自己否定をどのように捉えるか。自己否定してしまう人の特徴と理由、改善について
自己否定の影響
人の性質や状況は生きていく中で変化していくものですが、自分のおかれた現状に満足できなかったり納得いかなかったりする時、今とは違った人間になりたい、あるいは今の自分を消してしまいたいと思うことがあるかもしれません。
こうした自分のおかれた現実を拒否する、自己を否定するような思考や感情は、現状を変えより良い未来へ向かおうとするエネルギーになることもありますし、諦めと絶望を強化し自らを終わらせるように働くこともあります。
否定がどんな影響を持つかはケースバイケースですが、後者のような影響を持った場合には、やはり心理的な健康にとって大きな問題になってしまいます。
1.自己否定とは
自己否定とは、自分の性格や能力、欲求、考えなどの自己にまつわる性質に対する、あるいは自分の存在そのものに対する否定的な感情、思考、言動です。たとえば、自分を嫌うことや自分の達成を無価値と考えることなどです。
自己否定は現状の自分に対する満足のできなさや納得のいかなさの表れと言えますが、その表れ方には変化に向かう表れ方と破壊に向かう表れ方があると思います。変化に向かえば今の自分ではない違う自分に成ろうとするでしょうし、破壊に向かえば自分の一部、あるいは全てを失くそうとするでしょう。
変化と破壊の方向性は心理的には、どちらか一方のみが存在しているというよりも常に両者が存在しているように思います。その時々の状態や状況によってどちらかが優勢になり、意識されやすくなったり外的に表現されたりするのだと考えられます。
1-1.自己否定の表現を左右する要因
自己否定の表現には、自己変革的な方向と自己破壊的な方向があると述べましたが、自己否定自体は単に今の自分に対して否定的というだけであって、それが変化を志向したものか破壊を志向したものかは決まっているわけではありません。
自己否定がどのような方向で表現されるかは自己に対する信頼感やレジリエンスの強さ、周囲の人々との関係などの要因によって方向付けが決まってきます。
自信がありレジリエンスが高く周囲の人々からのサポートが厚ければ自己変革に方向づけられやすいでしょうし、自信がなくレジリエンスが脆弱で孤立した状況にあれば自己破壊に方向づけられやすいと思います。
実際の状況は上のようにきれいに分けられるわけではありませんが、挙げたような要素に着目することでどちらの方向へ向かいやすいかを予測できるのではないかと思います。
1-2.否定と肯定
自己肯定感は自分を肯定的に評価する感情、価値のある存在として認める感情です。自己否定とは反対の意味合いを持つ言葉ではありますが、自己肯定感と自己否定は必ずしも相反するものではありません。
たとえば、試験に向けて勉強している時に遊びたいという欲求があったとします。遊びたい欲求に従うことなく勉強を続けたとすれば、そんな自分に対して自己肯定感を抱くかもしれません。この場合、遊ばないということは自分の欲求を自己否定することではありますが、そうした自己否定が自己肯定感につながっていることになります。
自分の存在を認める↔認めないなどのように、肯定感情と否定感情が対立的に存在することもありますが、必ずしも自己肯定感の反対が自己否定になるわけではありません。肯定と否定の水準が異なっていたり、混在していたりすることもあるため、自己肯定感と自己否定は分けて考えることが必要なのではないかと思います。
1-3.自己否定と無力感
自己否定、特に自己破壊的な自己否定は無力感との関連が強いように思います。今の自分を否定した先にある自分を想像することが難しかったり、あるいは想像できたとしても想像した自分に近づくことは無理だと考えていたりするように思われます。
無力感は学習の結果と考えられています。自分の力が及ばない経験を繰り返すことによって何をしても無駄と思い込むようになり、現状を変えようとする行動を起こす意思を失ってしまいます。
苦痛や不快を感じる状況に遭った場合、その状況から離れたり自己や状況を変化させることで苦痛や不快の緩和を試みます。一度でうまくいかなかったとしてもしばらくは様々な試みを続けていきますが、どんな方法を試みても苦痛や不快が変わらず続いていくと、苦痛や不快があっても何もせずうずくまって動かなくなってしまいます。
強い無力感を抱くようになると、何か問題が起こったとしても対処しようという気持ちにはなりにくくなりますが、苦痛や不快がなくなるわけではありません。何もできない状況で苦痛や不快に対処しようとした結果として、自分が感じていることを否定して現実との関わりが希薄化したり、自分が悪いと思い込むことでひたすら苦痛を甘受したりという、強い自己否定に至るのかもしれません。
