人間関係を整理して考えてみるための関係性と関わり方の観点
1.人間関係の構造的側面と質的側面
人によって人数の多い少ないはあると思いますが、人の生活に他者との関わりは欠かせないものだと思います。生活状況によってはほとんど人と関わることのない生活を送っている人もいると思いますが、関わる相手が全くいないという人はほぼほぼいないのではないかと思います。
たとえば、引きこもり状態になっている人であっても、食事や生理現象に対応していくことが必要ですし、食材を作ったり用意したり料理をしたり、住む家を作ったりメンテナンスをしたりなど、一人で全てを賄えない場合には誰かが出来ない部分を埋めています。直接対面していなかったとしても間接的に他者と関わっていると言えると思います。
人の他者との関わりは生まれた瞬間から始まります。子どもが生まれれば親がいるので親子関係がありますし、病院で生まれればスタッフとの関係があります。家庭に戻ればきょうだいや親戚、隣近所と関係をもつかもしれませんし、成長すれば学校、地域社会、仕事など様々な場所で他者との関わりをもつことになります。
こうした人間関係は関係の種類、あるいは関係の構造的側面と言えるかと思います。学校の教師やクラスメイトはどんな相手であっても教師は教師、クラスメイトはクラスメイトです。「あの先生はあまり好きでないから教師ではない」とはなりません。
ただ、人間関係にはそうした構造的な側面だけでなく、濃淡や距離、相性や情緒など質的な側面もあります。同じクラスメイトであっても「Aとはいつも一緒にいるけど、Bとは挨拶をする程度」というように相手によって関係性は異なります。
このように人間関係には構造的側面と質的側面があるわけですが、その両者に共通する軸として上下関係と水平関係があります。人間関係における上下関係、水平関係は人と人との関係性に奥行きを与え、関係がよりダイナミックなものになる要因となります。
2.上下関係
上下関係というと、部活動における先輩後輩関係であったり、職場における上司部下関係であったりを思い浮かべる人が多いかもしれません。人生で最初に上下関係を学ぶ場として、学校の先輩後輩関係が挙げられることもありますし、会社組織は部や課に管理者を置いてヒエラルキーを形成しています。ただ、上下関係は組織の中だけにあるものではなく、たとえば、家庭における親子関係やきょうだい関係も上下関係のひとつですし、同じ学年や立場であってもリーダーとフォロアーに分かれていればそれも上下関係のひとつと言えると思います。
上に挙げたものは構造、あるいは役割から生じる上下関係です。構造的な上下関係は変化することはありませんが、役割による上下関係は変化することがあります。親子関係で考えてみると、子どもが生まれた時は親が世話をする役割、子どもは世話を受ける役割です。子どもが大きくなって子どもが世話をする役割、親が世話を受ける役割になることはありますが、親はずっと親ですし子どもはずっと子どもです。このように構造的な上下関係は変化しなくても役割的な上下関係は変化することがあります。
次に質的側面についてですが、人間関係における質的側面の上下関係は本来上下関係のない関係性に上下関係をもちこむという形で表れることが多いように思います。上下関係は一方と他方の立場の違いを強調することだと考えられますが、構造的に上下関係が規定されていない場面では、本来はそれぞれの立場に違いはないはずですが、時に何かしらの評価基準を持ち込むことで上下関係を形成することがあります。
たとえば、ある試験の成績で得点の高い人と低い人がいたとします。その試験が能力を測るものだとすれば、得点の高低は能力的な差異を表しているとは言えるかもしれませんが、それが対人的な上下関係につながるわけではありません。しかし、得点の高い人が尊大に振る舞ったり、得点の低い人が卑下するような態度をとったりすれば、そのことが双方の間における上下関係を生じさせるかもしれません。
上下関係は関係である以上人同士の組み合わせではありますが、そこでコミュニケーションは一方向的という特徴があると思います。上司が部下に指示をすることはあっても部下が上司に指示をすることは基本的にないと思いますし、教師は生徒に授業をしても生徒が教師に授業をすることはないと思います(学習の一環でそうした試みを行うことはあるかもしれませんが)。
3.水平関係
水平関係は相手と立場上の違いがなかったり、役割の違いがない、あるいは役割の違いがあったとしても上下関係にはならない形の役割の違いがあるような関係です。友人や同僚、仲間といった言葉が当てはまる関係です。
水平関係は横並びの関係と言い換えてもいいかもしれませんが、構造的な観点からすると、上下関係との関連で考えてみるとわかりやすいかもしれません。きょうだい間で歳の差はあっても親に対する子どもという点では同じ立場です。教師に対する生徒同士、上司に対する部下同士でも同様に水平的な関係になります。もちろん、教師同士や管理職同士でも同じように水平関係です。
水平関係では役割的な違いがあっても基本的には上下関係にはなりません。たとえば、仕事であるプロジェクトを進めていく時、リーダーが管理者としてプロジェクト全体の進捗を管理しますが、Aは制作、Bは広告宣伝、Cはスケジュール管理などのように、チームの中で役割分担があっても誰が上か下かということにはなりませんし、プロジェクトに携わる者同士横並びの関係です。
人間関係の質的側面における水平関係では、普段は上下関係にある人同士であっても、場面によっては水平関係になるなど、上下関係に比べると流動的なところがあります。たとえば、あるテーマについて議論を行う場合、そこには先生や上司など普段は上下関係にある人もいるかもしれませんが、上下関係があるから意見を出してはいけないということはなく、それぞれが忌憚なく議論できることが望ましいです。つまり、議論をすることに関しては立場の違いはなく、お互いに意見を出し合う水平関係にあるということになります。
上下関係は一方と他方の差異や異質性を強調する関係性でしたが、水平関係は関係する人の間の差異のなさや同質性を強調する関係性です。コミュニケーションのあり方は双方向的で、それぞれが相手に対して同じ責任を負っていると見なされます。
4.人間関係の力動
人間関係は固定的なものではなく流動的なものです。構造的関係は家庭や学校、会社などの属するシステムが変化すれば、そのシステムの中にいる人同士の関係も変化しますし、システムから離れた場合にも変化するかもしれません。質的関係は親密・疎遠、好き嫌いなどの関係ですが、こちらはそれこそ些細と感じるような出来事がきっかけで変化してしまうこともあります。
こうした人間関係の変化は望んでそうなる場合もあれば、望んではいなかったけどそうなったという場合もあると思います。全ての関係の変化に説明がつくわけではありませんが、変化の一部は上下・水平関係から考えてみることで理解できるものもあるかもしれません。
たとえば、同じ組織に上司・部下の関係で属していた時には疎遠だったけれど、組織を離れた後は親しく付き合うようになった場合、組織の中では上下関係にあったことで一線を引いて仕事上の関わりに留めていたのが、組織を離れて水平な関係になったことで気兼ねなく話ができるようになったのかもしれません。
あるいは、友人として付き合っていたけれど次第に疎遠になっていった場合、それまではどちらが上で下ということもなく水平な関係で付き合っていたけれど、一方がある成果を挙げたことで優越感をもったり、あるいは他方が劣等感を抱くようになったりすることで上下関係が生じ、そのためにどちらか一方、または両方が距離を置くようになったのかもしれません。
人間関係は流動的で捉えがたいものではありますが、今回取り上げたような観点を念頭に置くことで多少整理がしやすくなるのではないかと思いますし、整理がつくことで今後どうしようという判断のために役立つかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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