言葉の伝わり方
1.言葉の理解のズレ
自分の考えを正確に相手に伝えることは意外と難しいことですが、誰かと話していて
(そういうことを言ってるんじゃないんだけどなぁ)
と感じたことはないでしょうか。これは相手と自分の理解がズレているという可能性もありますし、自分の言葉が自分の伝えたいことを正確には反映していないという可能性もあります。
たとえば、大工作業をしていてペンチが欲しいと思い「それ取って」と頼んだらレンチを渡された。これは<それ>という言葉が指している物が相手と自分で異なっていたということでもありますし、<それ>だけでは自分の伝えたいことを相手が理解できるようには表せていなかったということでもあります。
上記のことであればズレがあることはすぐにわかりますし、複雑な事柄ではないので<それ>を繰り返して修正していくことは比較的容易だと思います。しかし、やりとりがより複雑になり、さらに時間に制限がある場合などではズレを修正することは難しくなりますし、時にはズレに気づくことができないこともあるかもしれません。
言葉の理解のズレはよくあることなので、自分の言いたいことがそのまま相手に伝わっているとは限らない、ということを念頭にやりとりをすることが大事なのだと思います。
2.相手からの情報の解釈
人とのやりとりにおいて相手の言葉に不明瞭なところがあったとしても、それで相手の言いたいことが全く理解できないかというと、必ずしもそうとは限りません。
上記した例では「それ取って」という言葉でした。確かに言葉だけでは<それ>が何を指しているのかわからないですが、その人の視線やその時の状況(大工作業中)、あるいは身振り手振りなどから<それ>が何を指しているのかを推測できます。
もちろん推測したことが当たっているとは限りませんが、人とのやりとりでは言葉以外の情報も相手が何を言おうとしているのかを解釈するための手掛かりになります。場合によっては言葉以外の情報の方が重要視されることもあるかもしれません。
話し手の表情、視線、声の調子、姿勢や動作、どんな状況でその言葉が話されているのか、以前の言葉と一貫しているかどうか、などなど。解釈の参考にされる情報は多岐にわたります。それらの情報の全てが常に参考にされているかはわかりませんが、話の受け手の解釈の仕方に意識的・無意識的に影響を与えています。
このように受け手側が話し手の言いたいことを解釈しているため、言葉が足らなかったとしても、それでやりとりができなくなってしまうということにはならないのだと思います。
3.ズレの原因
人とのコミュニケーションにおいては、話し手も受け手も言葉以外の情報をつかって、言葉の足りない部分を補って理解しよう、させようとしているため、円滑なコミュニケーションが期待できるのですが、同時に言葉を含めた情報には解釈が必要なため、そのことがズレを生む原因にもなります。
上のたとえ話で<それ>が指していた物が異なっていたように、言葉や動作、その時の状況などが指しているものや持っている意味が相手と自分で一致しているとは限りません。
解釈は相手からの言葉や情報を自分なりの言葉や情報に変換することですが、変換の過程で言葉や情報の持つ意味が変わってしまうことは避けがたいように思います。かといってズレを生まないようにするために解釈を行わないというのでは相手を理解すること自体が難しい、あるいは出来なくなってしまうかもしれません。
解釈を行うことでコミュニケーションが円滑になる反面、解釈を行うことでズレや誤解が生じるというのは難しい問題ではありますが、上記したように、ズレが存在することを常に念頭に置きながら、どの程度のズレまでなら許容できるのかを考えていくことが大切だと思います。
4.ズレに対処するかどうか
色々と書きましたが、日常の些細な事柄においては、コミュニケーションのズレが問題になることはあまりないように思います。ズレが簡単に修正できる程度であったり、修正する必要性のないものであったりすれば、敢えてそれに時間を費やすこともないでしょう。
ただ、日々の生活を一緒に過ごすような親しい間柄であったり、共にプロジェクトを進めるためにある程度の意思統一が必要であったりする場合には、ズレの存在は放置しない方がいいかもしれません。
最初は小さなズレであったとしても、そのズレが大きくなったり、あるいは新たなズレが生まれたりして、それがコミュニケーションの齟齬につながり、最終的には相手との関係が決裂してしまう可能性もないとは言えません。
ズレは人と人の間にあるため、一方だけが努力してもズレを埋めることは難しく相互的な努力が必要なものなので、それぞれに何が問題なのかに対する共通認識やその問題を解決していくことへの同意形成が必要なため、それ自体もなかなか大変なことではありますが。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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