2.自己否定してしまう人の特徴
自己否定自体は誰もがする可能性のあることですが、その頻度が相対的に高く、また自分を苦しめるだけの方向に向かいがちな人たちには共通した特徴があるように思います。全く同じというわけではもちろんありませんが、自己否定の背景となる心理状態や傾向性などに似ている点が見られます。
以下にいくつかの特徴を挙げましたが、それらの特徴から考えられることは自分自身に対する過小評価があると言えるのではないかと思います。現実的にはどうなのかということから離れて自分を低くとらえてしまう結果、自分や自分に関することがらを否定的に見ざるを得ないのかもしれません。
同時に他者を過大評価、少なくとも自分よりも高くとらえてしまい、物怖じしてうまく関係をつくることができなかったり、他者と自分の落差を感じて諦める気持ちになったりしてしまうのだろうと思います。
2-1.ものごとを否定的にとらえる
ものごとは多面的にとらえられるもので、ある面から見れば否定的にとらえられる事であっても、別の面から見れば肯定的にとらえられるということがあります。しかしながら、自己否定の強い人はものごとの否定的な面に目が向きがちで、ものごとを肯定的に見ることが難しい傾向があります。
これはたとえ他者から肯定的にとらえる見方を指摘されたとしても否定的な見方が変わらないことが少なくありません。指摘された時には「そうかもしれない」と思ったとしても、話しているうちに、あるいは考えているうちに次第に元の否定的なとらえ方に戻ってしまいます。
まるでものごとを否定的にとらえなければならないように感じられることもあるかもしれません。自分は悪い存在であるというような自己認知があるとすれば、悪い存在なのだから悪い出来事が降りかかる(良いことなんて起こるはずない)という認知的な一貫性を維持するためにものごとを否定的にとらえてしまうのかもしれません。
2-2.人間関係の脆弱さ
自己否定の強い人は人間関係の構築が脆弱であることが少なくありません。これは人間関係から引きこもって孤立しているというわけではなく、むしろはたから見ると人間関係の幅はそれなりに広く、それぞれの相手とうまくやっているように見えることもあります。
ただ、人間関係の親密さという点では、相手との関係を深めようとせず表面的な付き合いに留めていたり、相手の話はよく聞いているけれども自分のことはあまり打ち明けないなど、決して付き合いが悪いわけではないですが、相手との間に距離を置いている、あるいは一線を引いているような人付き合いをしていることが多いように思われます。
人間関係のほとんどがそのような距離を置いたものだとしたら、苦しんでいたとしても助けを求めることは難しくなるでしょうし、相手としても近づきにくくなるかもしれません。結果として、孤立しているわけではなくとも、孤独を感じるような人間関係になってしまう可能性が高くなります。
2-3.他者と比べる生き方
他者と自分を比較して評価することは自分のことを知り理解していくために重要な過程です。他者と自分の似ているところと異なるところを知ることで自分の特徴が明らかになり、自分が人とは異なるユニークな存在として認識することになるのですが、そこに自己否定の要素が入ってくると、「人と同じようにできない自分は悪い」とか「人と比べて自分は劣っている」という考えになりがちです。
比較によって優劣のつく要素はもちろんありますが、人間存在という観点から見れば、ある人と自分はただ単に違っているというだけなのですが、自己否定の強い人はその違いに価値や優劣などの基準を当てはめてしまい、それを否定的にとらえるため価値がない、劣っているという考えになってしまうのだと思います。
また自分で自分を積極的に評価することが難しいため、他者が自分をどう評価しているかを気にしがちな傾向があります。ただ否定的認知があるために他者の評価全般に対してというよりも他者の否定的評価に対して意識が向きやすく、そこでさらに自己否定を強めたり自己否定の確認のようになっていたりするように思います。
2-4.自信のなさや不安感を持つ
上でも述べたように、強い自己否定には無力感が関係していると考えられます。自分には何かを達成することができないという思いがあり、また何かを達成したとしてもそれを肯定的に評価できないとすれば、自分に自信をもつことは難しくなります。
何か問題が生じても自分で解決することができないと感じている状態は強い不安感を掻き立てます。不安を自分で解消することが難しいため他者に対して依存的になり安心感を求めようとしますが、否定的認知や人間関係の脆弱さのためにうまく安心感を得られなかったり得られたとしても一時のことだったりします。
