適応すること、しないこと
1.適応とは
適応という言葉は、この言葉が使われる分野によって意味が異なっており、様々な意味をもっています。生物学分野では、「ある環境において生存や繁殖に有利な形質をもっていること」という意味で使われますし、医療分野では、「医療行為の正当性・妥当性」という意味で使われています。
心理学的な意味で適応という場合、「社会生活を問題なく送れること」となります。これは個人が要求すること、提供できるものと他者(ミクロな対人関係からマクロな社会集団までを含む)が要求すること、提供できるものがある程度一致している状態と考えることができます。
たとえば、職業について考える場合、会社は労働力を求め、対価として給料を提供し、個人は労働力を提供し、対価として給料を求めます。両者の要求・提供のバランスがとれていれば適応していると言えますが、要求が過大だったり提供が少なかったりすれば不適応状態になってしまいます。
適応/不適応のもうひとつの視点として、客観的に適応/不適応状態に見えるかどうかと、主観的に適応/不適応状態にあると感じるかどうかが一致しているか不一致の状態かという視点があります。
再び職業のたとえを使えば、ある人が毎日しっかりと仕事をして、もらっている給料にも不平を述べないと、その人は職場に適応しているように見えますが、口には出さなくとも、仕事がうまく出来ていないとか自分は評価されていないと感じていることがあります。この場合、他者からすれば適応しているように見えますが、その個人からすれば不適応状態にあると言えます。
このように外から見える適応(不適応)状態と個人が感じている適応(不適応)状態は異なることがあります。
上記のたとえはかなり簡略化して示していますが、実際の社会生活では、関係をもっている対象(人や集団)はひとつではありませんし、対象との間で生じている出来事も数多くあり、不適応状態にあったとしてすぐに理由を特定することは難しい場合もあります。
適応について評価する視点は様々あると思いますが、要求・提供のバランスや主観・客観の視点を持って見ていくと状況を整理しやすいのではないかと思います。
2.不適応を改善するためには
適応状況を改善していくためには、まずは現状を確認していくことが大事になります。
上記した視点を用いるなら、自分が何をどの程度求めているのか、求められているのか。自分が何をどの程度提供し、提供されているのか。その状況を自分はどのように感じているか、相手からはどのように見えるのか。特定の対象とだけ不適応状態になっているのか、あるいは生活全般で不適応状態にあるのか。など、自分の社会生活状況を見直していくことで自分の状況や状態を明確化することは問題点を把握するために役立つと思います。
状況や状態を把握し問題点がある程度明らかになってきたら、その問題に対する対応方法を検討していくことになります。
問題への対応方法を考える時には、その問題が誰か(集団を含む)との間で生じているのか、それとも自分の中で生じているのかを見定めることが大事です。誰かとの間でトラブルが起こっている場合はその相手との調整が必要になりますし、自分の中で問題が生じている場合は個人的に問題に取り組んでいくことが出来ますが、誰からとの間で問題が生じている場合はその相手との調整が必要になります。
どこで問題が生じているかに加えて、対応方法の検討には、問題はすぐに改善できそうか、それとも時間がかかりそうか。一人で改善できそうか、誰かの力を借りる必要があるのか。などを考えていくことが大事になります。
個人で改善していくことが困難な場合には力を借りて一緒に改善していくことも重要です。相談できる相手や窓口を普段から知っておけばいざという時に利用出来ると思います。
3.無理しない
適応の問題は人間関係の問題と個人の心理的な問題の両面から考えていくことが、状況の改善に当たって重要になります。また、適応/不適応状態には抱えているストレスも大きく影響しています。大きなストレスを感じている状態だと状況が改善してほしいとは思っていても、そのことに取り掛かることが困難になるかもしれません。
ストレスについては、以前のコラムでも取り上げていますので、そちらもご参照ください。
・ストレスについて①
・ストレスについて②
状況を改善するために取り組んでいくことは大事なことではありますが、長い時間がかかったり改善が困難であったりすることもあります。そういう時はその場から離れて休養することも必要なことです。
無理をして状況に合わせていくこともある程度は出来るかもしれませんが、それは心身に大きな負担をかけ続けることで、いずれ破綻してしまう可能性が高いですし、そうなると回復するためにより長い時間を要してしまうかもしれません。
人が生きていく上で社会生活に適応することはとても重要なことではありますが、あらゆる環境に適応出来るわけではありませんし、どうしても相性の悪い環境というのはあると思います。
適応について考える時には、どうすれば適応出来るか、ということと同時に、どのような環境が自分には合っているのかを考えていくことも大事だと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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