カウンセリングにおける環境要因の影響(カウンセラーを含めて)
1.素質か養育か
「氏か育ちか(nature or nurture)」
これは子どもの発達に関して古くから議論されてきた命題です。子どもがどのように成長するかが、生まれ持ったものによって決まっているのか、あるいは成育環境次第で如何様にも変わりうるのか。
直観的にはどちらも重要な要素のように思えます。心身の発達が遺伝子によって決まってくるとしても環境からの促しがなければ素質が十分に開花していくことは難しいのではないかと思います。
ただ、ではどこまでが素質でどこからが環境なのかを見定めることは相当困難な課題だと思います。同じような成長が見られたとしても、時には素質要因が大きいように感じられたり、時には環境要因が強いように感じられたりします。実際にどちらに因っているかを確定させることはできないのかもしれません。
2.相談者の特性とカウンセリング環境
カウンセリングにおいても、上で挙げたような命題と似ているものがあると思います。それはカウンセリングがどんなものになるかが、相談者の特性によって決まっているのか、カウンセラーを含めた環境要因によって決まってくるのかということです。
カウンセリングにおいてもやはりどちらか一方によって決まるものではなく、両者の兼ね合いによってカウンセリングの中でどんなことが起こるかが決まってくると思います。
カウンセリングを行う時には、基本的には相談者の動機があって始められるので、その動機にまつわる内容が話の中心になることが多いですが、必ずしも取り組んでいきたい事柄が過不足なく扱えるかというと、そうとも限りません。相談者が取り組みたいと思ってもカウンセラーが触れづらいと感じていたら、その内容をカウンセリングで扱うことは難しくなるかもしれません。もちろん反対のパターンもあると思います。
このようにその時のカウンセリングがどんなものになるかは、その時々でどちらかの要素が優勢になることはありますが、基本的に相談者の要因と環境要因が組み合わさって形作られるものだと思います。
3.カウンセリングに影響する環境的要素
カウンセリングが相談者の特性と環境要因によって形作られるなら、その両者について考えた方がいいのですが、カウンセリングに訪れる人は多様で類型化することはかないませんので、今回はカウンセリングに影響を与える可能性のある環境要因について取り上げます。
カウンセリングにおける環境要因と一口に言っても、その要因には様々なものがありますし、それらを網羅的に取り上げることはブログの中では難しいので、今回はカウンセリングを行う場所、相談室の内装、カウンセラーについて考えてみます。
3-1.カウンセリングを行う場所
ここで言うカウンセリングの場所とは、医療機関や教育機関といった「領域」とその機関の建物がある「立地」のことになります。
たとえば、医療機関でカウンセリングを行っている場合には自分を患者として捉えているかもしれませんし、学校で行っている場合には生徒として捉えているかもしれません。話の内容が限定されるわけではないとしても、自分の立場をどう捉えるかということがカウンセリングの内容に影響することがあります。患者の立場であれば病気や症状に関する話題が多くなるかもしれませんし、生徒の立場であれば学校生活に関連した話題が多くなるかもしれません。
相談室の立地は人の集まる繁華街や閑静な住宅街など色々な場所にありますし、そこが生活圏内か圏外かの違いもあります。馴染みのある場所に近ければ安心感があるかもしれませんし、普段寄らないような場所に行くとしたら不安感があるかもしれません。そこに行くまでの経路や時間によっても気分は変わってくるものです。
3-2.相談室の内装
相談室の内装は比較的物が少ないシンプルなところが多いとは思いますが、最低限椅子とテーブルは置かれているでしょうし、相談室によっては箱庭やアートセラピーの備品が置いてあることもあります。また観葉植物や本棚、PCなんかが置かれている相談室もあります。カウンセラーが収集したアイテムや絵画が飾られていることもあるかもしれません。
こうした内装は部屋の雰囲気を左右すると思います。オフィス然として無機質な印象をもつかもしれませんし、おうちのリビングのような生活感を感じるかもしれません。そうした部屋の雰囲気の印象によって気分は違ってくると思いますし、ひとつひとつの備品が目に入ることで自分の中に色々な連想が湧くこともあると思います。
座っている椅子が固く感じて、そちらに意識が向いてしまい集中できないこともあるかもしれませんし、居心地よく感じて眠くなってしまうこともあるかもしれません。また、内装とは違いますが、相談室外の音や声が聞こえたり聞こえなかったりすることも気になることがあるかもしれません。
3-3.カウンセラー
カウンセラーの要素として、わかりやすいのは年齢や性別でしょうか。相談する相手として異性がいい、同性がいいと希望することもあると思いますし、年上/年下だと話しやすいと感じることもあると思います。またカウンセラーの声質や話し方の特徴、性格などもカウンセラーを構成する要素です。
こうしたカウンセラーの要素は相談者とカウンセラーの関係性に影響します。カウンセラーが相談者にどのように関わっているということだけなく、相談者がカウンセラーをどのように体験しているということもカウンセリングの展開を左右します。
たとえば、カウンセリングを始めた当初はカウンセラーが優しく親切に感じられたとしても、カウンセリングが続いていくと冷たい人のように感じられるようになっていくこともあります。これはカウンセラーの態度が変化したのかもしれませんし、態度の変化はないけれども相談者の感じ方に変化があったのかもしれません。
相談者とカウンセラーの関係性の特徴は、相談者の過去から現在までの人間関係の持ち方や感じ方の特徴を反映していることがあります。
4.抱えている問題と環境設定の関連性
カウンセリングに影響する環境要因は他にも時間であったり関わる人の数であったりなど、色々な要因があります。何かひとつの要因の変化によってカウンセリングが劇的に変わってしまうということは少ないですが、複数の要因が様々に影響してひとつのカウンセリングを形作っています。
環境要因は基本的に一定の状態を保ったままでカウンセリングが続けられていきます。変化がなければ要因が意識されることは少ないですが、カウンセリング環境を変えた時、あるいは変えたいと思っている時には、その変化と相談者の抱える問題が関連していることがあります。
たとえば、カウンセラーを替えたいと思った時、単純に相性が合わないからという理由であることもありますが、そのカウンセラーと話をしていると、気づかないうちに抱えているコンプレックスが刺激され、それが不快感となってカウンセラーを替えたくなったということもあるかもしれません。
環境的な要素が具体的にどのように影響しているのかというのはわからないことも多いですし、要素ごとに影響の強さはバラバラではありますが、時に抱えている問題と環境要因の関連性を考えてみることが、問題への取り組みを先に進めたり自己理解につながったりするかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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