このようなうまくいかない経験がさらに無力感、自己否定、自信のなさや不安を強めるという悪循環につながってしまうかもしれません。
3.自己を否定してしまう理由
おそらく生まれつき自分に対して否定的な人はいないと思います。自分に否定的になっているとすれば、それにはやはり何らかの理由があると考えることが妥当でしょう。
人の特徴や傾向は持って生まれた気質・特性と生後の経験、両方の影響を受けながら形作られていきます。もともとの気質・特性によって、同じ経験をしたとしてもそこから受ける影響は異なってくると思いますし、経験を重ねていくことによって、持っている気質・特性の影響が見えにくくなっていくこともあると思います。
大人に比べて子どもの方が影響を受けやすいため、幼少期の経験が自己否定に大きく影響していることはありますが、成長してからの経験が自己否定につながることもあります。自己否定が始まった原因を明らかにすることは容易ではありませんが、経験の内容とそれが個人に影響を与えたのかという点から考えてみることが重要です。
3-1.家庭環境による影響のため
子どもは家庭の中で人生を生きていくための基盤をつくっていきます。それだけに記憶に残っていないようなことであっても親からの影響は大変大きいものになります。親との関わり中で自己の基盤を形成し、その基盤を核として様々な経験を吸収していきます。
自己の基盤を形成する時期の経験はその後の個人の性格や価値観などの傾向の形成に影響を与えます。その時期に自分が認められない経験や否定されるような経験を繰り返すと、否定的経験が自己の基盤に刻まれ、性格や価値観なども自己否定的な傾向が形成されることになります。
虐待やネグレクトが子どもの成長に否定的な影響を与えることは理解しやすいですが、時に過度に保護的だったり干渉的だったりすることも否定的な影響を与えることがあります。親の関わりが子どもの意思や欲求に対して強く抑圧的に働いた場合には、子どもは自分の意思や欲求が認められるものではなく、否定されるべきものと思うようになるかもしれません。
3-2.失敗や挫折の経験による影響のため
幼少期の家庭での経験が大きな影響を持つことは間違いありませんが、それによってその後の人生が完全に決定づけられてしまうわけではありません。幼少期に否定的な経験を重ねたとしてもその後に肯定的な経験を重ねていくことができれば、強い自己否定には陥らないこともあります。
ただこれには当然逆のパターンもあります。子どもは自分が肯定される体験と否定される体験の両者を経験していくことでより現実的にとらえる感覚を発達させていきますが、そのようなバランスのとれた感覚を持っていたとしても、トラウマとなるような失敗や挫折を経験することによって一気にバランスが崩れ、自己否定的な傾向が強まってしまうことがあります。
また幼少期に自分が否定されるような経験が少なかった場合には、失敗や挫折の経験はより大きな影響をもつものになるかもしれません。経験はその出来事に対する心構えをつくることになります。否定的経験がある種の打たれ強さをつくるわけですが、その経験が少ないと心構えや打たれ強さを獲得することができず、失敗や挫折経験に対応することが難しくなるのではないかと思います。
3-3.教育による影響のため
自己の形成における教育の影響はわかりづらさがあるように思います。多くの場合、人の自己の核となる基盤は生後の家庭生活の中でつくられていきます。教育が後から始まる以上、影響の在り方は家庭生活で築かれた自己の基盤の上に重ねていくようなものと考えることができますし、また教育が始まれば家庭生活が終わるわけではなく、両者は並行して続いていきます。そのため自己形成に対する教育の影響は基本的には家庭の影響との相互作用として考えることが重要と思われます。
教育は集団活動の始まりでもあります。保育園での活動も集団活動ではありますが、集団としてのまとまりを求められるという意味では、やはり教育が始まってからの方が集団活動の要素は強いと思います。集団活動では個人より集団を優先する場面がありますが、ここで過度に集団に合わせる意識が強い場合には自己否定につながる可能性は高くなります。
また教育では成績などによって個々人の違いが評価という形で可視化されます。この評価が学習の進行度や個人内差を見るために用いられれば否定的な要素は少ないように思いますが、個人間差、つまり他者と比較して自分はどれほどかという点に着目すると、どうしても評価の優劣という見方が出てくると思います。評価についてコンプレックスを抱えていると成績の良し悪しが自己否定につながるようになるかもしれません。
4.自己否定の影響
