感情が発生するメカニズム・身体反応と感情の関連について

1.感情と身体感覚
人が何かしらの出来事を体験すると、そこには何らかの感情が伴うことがあります。楽しさや退屈さ、喜びや悲しみ、好意や敵意などなど。抽象的な表現ですが、感情はその対象に色彩を与えます。ポジティブな感情が生じればまた体験したいと思うでしょうし、ネガティブな感情が生じれば回避したくなります。感情は人の体験を生き生きとした(生々しい)ものにし、行動の動機づけや意味づけに関わる重要な要素です。
感情は主観的な体験であるだけでなく、多くの場合には何らかの身体的な反応が同時に起こっています。嬉しい時には笑顔になったり、怒っている時には身体が熱くなったりなど。時にこうした身体反応、感覚が自分の感情を知る手掛かりになることもあります。
感情と身体反応の関係はなかなかに複雑です。楽しいから笑う、感情→身体反応の順番が自然なようにも感じられますが、ただ笑顔を作っていただけだったのに段々と楽しい気分になってくる、身体反応→感情という順番で生じることも経験がないわけではありません。
心理学者のウィリアム・ジェームズ(1842~1910)は「笑うから楽しいのだ」と、身体反応が感情に先行するという説を唱え、心理学者のカール・ランゲ(1834~1900)の名とともに、ジェームズランゲ説として知られています。
自分に何らかの感情が起こっていることはわかっても、それがどんな感情なのかいまいちわからない、そんなふうに感じることも時々あるように思いますが、それは感情が身体反応、感覚と結びついているためかもしれません。
2.笑うから楽しい?
ジェームズランゲ説が唱えられたのは100年以上昔になりますが、感情と身体感覚の関係については現在でも議論が続いています。それは状況証拠的に間接的なエヴィデンスを示すことはできても、直接的な証拠を示すことが難しかったからですが、脳科学の発展蓄積によってメカニズムの解明は少しずつ進んでいるようです。
感情に伴う表情と主観経験の脳内ネットワークを解明
-顔の表情が喜び、悲しみ、怒りなどの感情経験を生み出す-
(理化学研究所プレスリリース)
この研究は表情と主観的感情経験の関係を脳の活動から明らかにするために行われた研究です。被験者に感情フィルム(快・不快・中性)を呈示し、その際の脳活動と表情を記録、その後に主観的な感情経験を評定してもらうという流れで行われました。
フィルムを呈示した際、被験者の脳活動には感覚処理ネットワーク、表情反応ネットワーク、主観経験ネットワークの3つの活動が観察されました。脳活動の流れはまず感覚処理ネットワークが表情反応ネットワークと作用し合い、その後に主観経験ネットワークに影響するというものでした。
脳の活動はおそらくミリ秒単位の時間だと思われるので、主観的には同時に起こっているように認識されるのだと思われますが、脳の活動の順番としては主観的な感情の認識よりも先に身体的な反応が処理されており、この結果は「笑うから楽しい」というジェームズランゲ説が支持されたことになります。
3.感情と意図
「笑うから楽しい」ということが正しいとするなら、感情をコントロールする、ということまでは難しいのかもしれませんが、身体的な動きによって意図的に感情状態に影響を与えることができるということです。たとえば気分が沈んだ状態の時に思い切り笑うことで気分状態が上向くといった効果があることが知られています。これまでは神経伝達物質の分泌や自律神経系の働きから説明されていましたが、身体的な動きはより直接的に主観的な感情体験に影響しているのかもしれません。
今回取り上げた研究結果は感覚処理と表情反応の相互作用が主観経験に影響しているというものでしたが、感情の種類はどのように決まってくるのでしょうか。「笑う」と「楽しい」が結びつくことは多いかもしれませんが、身体反応と感情の種類が1対1で結びついているとは限りません。たとえば「泣く」という身体反応を考えると、「悲しい」こともあれば、「嬉しい」こともあります。
感情と身体反応の関係に関する仮説で、情動の二要因説というものがあります。身体反応が直接感情の種類を決定するのではなくて、身体的反応とその時の状況に対する認知的な解釈によって感情の種類が決定されるとするものです。「笑っているということは楽しいということだ」と個人が認知することで初めてそれがどんな感情なのか決まると考えます。
表情反応ネットワークにおいて刺激の感情的意義に関する処理は行われているので、その時点でどんな感情かということはある程度決まっているのかもしれませんが、その後の主観経験ネットワークでは自他の心理状態を推測・理解する処理も行われているので、表情反応から主観経験の流れは一方的なものではなく、相互作用することで感情はより明確なものになるのかもしれません。それを感情を解釈する過程と考えることもできると思います。
感情を完全にコントロールすることは難しいにしても、感情を意図した方向にもっていくことはある程度は可能なことです。気分転換をしたい時にはできるだけ心地良い状況・状態をつくることはもちろんですが、気分に合わなくても笑顔になってみることや、自分がポジティブな感情をもっていると思うことで、より効果的に気分転換ができるかもしれません。
ちなみに、今回取り上げた研究は理化学研究所が行っている『ガーディアンロボットプロジェクト(GRP)』のひとつということです。GRPはこころをもっているように感じられる自律的なロボットの開発を目指しているようです。一昔前にはSFでしかなかったようなことが現実になるかもしれないというのは、怖くもなりますがとてもわくわくさせられることでもありますね。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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