妊娠中の母親の食事が子どもの3歳時の睡眠時間と関連する?
1.栄養と心身の状態の関連
毎日の生活の中で、時間の都合や体調によって食事を抜くことはあっても栄養素を全く摂らないということはないと思います。何かしらの理由によって食事をすることができない場合であっても、たとえば点滴などで栄養素を接種することは必要です。
そのように食事や他の方法で栄養素を身体に取り入れていくことは生きていくために必須のものですが、どんな栄養素も人の身体組織に同じように関連しているわけではなく、たとえばカルシウムと骨であったり、タンパク質と筋肉などのように関連性の強い栄養素と身体組織の組み合わせがあります。
また、栄養素の種類によっては中枢神経系の精神伝達物質やホルモンの分泌に関連するものもあり、精神状態や睡眠状態などに影響するものもあります。たとえばトリプトファンは乳製品や青魚に含まれる栄養素ですが、セロトニンやメラニンをつくる働きがあり、気持ちを安定させたり睡眠覚醒のリズムを整えたりする上で有効な栄養素です。
このように特定の栄養素と心身の状態の関連性が明らかにされてきていますが、基本的にはその個人と栄養素の関係に焦点が当てられてきました。例外は妊娠中の母親の栄養摂取と胎児の状態との関連性ですが、最近の研究では、妊娠中に摂った特定の栄養素が胎児期だけでなく、生まれた後の子どもの状態にも影響することが明らかになってきています。
2.妊娠中の食事と3歳時の子どもの睡眠時間
今回取り上げた研究では、妊娠中の母親の特定の食事と子どもの睡眠状態の関連を扱っています。
ひとつは妊娠中の味噌汁の摂取量と子どもが1歳時の睡眠不足リスクの関連
女性が妊娠中に味噌汁を飲むと子供の睡眠不足が減る 親の腸内細菌叢は子供に受け継がれる
(保健指導リソースガイド)
もうひとつは妊娠中の母親のチーズ摂取量と子どもが3歳時の睡眠不足リスクとの関連です。
妊娠中のチーズの摂取量と
生まれた子どもの 3 歳時点の睡眠時間との関連:
エコチル調査
(富山大学プレスリリース PDF)
どちらも富山大学が行った調査の結果で、上が2019年、下が2022年に行われたものです。妊娠中の母親の味噌汁、ヨーグルト、チーズ、納豆の1日あたりの摂取量を回答してもらい、2019年の研究では1歳時の睡眠状態との関連を、2022年の研究では3歳時の睡眠状態との関連を調べたものです。
調査の結果、子どもが1歳時の時点では、妊娠中の母親の味噌汁の摂取量が多いと子どもの睡眠不足リスクが下がること、子どもが3歳時の時点では、妊娠中の母親のチーズ摂取量が多いと子どもの睡眠不足リスクが下がることが明らかになりました。
胎児は母親とへその緒でつながっており、妊娠中の母親の栄養状態が胎児の状態と関係するということはわかりやすいと思いますし、出産後も母乳を与えていれば、胎児期と同じように母親から栄養を摂取しているので、胎児の時と同じなんだろうということは理解しやすいと思いますが、子どもが自分で栄養を摂るようになる1歳時や3歳時の時点でも、妊娠中の母親の食事が子どもの状態に影響しているというのは想像しにくいように思います。
時間間隔的に妊娠中の母親の食事が子どもに直接影響しているということはないように思いますが、どのような経路で影響を与えているのでしょうか。
研究では腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)が関係しているのではないかと示唆されています。腸内細菌叢は人の腸内に棲んでいる細菌群のパターンのことで、別名腸内フローラとも呼ばれています。
腸内フローラは一人ひとり異なっており、食生活や生活環境の影響もありますが、パターンを決定する一番大きな要因としては、母親の腸内環境と言われています。母親の腸内フローラが子どもに受け継がれることで、妊娠中の母親の食事が出生後の子どもの睡眠状態に影響しているのではないかと推察されています。
3.好きなものを食べることも大事
腸内フローラは3歳ころまでに原型がつくられると言われていて、その後はパターンが大きく変動することはないと言われています。妊娠中の食事が細菌パターンを変えることはないののだと思いますが、子どもがその後つくっていく腸内フローラには大きく関係しているのかもしれません。その意味で、妊娠中の母親の食事は出生後の子どもの発達や健康状態にとって重要になるのだと思います。
ただ、上の項では省いてしまいましたが、調査で取り上げられた味噌汁、ヨーグルト、チーズ、納豆のうち、1歳時の研究では味噌汁以外の食べ物との関連は見られず、3歳時の研究ではチーズ以外の食べ物との関連は見られませんでした。
このことは子どもの月齢によって影響を受けやすい栄養素に違いがあるということなのか、それとも別の要因が関係しているのかは不明ですし、詳細を明らかにしていくためにはより厳密な研究手法が必要なのだと思います。
また、特定の食べ物が子どもの睡眠不足リスクを下げるのだとしても、栄養が偏ってしまっては母親も胎児も健康状態を損なってしまうかもしれません。研究でも課題として挙げられていましたが、量や種類、他の栄養素とのバランスなど、妊娠中の食事と出生後の子どもの状態の関連性については調査が必要な事柄は多く残っています。
食事は栄養をただ摂ればいいというものではなく、バランスが悪くなると思って好きな物は食べたくなるでしょうし、身体に良いとわかっていても嫌いな物は食べるのに気が進まないと思います。
妊娠中の暴飲暴食は避けた方がいいとは思いますが、あまり我慢をしすぎても精神状態を悪化させる原因になってしまいます。栄養バランスだけを考えて食事をするより、どうしても食べたいとかどうしても食べたくないなど、心のバランスも考慮しながら食事をしていくことが大事かと思います。
______________________________________________
前のブログ記事:健康被害をもたらす低周波騒音を有効利用できる可能性について
次のブログ記事:出来事の文脈的な位置付けと、出来事の意味付けの関連
カウンセリングをご希望の方はご予約ページからご連絡ください。
______________________________________________
「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
______________________________________________
新宿・曙橋でカウンセリングルームをお探しなら新宿四谷心理カウンセリングルームへお越しください