真似をする行動の学習効果と環境に適応すること

1.見て学ぶこと
人が新しい技術を学んでいく方法はいくつかあります。学校での授業のように座学によって学んでいく方法や試行錯誤しながら独学していく方法などがありますが、百聞は一見に如かずという言葉にあるように、聞いただけを実践しようとすることは難しいことが多いですし、見て覚えることができた方が技術の習得向上には有効だと思います。
見て学ぶことはモデリング学習と呼ばれています。モデリングは子どもの行動として見られることが多いです。子どもは周囲を観察して人がとった行動を真似ることがあります。子どもにとってそれは遊びの一種だと思いますが、そうした遊びが新たな技術を学ぶ行動にもなっています。学ぶことが目的になっているわけでなくても行動のレパートリーが増えることで目新しい状況にも対応できるようになるわけです。
こうしたモデリング学習は子どもだけでなく大人にとっても有用な学習方法のひとつです。子どもと大人にとっての違いがあるとすれば、子どもにとっては遊びの一環で、大人にとっては技術の習得向上が目的になるということです。大人はある程度の行動レパートリーを備えていますが、それでも新奇な状況はあり得ますし、その状況で何をしたらいいか明確でないことは珍しいことではありません。たとえば新しい仕事に就いて最初からすべきことを完全に把握しているということは少ないと思いますし、そういう時に他の人の動きを参考にすることはあると思います。
かつての徒弟制度では技術は教わるものではなく盗むものと言われていました。仕事は師匠の仕事ぶりから時間をかけて学んでいくものだという意味だと思います。現代の職業生活において言語的な学習が全くないのは現実的ではないですが、やるべきことの全てを教わってから仕事をするというのも難しいことが多いと思います。見て学ぶことの重要性は今でも変わっていないように思います。
2.モデリングと適応
子どもにとって他者の行動を見て真似ることは遊びの一環と書きましたが、それがその行動を学習しレパートリーを増やすことにつながります。学習することに限ったことではないですが、ある行動の結果はそれが手段となってまた別の結果につながっていきます。子どもの場合は遊ぶことが目的であってもそれを通して学習するという結果につながります。
では大人がモデリング学習によって技術を習得向上させることは他のどんな結果につながっているのでしょうか。関連する結果がひとつだけということはないかもしれませんが、職場におけるモデリング学習と関連する事柄として職場適応があるようです。
新人看護師の離職率を抑えたい! 先輩を見て学ぶことは現場での成長を支える
(大阪公立大学(PDF))
看護師の正規職員として働いている人の離職率は、新卒既卒で差はありますが、だいたい10%超の割合で推移しているようです。この数字は他業種に比べて決して高い割合ではありませんが、専門職として基本的には同じ職種に就くことを考えると低い数字ではないと思います。
他業種と比較して割合が低いのは、看護師などの専門職の場合には学校で一定の知識技術を身につけ、また研修やインターンシップを通して働き方のイメージを事前につくることができるということもあると思います。ただ、実際に働くこととイメージではギャップがあって当然ですし、知識や技術だけが職場で適応するための要件ではないでしょう。
厚生労働省が提示している新人看護職員研修ガイドラインによると、新人職員に対して実地指導者が付くことが定められています。そこで臨床実践における教育や指導が行われるわけですが、実践に関する知識や技術の伝達だけでなく、職場内での先輩の行動を観察し取り入れるというモデリング学習が新人職員の適応状態を高めるということでした。最初のうちは先輩の行動を真似ることで次第に自分なりのその職場での過ごし方を形作っていくということです。
3.対処スキルとしてのモデリング
人がしている様子を観察してそれを真似てみることは、何か新しいことを身につけていく際には有効な方法のひとつです。上で見たように、新しい技術や知識を身につけるだけでなく、新しい環境に適応していくためにも役に立つ行動です。
モデリング学習の有効性は基本的には子どもでも大人でも変わらないものだと思います。ただ、真似をすることは子どもにとって遊びのひとつと書きましたが、大人が真似をする場合は時に子どもっぽいとか、ある種の問題行動と見られることがあるようですし、子どもの場合でも個性や自信の問題として見られることがあるようです。
真似をする行動がどんな文脈で起こっているのか、その個人のおかれた状況や性格、特性などの要因を考慮することは重要ですし、場合によっては抱えている問題の現われとして考えることが適切なこともあると思います。ただその場合でも止めることがいいとは限りません。不安の強さから真似をしているとしても、何か行う時に手本があることは不安を和らげることにつながりますし、問題に対処できるようになれば自信をもてるようになるかもしれません。
真似をすること、モデリングは対処行動のひとつであるという観点が重要と思います。課題や問題に取り組んでいく際に別に自分独自のやり方でなければならないということはないですし、人のやり方が有効ならそれを取り入れた方が、一から解決策を模索するよりも早く解決できると思います。取り入れた方法であっても続けていくうちに自分のやりやすいようにカスタマイズされていくものですし、気づいたら当初のやり方と全く違っていたということもあります。
対処方法の道筋が見えている場合は別ですが、問題にどう対応するか模索中であれば、まずは人がどんなふうにしているのかを観察してみるといいのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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