自己否定は過去の自分や現在の自分に対する否定的な見方ですが、そうした自己認識が定着していくと、自己を否定的に捉える見方以外のことが難しくなっていきます。これは自己を否定するような事柄に対して注意が向きやすいというだけでなく、価値判断を含まないあるいは自己を肯定的に捉えられる事柄に対してすらも否定的に捉えるようになるためです。
否定的な自己認識が定着してしまうことで過去や現在の自分だけでなく、将来の自分に対しても否定的な見方をしてしまうようになります。将来の自分がどうなるかはわからないけれども色々な可能性がある、という考え方をすることが難しくなり、今の自分を肯定できないように将来も自分を肯定できないだろう、という見方になりがちです。未来に対する不安を和らげようとする反応と捉えることもできますが、それ以上に心理的な健康を損なったり行動を制限したりするように働くことが多いと思います。
行動の制限を挙げましたが、否定的な感情が強くなると何かをやることに対して消極的になっていきます。物事に対して肯定的な意味合いを見出すことが難しくなり、生活上必要最低限のことしかやる気がなくなったり、外とのつながりを煩わしく感じて籠りがちになったりするかもしれません。
自己否定的な認知が強く定着するほど、その認知を変化させることが難しくなりますが、ただ変化しにくいというだけでなく、変化のための行動をとること自体が困難になっていきます。その状態が長く続いてしまうと、否定的な感情が自己に対してだけでなく、他の事柄にも広がっていき、あらゆることに対して否定的になってしまうかもしれません。
5.自己否定を改善する方法
もともとの気質・特性が関係するとしても、経験によって自分への否定的感情がつくられていくとすれば、反対に経験によって否定的感情を和らげ、肯定的感情を高めることもできると思います。
比較的取り組んでいきやすいことは行動面を変えていくことだと思います。生じてくる感情や反芻する思考は自分の意思とは無関係に起こってくることが多く、それらを止めよう、変えようとすることは時間と労力を要することです。もちろん行動を変えることが労力を必要としないというわけではありませんが、感情や思考に比べると意思によって変化させる余地は大きいと思います。
行動・思考・感情はそれぞれ影響を与え合っています。否定的な感情は否定的な思考を生み、否定的な行動につながることが多いですが、その流れを止めるような行動をとることで、思考や感情が変化していく可能性が生まれるのではないかと思います。
5-1.褒められた時にお礼を返す
強い自己否定感情を持っている人は褒められた経験があまりない人も少なくありません。自分で自分を褒めることができないことも多いですし、人から褒められることがあったとしても戸惑ってしまい、それを自己肯定につなげることが難しいことが多いように思います。
自分の感覚をすぐに変えることは難しいですが、褒められた時にはお礼を返すことを意識してみるといいかもしれません。心中はどうあれ、まずは「ありがとう」という言葉を返すことで相手にはそれが伝わることになりますし、褒められる経験に慣れてくれば、自分で自分を褒めることもしやすくなるかもしれません。
また、褒めてくれた相手のことを褒めて返すことも自己肯定感情を高めることにつながるかもしれません。褒めることはその対象を肯定することですが、相手と自分がお互いに褒め合う関係を築くことができれば、互いに肯定的感情を高め合う関係になっていくかもしれません。
5-2.自分の良い部分悪くない部分に目を向ける
悪い、良くないことがらに目を向けていると、やはり自己否定感情は強くなってしまいますし、自己否定感情が強いと悪い、良くない事柄に意識が向かいやすくなります。そのような循環に陥ってしまうとそこから脱け出すことが難しくなってしまいます。
循環から脱け出していくためには、その循環を作り出しているポイントを変えることが必要ですが、ネガティブへの注目や自己否定はどうしてもそうなってしまうということもあり、変えることは容易ではありません。なので変えるのではなく足してみることを考えてみることがよいのではないかと思います。
自己否定では自分の悪い、良くない部分について意識が向きやすいですが、それとともに自分の良い、悪くない部分を考えてみるといいです。なかなか思い浮かばなかったり思いついても疑問に思ったりするかもしれませんが、どんなに些細なことであっても自分の良い、悪くないと思えることを挙げてみることが大事だと思います。それを繰り返していくことで次第に意識の在り方が変わってくるかもしれません。
5-3.自分の感情や思考を言語化し文字に起こしてみる
