感知できない刺激や事柄から受ける影響について

1.人の自律機能
人が行っている活動は多岐に渡ります。家事をするとか外出するなどの行動であったり、立ち上がるとか腕を動かすなどの身体運動、推論するとか想像するなどの精神活動などが挙げられます。
上記した活動は主に人の意思によって起こる活動ですが、人の活動はそうした意思のもとに起こる活動だけでなく、意思とは無関係に生じる活動もあります。それらの活動は自律機能と呼ばれており、呼吸や体温調整、循環、代謝などが当てはまります。これらの活動は主に自律神経系とホルモンによって調整されています。
自律機能は基本的に意思とは無関係に活動していますが、完全に無関係というわけではなく、一部は意図的に影響を与えることができます。たとえばしばらく呼吸を止めていると酸素が不足するのでそれを補うために心拍が早くなります。ただずっと呼吸を止めていることはできないため、呼吸を再開すれば自動的に調節されて一定の心拍に戻っていきます。
このように自律機能を意思によってコントロールすることは不可能ですが、人の意図的な活動や環境要因によって影響を受けやすいものでもあります。特に自律機能を調整している自律神経系やホルモンはその時々の状況に影響を受けやすいため、時に自律機能の正常な働きが妨げられてしまうことがあります。
自律機能の正常な働きが妨げられている場合、たとえば胃の調子が悪ければ胃薬を服用することで治療できますが、自律機能を調整する自律神経系に異常がある場合には対症療法になりがちです。その場合には自律機能の治療と共に自律神経系の働きに対するケアが必要になります。
2.聞こえない音の影響
自律神経系を調整するための薬もあり有効であることも多いのですが、効き方には個人差がありますし、交感神経と副交感神経の機能の状態によっては、活性と抑制のバランスが整わずに自律機能の調整がうまくいかないこともあります。
自律神経系の機能が乱れている時は、心身に過度のストレスが掛かっていることが多く、その回復のために休息が必要になりますが、その時の健康状態や生活状況によっては十分な休息をとることが難しい場合もあります。そのためちょっとした時間に行える自律神経調整の方法があると有用だと思います。
人間の耳に聴こえない超高周波を豊富に含む音が自律神経の調節機能を高めることを発見
〜自律神経障害に対する「情報医療」の開発に期待〜
(国立精神・神経医療研究センター)
人の可聴域を超える超高周波は当然音として認識はされないのですが、超高周波自体は聴覚系と体表面を通して身体全身で受け取られています。そうして受容された超高周波は人の生理機能や脳機能に影響を与えており、そうした影響はハイパーソニックエフェクトと呼ばれています。
上記の研究では、音として認識されていない超高周波が自律神経系にどのような影響を及ぼしているのかを調査、解析しています。
研究の目的や詳しい手続きについては当該ページを見てもらえたらと思いますが、超高周波を含む環境音を聴かせた効果として、集中緊張を要する課題の遂行時には交感神経と副交感神経の活性が、リラックス時には交感神経の抑制が、主に高年齢群(49歳~66歳)で見られたということです。これはより課題遂行やリラックスに適した自律神経系の状態に調整されたということになります。
主に高年齢群だけで超高周波の効果が見られたことについて、高齢になるほど全般的に機能は低下するので、低下している自律神経機能を補うように働いたのかもしれません。そうだとすると、低年齢群には超高周波の効果がないというよりは、自律神経系が十分に機能しており、補う必要がないため数値として効果が現れなかったと考えることができます。
今回の実験条件で被験者は健康な人に限られていました。自律神経失調症などの状態では低年齢層であっても自律神経機能は低下していると考えられるため、年齢を問わずに超高周波が自律神経を調整する効果が見られる可能性はあるのではないかと思います。
3.意識の外側からの影響
音の精神面への作用について知られたものとして、たとえばヒーリングミュージックや波などの自然環境音にリラックス効果があると言われていますし、近年ではASMRと呼ばれる音と映像のコンテンツがひとつのジャンルとして動画サイトで人気があるようです(ASMRは人によっては不快に感じることもあるので、検索する際はご注意ください)。
音として聞こえていれば、何かしら影響を受けていることに気づきやすいですが、超高周波のように聞こえない音からの影響は気づくことが困難です。ただ、今回取り上げた研究結果からも示唆されるように、人は感知できないものからも影響を受けていることを頭に入れておくことは役に立つのではないかと思います。
今回は音に関する研究でしたが、感覚的な閾値を外れた刺激からの影響は他にもあります。たとえば紫外線は目には見えない光ですが、紫外線を浴びることでビタミンDの生成やセロトニンの分泌を促したり日焼けやシミの原因になったりします。
あるいは性質的には異なりますが、物理的な刺激ではなく心理的に気づいていない事柄からの影響を受けることもあるかもしれません。それはたとえば忘れてしまって思い出すこともできない思考や感情、記憶などです。
見えなかったり聞こえなかったりする対象からの影響を明確にすることは難しいことではありますが、少なくとも意識できないものからも影響を受けることを頭に入れておくことは、気づきの幅を広げることに繋がると思いますし、今回の超高周波のように影響を受けることのメリットを知っていれば、役立てることができる機会があるのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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