腸内細菌叢を介した睡眠時間と心身の健康の関連性について
1.睡眠時間の減少と心身の不調
以前のブログでも睡眠については何度か取り上げていますが、人が健康に生活していくために睡眠はとても重要なものです。睡眠の時間・質が不十分な場合、たとえば頭の働きが鈍ったり活動量が低下したりするなどの影響が出てきますが、長期的に見ても精神・身体ともに疾患リスクの高まりにつながります。
そのためしっかりと睡眠時間と睡眠の質を確保していくことが日々の生活だけでなく、将来的な健康にとっても大事なことなのですが、厚生労働省の調査では、特に働いている人の平均睡眠時間は低下傾向が続いています。少し古いデータになりますが、平成26年度の厚生労働白書のデータを載せておきます。
近年、睡眠に関する話題が取り上げられることが増えてきたように感じられますが、それは心身の疾患に関する知識や理解の広がりや深まりだけでなく、睡眠不足を感じる人が増えていることとも無関係ではないと思います。
2.睡眠と腸内細菌、精神疾患の関連性
睡眠は心身両面に渡って影響を与えていますが、特に精神面に関しては睡眠と腸の働きとの関連が注目されています。以前のブログ記事で妊娠中の母親の食事が3歳時の子どもの睡眠時間と関連しているという話題を取り上げましたが、それには腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の組成が関わっているということでした。
また、腸内細菌学会によると、うつ病や躁うつ病を患っている人の腸内細菌叢には特定の細菌が少ないという報告があり、特に躁うつ病の人で睡眠状態が悪い場合には、ビフィズス菌が少ないほどストレスに関連するコルチゾールが多くなると報告されているとのことでした。
このように睡眠と腸内細菌、そして精神疾患に関連性のあることは知られていましたが、それらがどのようなメカニズムで関わっているのかという点については不明な点も多く、睡眠や精神症状の改善にどうつなげていくかということには課題がありました。
3.睡眠と自然免疫
上記したように、睡眠不足が腸内細菌叢の状態を悪化させ、様々な疾患のリスクを高めることが知られていました。ただそのメカニズムについては不明な点が残されていましたが、そのメカニズムを解明した研究が発表されていました。
睡眠不足が腸内細菌叢を乱すメカニズムを初めて解明~αディフェンシンによる睡眠障害の改善に期待~(先端生命科学研究院 教授 中村公則)
(北海道大学プレスリリース)
αディフェンシンとは、小腸のパネト細胞から分泌される抗菌ペプチドの一種で、体内に病原体が入った際にそれを除く働きをするものです。これは人の自然免疫が働く上で重要な役割を果たしていると同時に、腸内細菌叢を一定の状態に保つ働きもしています。
(腸内細菌学会HP参照)
睡眠状態の悪化によってαディフェンシンの分泌量が低下し腸内細菌叢が乱れてしまうことから自然免疫機能が十分に働かなくなり、そのために心身の疾患リスクが高まってしまうということのようです。
4.睡眠不足へのアプローチ
冒頭でも挙げたように、現代の特に働く人の睡眠時間は減少傾向にあり、それに伴って睡眠不足に悩む人も増えているように思います。睡眠時間を十分確保できるようになることが望ましいですが、現実的にそれが難しい場合も少なくないと思います。仕事との兼ね合いもありますし、個人的な取り組みだけで睡眠時間を向上させることには限界があるかもしれません。
睡眠は脳の機能が関与するものです。今回の研究では「脳腸相関」という言葉が使われていましたが、睡眠時間の低下が腸内細菌叢の悪化に影響を及ぼし、それが自然免疫機能の低下という形で心身の疾患リスクを高め、また心身の疾患が睡眠状態の悪化につながるというサイクルが想定されているようです。
睡眠状態に問題がある場合、その睡眠状態を改善させることをターゲットにすることが多いですが、脳腸相関の観点からすると、腸内環境や疾患・症状の改善によって脳の状態を改善させるというパターンもあるのではないかと思います。睡眠時間ではなく睡眠の質を高めることでリスクを低下させ健康状態を改善させることができるかもしれません。
最近は睡眠の質の改善を謳う商品や方法も色々なものが紹介されていますが、睡眠不足に悩んでいる時に睡眠の状態だけでなく、腸や心身の状態を含めて改善するための方法を探してみてもいいかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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