メンタル不調の原因とセルフメンテナンスの方法とは?
1.メンタル不調とは?その種類や症状について
近年、労働環境におけるメンタルヘルス対策に取り組む企業が増えてきています。法律や条例を整備することで行政が取り組みを推進している面もありますが、特にメンタルヘルスが原因となる休職や退職が増加傾向にあることも関係していると思います。
厚生労働省が2021年に行った調査によると、働く人の半数以上が強いストレスを感じていると回答しています。ストレス自体は仕事につきものですが、対処できる範囲を超えるようなストレスが続くと心身に様々な不調が現れてきます。
もちろん、こうしたストレスと心身の不調は労働環境だけに当てはまるものではありません。学校生活、家庭生活、地域での活動や趣味に関する活動など、その個人のキャパシティを大きく上回るような負担がかかった場合にはメンタルヘルスの不調が現れる可能性があります。
不調が現れた後もストレスの対処ができず大きな負担が掛かり続けると、不調の程度はさらに悪化していきますし、次第に日常生活を送ること自体が難しくなってしまいます。
1-1.精神面の不調
メンタル不調に関する精神面の症状としては、気分の落ち込み、不自然な高揚感、焦燥感や不安感、意欲が湧かなくなる、感情が平板化する(喜びや悲しみの感情を感じなくなること)など様々な症状が挙げられます。
情緒的に不安定になり、その場の状況にそぐわないような感情が生じたり、今まで問題なくできていたことができなくなったりします。
不調の始まりではちょっとした違和感程度かもしれませんが、不調が進んでいくと何かをしようと思ってもやる気が起きず、やるべきことができないと焦りや不安が強くなります。作業になんとか手をつけたとしても集中することができなくて、自分を責める気持ちが出てくるかもしれません。
気分の落ち込みや不安感など、精神状態の波は不調な状態でなくとも起こってきますし、調子の良い時悪い時はあるものなので、調子の波が落ちるタイミングとメンタルの不調が重なってしまうと、不調に気づかずにそのまま過ごしてしまうということも起こりやすくなります。
1-2.身体面の不調
メンタル不調から生じる身体面の症状としては、睡眠障害(不眠や熟睡感の欠如など)、食欲の不振・高進、倦怠感や強い疲労感、活動性の低下などが挙げられます。また消化器症状などが現れる心身症もストレスやメンタル不調と関連が深いものと言われています。
メンタル不調では、精神面の症状と身体症状のどちらも現れることが多いのですが、あまりよく眠れないとか疲れがとれない、疲れやすいなど、身体的な違和感や調子の良くない感じが自覚されることが多いように思います。身体的な不調を感じて病院を受診した際に身体面に原因が見つからない場合、メンタル不調が疑われることは多いですが、身体面の原因が見つかることでメンタル不調が見過ごされてしまうこともあります。
不調を感じた際には休息をとることが必要な場合も多いですが、症状の現われ始めはそれほど重い状態には感じられなかったり、あるいは休息をとることが生活上難しかったりして、不調への対処が後手になってしまい、結果的に重症化してしまうこともあります。
2.職場でのメンタル不調の原因
仕事にはどうしてもストレスはつきものです。業務を行っていく上でプレッシャーのかかる場面は少なくないでしょうし、緊張や不安を強く感じる場面もあると思います。適度な緊張感は仕事のパフォーマンスを高めるために必要なものですが、抱えられる以上の強い、また長く続く緊張感はメンタル不調の原因となってしまいます。
どんなことに対して、どのくらいのストレスを感じるかというのは人によって様々ではありますが、多くの人がストレスを感じやすい要因として、業務量や業務の質の不一致、職場内の人間関係、ハラスメントの3つが挙げられます。
メンタル不調につながるかどうかは仕事要因と個人要因の兼ね合いによるため、これらのストレス要因があると必ずメンタル不調に陥るというわけではありませんが、複数の要因が重なってしまうと、どんな人であっても健康な状態を維持することは難しくなりますし、不調が現れる可能性は高くなります。
2-1.業務量過多や業務内容の不一致
物事を処理するスピードは人それぞれ異なります。ある人にとっては丁度良い業務量であっても、他の人にとっては多かったり少なかったりするかもしれません。また業務への習熟度によってもスピードは変わってきます。初めはゆっくりでも慣れていくことで少しずつ早くなっていきます。
こなせる業務量はその業務への適性も関係します。その人の能力・特性に一致した業務であれば、その他の業務に比べて習熟も早くなるかもしれませんし、その分こなせる仕事量も多くなります。逆に能力・特性と一致しない業務の場合には、習熟により時間がかかり仕事量もなかなか高められないかもしれません。
仕事では働く人に対してある程度一律の業務量・内容が求められるものですし、割り当てられた仕事が自分の適性・特性に一致しているとは限りません。また職場によっては誰にとっても過度な量の業務をこなさなければならないこともあると思います。
他の人もやっているんだからと、自分にとって業務量・内容が過度な負担になっていても言い出せないこともあると思いますし、場合によっては負担がかかっていることに気づかないまま働き続けていることもあると思います。その状態をどれほど続けられるかは人それぞれですが、対処できる以上の負担が掛かり続けているとすれば、いずれ破綻して不調に陥ってしまうのではないかと思います。
