は夢の認知的、生理的な機能や役割の研究が行われることが多いですが、夢が表現している意味について考えることも興味を引くことであるように思います。
2.夢と記憶
夢の機能や役割のひとつとして記憶との関連が挙げられます。脳は意識に上らないものも含めて、一日に膨大な量の情報を記憶しています。長期記憶の容量に制限はないと考えられていますが、それでもただ無造作に記憶が詰め込まれているわけではありません。
何らかの記憶を想起した際に、それに伴ってまた別の記憶も想起されます。この時想起されるまた別の記憶は記憶の中からランダムに想起されているのではなく、最初に想起した記憶と関連した記憶が想起されます。このことは関連性のある記憶がまとまっている、整理されているためと思われます。
夢見が記憶の定着に関わっていることを示唆する研究があります。ラットを用いた研究では、レム睡眠の減少が記憶の定着に悪影響を与えることが観察されています。レム睡眠は夢を見ている睡眠周期であり、夢を見ているまさにその時に記憶の整理が進んでいるということなのかもしれません。
夢の中では複数の要素がひとつに凝集して表れるため、一見してどんな経験の記憶かわからないことも多いですが、近いの記憶だけでなく遠い記憶も含めて、ばらばらになっている記憶を関連性に従って配置しなおす、デフラグのような作業とも考えられます。
また記憶の定着とは反対に、記憶の消去にも夢見が関連しているかもしれません。起きた時に夢の内容を覚えていないことも少なくありませんが、レム睡眠中にメラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経)という神経が働くことで記憶の消去が起こり、反対にMCH神経の活動が抑制されることで記憶の定着が促進されることが示唆されています。これはどちらもレム睡眠に関連しており、ノンレム睡眠や覚醒時には関連は見られないようです。
夢をよく覚えているということはMCH神経の働きが抑制されていると考えられます。悪夢は比較的覚醒後も覚えていることが多いですが、悪夢を見ている時は不安や恐怖が喚起されて交感神経優位になり、それがMCH神経の働きを抑制するのかもしれません。
3.夢の意味
レム睡眠中に起こる記憶の整理が直近の記憶を中心としたものだとすれば、全く同じ経験をすることは考えづらいため、毎日の夢の内容は異なってくると考えられますが、時に同じ夢を立て続けに見ることがあります。夢の内容は自分の精神状態や抱えている問題に関係するように思われて、夢が今の自分にとって何らかの意味をもっているように感じられることがあります。
たとえば夢占いは比較的カジュアルに夢の意味を理解しようとする試みのひとつですし、一部の心理療法では夢を扱うべき素材のメインに据えて、そこから自己理解を深め治療を進めていくこともあります。
実際に夢に意味があるのかどうかについては、おそらく知りえないことのように思われますが、夢の意味について考えることは時に有用なことがあると思います。トラウマを経験した人は繰り返し悪夢を見ることが報告されていますが、これは解決されないトラウマが悪夢を見させていると解釈することもできます。
夢の意味について考えることで自分が抱えている問題への気づきが得られ、そこから問題に取り組んでいくことができるなら、夢について繰り返し考えていくことは有意義なことと思います。
ただ夢の内容によっては強く感情が掻き立てられることがあるため注意が必要です。特に不安や恐怖を掻き立てるような夢は、それについて深く考えようとすると精神状態を悪化させてしまうリスクがあるため、夢についてはできるだけそっとしておくか、カウンセリングなどでカウンセラーとともに考えていくことが必要かもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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