自分の思っていることを表に出すという行為は自分の中にあるものを発散させると同時に、自分を客観視するのに役立つことがあります。たとえば、イライラした気分の時にその気分を言語化することで、少し落ち着いた気持ちでそれを眺めることができるかもしれません。
言語化はただ声に出してみるだけでもいいかもしれませんが、文字にしてみることも有用だと思います。その際に必ずしもまとまった文章である必要はありません。文字が読めればその時の心中の内容もわかりますが、仮に乱れた文字が並んでいるだけだとしても、その時はそれだけ冷静ではなかったという情報になります。
文字にすることで後から振り返ることができますが、時間的に距離を置いた状態で自分を再認識することができるので、今の自分とは違う自分をそこに見ることができるでしょうし、感情的な自分に対して落ち着いた自分を肯定してもいいのではないかと思います。
5-4.普段使う言葉を変えてみる
人によってよく使う言葉は変わってきます。どんな語彙を身に付けているのかということもありますが、言葉遣いには個人の価値観や思考の癖が表れていると思います。自己否定をしてしまいがちな人は言葉も否定的なものが多いかもしれません。
言葉は意識の在り方にも影響するので否定的な言葉は否定的な意識につながりやすいと思います。そのため普段の言葉遣いに注目してみて、否定的な言葉を使ってしまいやすい場面に気づいたら、その場面での言葉選びを否定的なものから肯定的なもの、あるいは中立的なものに変えてみることで意識的な変化につながるかもしれません。
たとえば、仕事がうまくいかなくて自分はダメだなと考えているとしたら、うまくはいかなかったけれどやれるだけはやった(やろうとした)とか、努力はしたけど少しツキがなかったかもしれないなど。自分を肯定的に評価できる言葉に変えてみたり不可抗力的な要因を挙げてみたりするといいかと思います。心の中で唱えるだけでも実際に声に出してもいいと思いますが、意識的に異なる表現を当ててみることが大事だと思います。
5-5.カウンセリングを受けてみる
カウンセリングを行う利点のひとつは一緒に考える相手がいるということだと思います。自己否定の傾向は基本的に他者との関係の中から生まれてくると思います。たとえば、自分がしたことに対して他者から否定的な評価をつけられたり、他者とと比較されて否定的感情が生じたりします。そのようなことが内在化されて自分で自分を否定するようになるのですが、心の中には否定する他者が常に存在しています。自己否定は心の中の否定する他者と自分が融合した結果だと思います。
自己否定の強い人の中には、「他人が自分を認めるわけがない」という感覚を持っている人がいます。これは心の中の否定する他者を現実の他人に重ねていることもありますし、自分を認めない自分と現実の他人を重ねていることもありますが、実際に起こっていることとはずれている可能性があります。
カウンセリングでは実際にどんなことが起きているかということと同時に、心理的にどんなことが起きているかを話し合っていくことで、自分の心理的な特徴を理解し、その理解をもとにどんな対応をしていくか考えるのに役立つのではないかと思います。
6.まとめ
自己否定にはふたつの側面があります。変化につながる自己否定と自分を壊してしまうような自己否定です。その意味で自己否定自体が問題なのではなく、破壊的な自己否定のみに偏ってしまうことが心理的な健康にとって問題となってしまうのです。
落ち込んだりした時には誰でもただただ自分を否定するだけになってしまうことはありますが、気持ちが持ち直してくることで自己肯定感を持ち、自己否定をより良い自分になるための原動力にすることができます。しかしながら、継続する強い自己否定感情に苛まれている場合には、自己肯定感を持つことはできず、自分を壊す自己否定が繰り返され、自己否定と失敗感の循環に陥っています。
そのような強い自己否定感情を抱える人はそれまでの過程で自分が否定される経験を繰り返していたり、あるいはトラウマとなるような衝撃的な経験をしています。そしてそこから立ち直るためのフォローがなかったり、あったとしてもうまく利用できなかったりしたために、長く続く自己否定に苦しんでいるのだと思います。
ただ、経験によって自己否定が根付いてしまったのだとしたら、同じように経験によって自己否定を和らげることはできると思います。一人で取り組んでもいいと思いますし、助けてくれる人がいれば頼ってもいいと思いますが、行き詰まってしまった時にはカウンセリングを行うこともいいかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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