ワクチン接種行動から考える孤立状況と孤独感の違い

1.孤立と孤独
人間関係は悩みやストレスの理由として挙げられることも多いものですが、かといってストレスとなるような人間関係は持たないようにするというのも難しく、他者とどう付き合っていくかというのは悩みの尽きない、人によっては厄介さを感じるものだと思います。
一時的に関係から距離を置くことはあってもいずれは他者との関係の中に戻っていくことが多いと思いますが、場合によっては他者から離れたまま独りで生きているということもあります。
独りであることは、客観的な意味で独りであることと心理的な意味で独りであることの二つに分けられます。前者は孤立、後者は孤独といいます。
孤立は生活を送っていく上で人との関わりをほとんどもたないような状態です。極端な例では人里離れた場所で一人きりで自給自足の生活をすることが挙げられますし、引きこもりで誰とも顔を合わせない状態も孤立と言えると思います。ただ直接人と会うことはなくてもオンライン上で特定の相手とつながりをもっている場合には孤立とは違うかもしれません。
孤独は実際に他者との関わりをもっているかどうかに関わず、自分は独りであるという感覚ないしは感情をもつことです。孤立した状況で孤独感を抱きやすいというのはもちろんありますが、多くの人と顔を合わせる状況であっても孤独感を抱くことはあります。孤独は主観的なものなので客観的な状況と一致しないこともあります。
孤立も孤独も独りであることには違いないのですが、孤立は精神状態と必ずしも関連するとは限らないのに対して、強い孤独感が長く続く場合には精神状態の悪化や困難な状況を持続させてしまう可能性があります。
2.孤独感とワクチン接種の関連性
最近では話題に上がることも少なくなりましたが、新型コロナウィルスが現れてからしばらくは外出自粛要請が出されるなど、社会全体が逼塞した状況となり、孤立した状況になったり孤独感に苛まれたりする人も少なくなかったと思います。
ワクチンが開発されると任意での摂取が始まりましたが、一部ではワクチン接種を忌避する人たちもいました。いくつかの要因が挙げられると思いますが、孤立・孤独感とワクチン接種の関連について調査を行った研究がありました。
若年層のワクチン忌避、社会的孤立より“孤独感”が影響
(東京科学大学プレスリリース)
この研究は社会的孤立(人と会う頻度が少ないという客観的状況)および孤独感(望ましい人間関係が得られないという主観的感情)とワクチン接種行動の相関関係を大学生を対象にして調査を行ったものです。
結果として孤独感がワクチン忌避のリスク因子であることが示唆されました。社会的に孤立した状況にある学生とそうでない学生の間にワクチン忌避における有意な差は見られませんでしたが、孤独感については、孤独感を抱く学生はそうでない学生に比べ2倍ほどのワクチン忌避傾向が見られたということです。
ワクチン接種は任意で行われましたので、必ず受けなければならないものではありませんでしたし、信念や不安から接種を受けなかった人もいると思います。ただ、孤独感からワクチン接種をためらうというのは、ワクチンの有用性や副作用の懸念によって接種の可否を判断したのではなく、孤独感が被援助的な行動を妨げたという可能性もあるのではないかと思います。
3.単一ではない孤独感
今回取り上げた研究で孤独感は「望ましい人間関係が得られないという主観的感情」と定義されていましたが、孤独感を定義することはなかなか難しいことだと思います。孤立状況と孤独感が必ずしも相関しないように、良好な人間関係を築いていたとしても孤独感を抱くことはあると思います。たとえば理解されないという思いや誰にも言えないことを抱えていれば孤独感を覚えるかもしれません。
そういったものを抱えている時点でそれは望ましい人間関係ではないと考えることもできますが、秘密についてのブログでも書きましたが、心理的な私的領域の発達と孤独感は関連するものと考えられますし、私的領域の発達がどんな人にも起こるとすると、孤独感を抱かない人はいないということになります。
上項でも少し触れましたが、孤独感が被援助的な行動を妨げている可能性はあると思います。孤立と孤独が関連している場合には、他者との関係を築くことで孤独感は和らぐと思いますが、そうでない場合には、関係を築くような環境調整やサポートはむしろ孤独感を強める結果になり逆効果になってしまうこともあるのではないかと思います。
孤独感と一口にいっても単一のものではなく、その孤独感がどこから生じているかによって性質的な違いがあります。孤立状況から孤独感が生じているとすれば、孤立を解消することで孤独感を和らげることが大事ですが、パーソナリティと関係するような、個やプライバシーの感覚からの孤独感の場合には、和らげるのではなく、どう抱えていくか、どう扱っていくかということを考えることが重要ではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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