幼少期におけるスマホ利用の発達への影響や発達領域との関連性
1.スマートフォンの普及
スマートフォンが日本で発売されてから15年ほどになりますが、その間に普及率は9割を超えているようです。2台持ち、3台持ちという人もいるので、所有している人の割合でいえばもう少し下がるのかもしれませんが、それでも相当な割合に上ることは間違いないでしょうし、行政手続きのデジタル化が進んでいることもあって、色々な意味で手放せないという人は多いのではないでしょうか。
スマートフォンは普及の前後で生活を変えるようなものになりましたが、それだけ人々の生活に密着し欠かせない物になってくると、単に便利な道具というだけでなく色々な問題も出てきます。買い物に関する決済上のトラブルや情報管理の問題、生活管理の問題などなど。これらの問題はそれ以前にもあったものではありますが、学校に入る前の年齢からスマホに触れることも増えているので、トラブルに遭う年代は広がっているのではないかと思います。
またトラブルなどの生活上の問題だけでなく、プロセス依存といった心理的な問題や、特に子どもの場合には、心身や社会性の発達の問題などが指摘されています。生活に浸透している以上、子どもの発達にも何かしら影響があることは想像されますが、具体的にどんな影響や関連性があるのかということは明らかではないようです。
2.1歳時のスマホ使用時間とその後の発達への影響
実際に子どもが初めてスマートフォンに触れるのがいつになるかは家庭によって違いがあると思いますが、直観的にはより低年齢で触れる時間も長いほど影響が大きいように考えられますが、使用時間とその後の発達に関して縦断調査研究を行ったものがありました。
1歳時のスクリーンタイムが2歳・4歳時点の発達特性の一部と関連
(東北大学プレスリリース(PDF))
ここでのスクリーンタイムとは、「テレビやDVD、ゲームなどの画面(スクリーン)を備えたデバイスの使用に費やされた時間」を指しています。
この研究では、1歳児のスクリーンタイムの長さと2歳時および4歳時における発達遅延の関連を調査しています。スクリーンタイムの長さは(1)1時間未満(2)1~2時間未満(3)2~4時間未満(4)4時間以上、発達領域は(a)コミュニケーション(b)粗大運動(C)微細運動(d)問題解決(e)個人・社会、になります。
(1)を基準点として、スクリーンタイムが(3)と(4)の時に(a)と(d)の発達領域に有意差(発達遅延)がみられました。スクリーンタイムが長くなるほど発達遅延がみられる割合が大きくなっているのですが、2歳時と4歳時を比べた時に、4歳時の方がその割合は小さくなっています。
考察でも挙げられていましたが、4歳時以降に子どもの発達がどうなっていくのかは気になるところです。2歳と4歳では発達の遅れの割合が減っていることを考えると、発達の差は次第に縮まっていくのかもしれませんし、発達の臨界期を過ぎてしまったとすれば差は固定されるのかもしれません。また、どんな状況で長時間使用していたかによっても発達の仕方は変わってくるように思います。一人で長時間使用していたのか、誰かと一緒に使用していたのかによってコミュニケーションの量は変わってくるでしょう。
3.子どもの発達とスマホ使用および親との関わり
上項で取り上げた研究では、スクリーンタイムの長さと子どもの発達に焦点を当てていましたが、子どもの発達、特にコミュニケーションや言語の発達においては、親との関わりや環境要因が大きな影響を持っています。次に取り上げる研究では、子どもの行動だけでなく親の行動も調査対象となっており、子どもの言語発達における親や家族からの影響についても考察されています。
スマホ使用が幼児の言語発達に及ぼす影響
(公益財団法人電気通信普及財団研究調査助成報告書(PDF))
この報告書は以下の4つの調査研究をまとめたものになります。
①電車内、空港の待合室における子どものスマホの利用状況
②幼児期の子どもおよび保護者のスマホの利用状況
③言語発達検査による幼児のスマホ利用と言語発達との関連
④ベテラン保育者からみた幼児のスマホ利用と言語発達との関連
それぞれを取り上げていると量が多くなりすぎてしまうので、まとめの部分から一部抜粋すると、「スマホの長時間の使用によって子どもの言語発達に大きなゆがみが生じるという明確な結果は得られなかったが、スマホを極端に使用することは子どもの発達に何らかの影響があることを示唆する結果は得られ」たとのことです。この調査研究から育児における親子の関わりの中にも、全面的ではないにしてもスマホが浸透してきていることがうかがえます。同時に多くの家庭でスマホ使用のルールを作ることで、子どもがスマホを使うことに制限をかけていることがわかりました。
この研究では、スマホ利用に関する観察、質問紙調査、子どもの言語発達検査の実施、保育者へのインタビューと幅広く調査を行っているのですが、研究方法の性質上仕方ないことなのですが、各研究間の関連性が明らかではないように思います。現実的な難しさはありますが、同一の被験者を対象として各研究を実施することができれば、親子のスマホ使用状況と親子の関わり、そして子どもの言語発達それぞれの関係性をより詳細に知ることができるかもしれません。
4.便利な道具
今回取り上げたどちらの研究でも低年齢時における長時間のスマートフォン使用がその後の子どもの発達に何かしらの影響を与えていることは間違いなさそうだけれども、どんなメカニズムによって影響が伝わっているのかはまだまだ不明確なようです。
一口にスマートフォン使用と言っても様々なアプリがあって、アプリの性質によって生じる影響は異なっているかもしれません。また多くの家庭では子どもが勝手にスマートフォンを使っているわけではなく、家庭内でスマートフォン使用に関するルールを作っています。そうなると子どもの発達に対する家族関係の影響やスマートフォン使用状況との交互作用を考慮しなくてはなりません。長時間スマートフォンを使用する子どもに基準となる発達水準に比べて差異があったとしても、それはスマートフォン使用よりも家族関係がより大きな影響を持っていたという場合もあるのではないかと思います。
現状ではスマートフォン使用についての懸念が取り上げられることが多いように思いますが、スマートフォンの使用が発達や家族関係に対して促進的に働くという結果が得られた研究もあるようです。現在までの研究でスマートフォン使用と子どもの発達に何らかの関係があることは明らかになってきていますし、今後はスマートフォンの何をどのように使用することがその後の発達にどのように影響するのかなど、より詳細な事柄が明らかになってくるかもしれません。
ひとつ目に挙げた研究で触れられていましたが、スマートフォンの出現によって人の暮らしに変化が起こっているなら、既存の発達検査で遅れと判定されることを今後も遅れと判断することが適切なのかどうか考える必要があると述べられていました。確かにスマートフォン端末ひとつで様々なことができるようになりましたし、人の暮らしに対するインパクトはかなり大きいと思いますが、今まで判断基準が全く変わってしまうほど人の在り様を変えてしまうかどうかは現状ではなんとも言えないと思います。というのもスマートフォンに関わる社会問題はそれまでにも存在したものだからです。
今後情報端末がどうなっていくかはわかりませんが、現状ではスマートフォンは生活の利便性を高めてくれるツールのひとつです。便利さを知るとそれを手放すことはなかなか難しいですし、使用状況によっては悪影響があるにしてもいつまでも子どもに全く触らせないというのは現実的ではないと思います。そのためデメリットのある使い方に配慮しつつ、子どもの成長や育児、家族の関わりにどのように役立てていくかを考えていくことが大事なのではないかと思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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