認知症について
1.認知症の症状
認知症は記憶に問題が起こること、というふうに考えている人は少なくないかもしれません。記憶についての障害は認知症に見られる主な症状のひとつなのですが、認知症における「認知」とは、記憶だけでなく他の認知機能も含んでいます。
アメリカ精神医学会の発行している『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』では、6つの認知機能を規定しています。
・複雑性注意(注意の維持や振り分けをすること)
・実行機能(計画を立て、適切に実行すること)
・学習と記憶(覚えること、思い出すこと)
・言語(言葉を理解したり発したりすること)
・知覚ー運動(刺激を知覚すること、道具を適切に利用すること)
・社会的認知(他者の意図や性質を理解すること)
という、6つの認知機能を規定し、認知症の診断をするためには、いずれかひとつ以上の機能が有意に(たまたまではなく)低下していること、その機能低下が自立した活動を阻害していることの2つがあることが基準になります。
上記の認知症における認知機能の低下は認知症の中核症状と呼ばれています。これに対して、認知症に伴う心理的・行動的な症状は認知症の周辺症状と呼ばれています。以下に主なものをいくつか挙げてみます。
・心理症状:妄想・幻覚・睡眠障害・抑うつ・不安・意欲の低下など
・行動症状:徘徊・落ち着きのなさ・攻撃的な言動など
記憶に関する症状は他者からも見えやすいため、認知症と結びつけることが比較的できますが、他の認知機能の低下についてはわかりにくいことが多いと思います。高齢の方と接していて、以前よりも活動が難しくなっているように感じたり、生活上困ることが増えたりした場合には、認知症の可能性も考えるといいかもしれません。
2.認知症の種類
認知症にはいくつかの種類があり、どのタイプの認知症を発症したかによって特徴や病状の進み方が異なります。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、その他の認知症に分けられています。
・アルツハイマー型認知症-60~70%がこのタイプになります。発症初期には物忘れ症状が見られ、病状が進むと徘徊や見当識障害(※)が見られるようになります。病状の進行は物忘れから見当識障害へとゆっくり進行していきます。
・脳血管性認知症-20%ほどがこのタイプになります。脳梗塞や脳出血などの脳血管性障害が原因が発症し、障害を受けた部位によって症状は異なりますが、物忘れや感情のコントロール欠如、手足のしびれなどが見られます。脳梗塞の発作が起こるごとに段階的に進行していきます。
・レビー小体型認知症-4~5%がこのタイプになります。初期症状としては幻視、妄想、うつ症状などが現れ、病状が進行するとパーキンソン症状が見られるようになります。調子の良い時悪い時を繰り返しながら病状が進行していきます。
・前頭側頭型認知症-1%ほどがこのタイプになります。発症初期は着衣への無頓着さや同じ言動を繰り返すなどの行動が見られます。症状が進行すると自発性の低下や性格の変化が見られるようになります。病状はゆっくりと進行していきます。
・その他の認知症-アルコールの影響によって引き起こされたものや正常圧水頭症などで認知症の症状が見られることがあります。これらの症状の中には適切な治療によって回復する場合もあります。
脳血管性以外の認知症の発症については現在でも原因はわかっていません。現状では投薬治療によって病状の進行を遅らせることが治療の中心になりますが、デイケアなどの活動に参加することでも機能の維持につながるため、認知症が疑われる場合には出来るだけ早く医療機関を受診することが望ましいです。
3.認知症への対応
上でも書いたように認知症は進行性の疾患であり、現状では進行を遅らせる治療が中心になりますが、発症の早期から治療を始めることで進行を遅らせる効果はより大きくなります。また、身体的・精神的な疾患によって認知症に似た症状が現れている場合も元の疾患の治療が必要です。そのため、「認知症かも?」と思われた場合には早めに受診することが必要です。
脳血管性だけではなく、他の発症原因が不明な認知症でも栄養バランスの良い食事や適度な運動が認知症に予防的に働くと言われています。日頃から心身の健康を保つことが認知症の予防にもつながります。人との関わりをもてる場所や定期的な活動を行える場所をつくっておくことが大切なことです。
認知症を発症すると、色々なことが出来なくなったり分からなくなったりしますが、その状態は本人を強く不安にさせます。周辺症状はその不安から引き起こされていることも少なくありません。家族が認知症になった時にはその不安を理解し和らげるように働きかけることが大事になります。
ただ、症状によっては共に生活をすることが苦しくなることもあると思います。認知症の本人も不安になりますが、介護する側の家族も同じように不安になると思います。そういう時には専門の機関にどうしていくかを相談することが大事だと思います。認知症に限りませんが、家族を介護していくためには、まず介護する側が心身共に安定した状態にあることが重要になると思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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