秘密を抱えることの苦しさと自己の発達について

1.秘密を抱えること
秘密とはひそかに隠して人に知られないようにすること、または人に知られないようにしている事柄を指す言葉です。秘密をもっていること自体は特別なこと、ということはなく、人は誰しも何らかの秘密を抱えているものだと思います。
ある事柄を秘密にする理由は様々だと思います。人からみてわかりやすいのは、たとえば秘密を明かすことが何かしら不利益を被ることにつながるからなどの理由は理解しやすいですが、必ずしも秘密にする理由が理解できるものとはかぎりません。人からはもちろん、自分自身でも何故それを秘密にしているのか判然としないこともあります。
また、秘密の内容もそれぞれです。些細な秘密もあれば重大な秘密もありますが、些細か重大かはそれをどれくらい秘密にするかということと必ずしも関連しないと思います。重大な秘密はより明かされにくいと思いますが、些細な秘密だから簡単に明かすことができるとも限りません。
他者に知られたくないことや知らせることを禁じられたことが秘密にされるわけですが、時に秘密を抱えていることが苦しくなることがあります。秘密にすることが倫理的に問題だと感じ、良心に反しているように思われて苦しくなることもありますし、誰かに理解してもらいたいという思いから秘密のままにしておくことに耐え難くなることもあります。
誰にも知られることのなかった秘密というものももちろんあると思いますが、秘密が公にされた例は数多くありますし、時に秘密を秘密のままにしておくことは難しくなることが少なくないと思います。
2.秘密を明かすこと
秘密は時に明かされることがありますが、明かす相手は内容によって異なると思います。親しい相手ほど秘密を明かしやすいことが多いと思いますが、むしろ親しいからこそ明かすことができないこともあります。
一度秘密を明かしたらそれはもはや秘密ではなくなる、とは限りません。秘密にしないから誰にでも伝えるようになるかというと、そうはならないことも少なくないと思います。秘密にするか、公にするかの二択ではなく、特定の相手にだけ秘密を明かすこともあります。この場合、秘密でなくなるというよりは秘密を共有するというほうが適切な表現だと思います。
一人で秘密を抱えていることを重荷に感じている時には、誰かとその秘密を共有することで気持ちが楽になることがあります。秘密を明かされた相手も重荷を背負うことになりますが、一人で抱えるのではなく誰かが一緒に抱えてくれているように感じられると、その分重荷が軽くなったように感じられるのだと思います。
秘密を共有することは共有する人の間で特別な関係を生じさせることがあります。常にというわけではありませんが、秘密を共有する相手のことが特別な存在のように感じられて、親しみが増したりシンパシーを感じたりします。そうするとさらに関係が深まっていくかもしれません。
親しみが増し関係が深まることは基本的には良いことだと思いますが、時にこうしたことがある種の演出として用いられることがあります。アイドルへの憧憬など高揚感を高めるために用いられることもありますが、危険な例としては詐欺の手口のテクニックとして用いられる場合です。あなただけにとか誰にも言わないでなどという言葉で巧みに相手をコントロールしようとします。冷静な状態であればまずつられないようなことでも気分が高揚している状態では難しくなることもあるため注意が必要です。
3.秘密と精神的な成長
秘密を抱えることは時にしんどさを感じさせるものですが、こうしたしんどさが心の成長につながることもあります。
誰にも言えない秘密をもつことは自分のなかに誰にも知られない領域をもつことになります。こうした領域はその個人がプライバシーの感覚を育てることにつながり、プライバシーの感覚が育っていくことで私という感覚や自己が確立していきます。
ただ同時に、私という感覚が確立していくことは自分と他者が異なるという認識を生じさせることになりますし、誰にも知られないということが孤独感や寂しさを生むことになります。こうした孤独感や寂しさが秘密を抱えることの苦しさと関連しているのかもしれません。
秘密は人が成長していく過程で必然的に生まれてくるものだと思いますが、どの程度というのはやはり人によって違いがあると思います。秘密は多ければ多いほど自己が発達しやすいというわけではありませんが、秘密が少なすぎると自他の境界が緩やかなものになるかもしれません。
秘密を保持することと共有することは周囲の人との関係に影響を受けるものなので。周囲に個を重視する人が多ければ保持されやすくなったり、協調を重視する人が多ければ共有されやすくなったりするかもしれません。ただ、環境が全てを決定する要因になるわけではなく、個人が主体的に秘密をどう扱っていくのか判断する余地は常に存在しますし、周囲からの影響を受けつつ自分なりの判断を繰り返していくことで、その人独自の自己感が発達していくのだと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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