自己否定の影響
人の性質や状況は生きていく中で変化していくものですが、自分のおかれた現状に満足できなかったり納得いかなかったりする時、今とは違った人間になりたい、あるいは今の自分を消してしまいたいと思うことがあるかもしれません。
こうした自分のおかれた現実を拒否する、自己を否定するような思考や感情は、現状を変えより良い未来へ向かおうとするエネルギーになることもありますし、諦めと絶望を強化し自らを終わらせるように働くこともあります。
否定がどんな影響を持つかはケースバイケースですが、後者のような影響を持った場合には、やはり心理的な健康にとって大きな問題になってしまいます。
1.自己否定とは
自己否定とは、自分の性格や能力、欲求、考えなどの自己にまつわる性質に対する、あるいは自分の存在そのものに対する否定的な感情、思考、言動です。たとえば、自分を嫌うことや自分の達成を無価値と考えることなどです。
自己否定は現状の自分に対する満足のできなさや納得のいかなさの表れと言えますが、その表れ方には変化に向かう表れ方と破壊に向かう表れ方があると思います。変化に向かえば今の自分ではない違う自分に成ろうとするでしょうし、破壊に向かえば自分の一部、あるいは全てを失くそうとするでしょう。
変化と破壊の方向性は心理的には、どちらか一方のみが存在しているというよりも常に両者が存在しているように思います。その時々の状態や状況によってどちらかが優勢になり、意識されやすくなったり外的に表現されたりするのだと考えられます。
2.自己否定してしまう人の特徴
自己否定自体は誰もがする可能性のあることですが、その頻度が相対的に高く、また自分を苦しめるだけの方向に向かいがちな人たちには共通した特徴があるように思います。全く同じというわけではもちろんありませんが、自己否定の背景となる心理状態や傾向性などに似ている点が見られます。
以下にいくつかの特徴を挙げましたが、それらの特徴から考えられることは自分自身に対する過小評価があると言えるのではないかと思います。現実的にはどうなのかということから離れて自分を低くとらえてしまう結果、自分や自分に関することがらを否定的に見ざるを得ないのかもしれません。
同時に他者を過大評価、少なくとも自分よりも高くとらえてしまい、物怖じしてうまく関係をつくることができなかったり、他者と自分の落差を感じて諦める気持ちになったりしてしまうのだろうと思います。
3.自己を否定してしまう理由
おそらく生まれつき自分に対して否定的な人はいないと思います。自分に否定的になっているとすれば、それにはやはり何らかの理由があると考えることが妥当でしょう。
人の特徴や傾向は持って生まれた気質・特性と生後の経験、両方の影響を受けながら形作られていきます。もともとの気質・特性によって、同じ経験をしたとしてもそこから受ける影響は異なってくると思いますし、経験を重ねていくことによって、持っている気質・特性の影響が見えにくくなっていくこともあると思います。
大人に比べて子どもの方が影響を受けやすいため、幼少期の経験が自己否定に大きく影響していることはありますが、成長してからの経験が自己否定につながることもあります。自己否定が始まった原因を明らかにすることは容易ではありませんが、経験の内容とそれが個人に影響を与えたのかという点から考えてみることが重要です。
4.自己否定の影響
自己否定は過去の自分や現在の自分に対する否定的な見方ですが、そうした自己認識が定着していくと、自己を否定的に捉える見方以外のことが難しくなっていきます。これは自己を否定するような事柄に対して注意が向きやすいというだけでなく、価値判断を含まないあるいは自己を肯定的に捉えられる事柄に対してすらも否定的に捉えるようになるためです。
否定的な自己認識が定着してしまうことで過去や現在の自分だけでなく、将来の自分に対しても否定的な見方をしてしまうようになります。将来の自分がどうなるかはわからないけれども色々な可能性がある、という考え方をすることが難しくなり、今の自分を肯定できないように将来も自分を肯定できないだろう、という見方になりがちです。未来に対する不安を和らげようとする反応と捉えることもできますが、それ以上に心理的な健康を損なったり行動を制限したりするように働くことが多いと思います。
行動の制限を挙げましたが、否定的な感情が強くなると何かをやることに対して消極的になっていきます。物事に対して肯定的な意味合いを見出すことが難しくなり、生活上必要最低限のことしかやる気がなくなったり、外とのつながりを煩わしく感じて籠りがちになったりするかもしれません。
自己否定的な認知が強く定着するほど、その認知を変化させることが難しくなりますが、ただ変化しにくいというだけでなく、変化のための行動をとること自体が困難になっていきます。その状態が長く続いてしまうと、否定的な感情が自己に対してだけでなく、他の事柄にも広がっていき、あらゆることに対して否定的になってしまうかもしれません。
5.自己否定を改善する方法
もともとの気質・特性が関係するとしても、経験によって自分への否定的感情がつくられていくとすれば、反対に経験によって否定的感情を和らげ、肯定的感情を高めることもできると思います。
比較的取り組んでいきやすいことは行動面を変えていくことだと思います。生じてくる感情や反芻する思考は自分の意思とは無関係に起こってくることが多く、それらを止めよう、変えようとすることは時間と労力を要することです。もちろん行動を変えることが労力を必要としないというわけではありませんが、感情や思考に比べると意思によって変化させる余地は大きいと思います。
行動・思考・感情はそれぞれ影響を与え合っています。否定的な感情は否定的な思考を生み、否定的な行動につながることが多いですが、その流れを止めるような行動をとることで、思考や感情が変化していく可能性が生まれるのではないかと思います。
6.まとめ
自己否定にはふたつの側面があります。変化につながる自己否定と自分を壊してしまうような自己否定です。その意味で自己否定自体が問題なのではなく、破壊的な自己否定のみに偏ってしまうことが心理的な健康にとって問題となってしまうのです。
落ち込んだりした時には誰でもただただ自分を否定するだけになってしまうことはありますが、気持ちが持ち直してくることで自己肯定感を持ち、自己否定をより良い自分になるための原動力にすることができます。しかしながら、継続する強い自己否定感情に苛まれている場合には、自己肯定感を持つことはできず、自分を壊す自己否定が繰り返され、自己否定と失敗感の循環に陥っています。
そのような強い自己否定感情を抱える人はそれまでの過程で自分が否定される経験を繰り返していたり、あるいはトラウマとなるような衝撃的な経験をしています。そしてそこから立ち直るためのフォローがなかったり、あったとしてもうまく利用できなかったりしたために、長く続く自己否定に苦しんでいるのだと思います。
ただ、経験によって自己否定が根付いてしまったのだとしたら、同じように経験によって自己否定を和らげることはできると思います。一人で取り組んでもいいと思いますし、助けてくれる人がいれば頼ってもいいと思いますが、行き詰まってしまった時にはカウンセリングを行うこともいいかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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