慣れることのメリット・デメリット
1.慣れることのメリット
何か練習をする時、たとえば自転車に乗るための練習をしている時、最初のうちはバランスのとり方、ペダルのこぎ方や視線の置き方など、それぞれを意識しながら練習をしていると思いますが、練習が進んで乗ることにも慣れてくると今まで意識していたことを次第に意識しなくなっていきます。
練習を始めてしばらくの間は自転車に乗れる場所が限られてしまうでしょうが、乗ることが上手になってくれば移動手段として使えるようになりますし、自転車の乗り方に集中していた意識を、自転車に乗りながら周りの景色を見るために使えるようになります。
自転車に乗る練習に限らず、同じ行動を繰り返し行うことで、その行為の精度が向上するのと同時に、それまで意識的な努力を必要としていたことが意識せずとも行えるようになります。
行為の精度が向上することで、同じ行為がより少ない時間で終えられるようになったり、ある作業をしながら同時に別の作業をこなすことも出来るようになったりすると思います。
行為や作業に習熟することで、その行為や作業をさらに発展させたものにすることが出来ますし、作業の効率も繰り返すことで上がっていくと思います。このようなことが慣れることのメリットと言えると思います。
2.慣れることのデメリット
行為や作業に慣れることで、それまで意識して行っていたことが意識せずに行えるようになっていくわけですが、それは意識の前面で行われていたことが背景に引いて無意識的に行われるようになったということであって、基本的には意識せずとも同じことを行っています。
自転車の例を再び出せば、自転車で走りだしてしまえばバランスのとり方やペダルのこぎ方を意識することはありませんが、半ば自動的にバランスをとりペダルをこいでいると思います。
ただ、あまりに慣れ過ぎてそれが当たり前になってしまうと無意識も含めて認識していない状態になってしまうことがあります。
先日見かけたことですが、全く減速もせずに赤信号を無視して走っていく車がありました。その信号は押しボタン式で歩行者が少ない場所でもあり、滅多に赤信号にはならないのですが、その時は歩行者がボタンを押したため赤信号になっていました。車に気づいた歩行者が立ち止まっていたので事故にはなりませんでしたが、一歩間違えば惨事になっていたかもしれません。
この場合、ほぼ常に青信号であることにドライバーが慣れてしまっていたために信号の色が変わっていることに気づかなかったと考えられます。もしかしたら、信号があること自体を認識していなかったかもしれません。
もちろん、信号無視をした理由は他にもあるかもしれませんが、これも慣れることの心理的作用のひとつであり、慣れることのデメリットであると言えます。
3.適度な緊張感をもつこと
慣れることは行為や作業を効率化し、労力や時間の面で大きなメリットがありますが、同時に、注がれる意識が薄くなることによって思わぬアクシデントを起こしてしまうこともありますし、目の前にあるものが見えなくなってしまうといったデメリットもあります。
慣れることのメリットばかり見てしまうとアクシデントの心配がありますし、デメリットを気にしすぎてしまうと行為や作業の効率化が図れず、必要以上に時間や労力をかけてしまうかもしれません。
そのため、自分の行っている行為や作業にとって、意識を外してはならないことを認識しておくことが重要だと思います。場合によってはリストにしておき、適宜確認できるようにしておくのも良いと思います。
また、慣れることは行為や作業に伴う緊張感を低減させますが、弛緩しきってしまうとせっかく高めた行為の精度を下げてしまうことにもなります。
部分的に意識を集中させる領域をつくり、適度な緊張感をもって行為や作業を行うことで、精度を維持し安全性を高めることにつながるのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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