2-2.職場内の人間関係
職場の人間関係をどのように構築していくかは職業生活を送っていく上でも業務を遂行する上でも重要な要素です。協力して仕事を行っていくためにはコミュニケーションは不可欠ですし、話をしやすい関係をつくっておくことで困りごとが起こった時にも相談しやすくなります。
しかしながら、人間関係はどうしても相性が問題になってきます。考え方が合う合わないということもありますし、相対的に距離の近い関係を好む人もいれば、距離を置いた関係の方が付き合いやすいと感じる人もいます。色々な志向性を持った人が同じ場所で働いているので、それぞれの相手と折り合いをつけていくことが必要になりますし、場合によっては意識的に関わりを持たないようにすることもあると思います。
ただ、同じ職場で一緒に働いている以上、関わりを全くゼロにするというのが難しい場合もあります。業務内容や人員配置によっては距離を置くこと自体ができないこともあるかもしれません。相互に折り合いをつけることができない関係はやはり強いストレスになることが多いですし、そうしたストレスのある人間関係が続くことは不調が生じ悪化する要因になります。
2-3.職場内におけるハラスメント
ハラスメントは他者から受けるものなので人間関係の一部ではありますが、通常の人間関係のような相性や好み、考え方の問題ではなく、立場を利用した威圧や嫌がらせ、不利益な扱いであるため、人間関係とハラスメントは別個のものとして捉えることが必要です。
ハラスメントは一般的に立場の強い人から立場に弱い人に対して一方的に行われるものです。立場の弱い側は拒否したり抵抗したりすることができないこともあり、ただただ耐えるしかないという状況になってしまうことがあります。そうなってしまってはハラスメントを受ける人は心理的に病んでしまい、働けない状態になってしまうことも少なくありません。
ハラスメント防止のためになんらかの対策を行う企業は増えていますが、相談件数は高止まりが続いているようです(厚生労働省,2023)。これは対策がまだまだ不十分ということもあるかもしれませんし、当事者間で納得のいく解決が難しいということもあるかもしれません。
3.メンタル不調のサインをチェック
メンタルの不調は昨日までなんともなかった状態からいきなり最悪の状態になってしまう、というものではなく、なんとなく違和感を覚える程度のものから始まって次第に悪化していくものです。
気づく気づかないに関わらず不調のサインはなんらかの形で表れていることが多いと思いますが、そうしたサインは微妙なものであることも少なくないため、気づいた時には不調がだいぶ悪化してしまっていて回復に時間を必要とする状態になってしまっていたり、時間が経っている場合には何がきっかけ、原因で不調になってしまったのかわからなくなっていることがあります。
そうしたことを防ぐためには、不調のサインとしてどんなことがあるのかを知り、自分にそのようなサインが現れていないかを意識しておくことが重要です。サインは人によって、また生活環境によって様々なサインがあり得ますが、生活面、思考・感情面、体調面についていくつか挙げてみます。
3-1.生活面でのサイン
不調が悪化すると今までできていたことができなくなるなど、生活状況が大きく変わってしまうこともありますが、不調の初期にはそこまでの変化が起こることはなく、意識的にはそれまでと同じように生活を送っていると感じられることが多いと思います。
生活面でのサインとして、今までよりも行動するのに時間がかかるようになる、ということが挙げられます。たとえば5分ほどで済ませていた支度に7、8分かかるようになったとか、歩いて15分ほどの道のりに20分かかったりなどです。
メンタルの不調になっている時には心身の疲労が蓄積していることが多いのですが、気づかない程度の疲労感でも心身の状態には影響を与えており、そうした影響が動作のスピードが遅くなるなどの形で現れます。これがさらに悪化していくと行動を起こすこと自体が困難になっていきます。
3-2.思考や感情面でのサイン
思考・感情には、何か特定のことを考えようと意識を集中させる能動的側面と、意思とは無関係に湧いてくる思考・感情という受動的側面がありますが、メンタルの不調時にはどちらの側面にも影響が現れます。
能動的側面では、何か考えようとしても集中できない、まとまらないとか、楽しんでやっていた趣味がいまいち楽しめないことがありますし、受動的側面では、後ろ向き・悲観的な思考や感情が増えてきます。不調の初めにはこれらは常にそうなるというわけではなく、集中できたりできなかったり、楽しめたり楽しめなかったりなど、その時々の状態・状況に揺れ動きます。
たまに調子の出ないことがあってもそれ以外の時には問題なく過ごせているとすれば、サインは見逃されがちになります。そのため普段と違うように感じたり違和感を覚えたりした時には、それがサインかもしれないと意識しておくことが重要です。
3-3.体調面のサイン
メンタルの不調の体調面への影響は睡眠や食欲に現れやすいと思います。寝つきが若干悪くなったり早朝に目を覚ましてしまったりすることもありますし、食欲がないわけではなく食べる量もそれほど変わらなないけれども、なんとなく食べる気持ちが湧かないということもあります。
寝つきが悪かったり熟睡感が得られなかったりする場合は、起きても疲労感が残ることがあるので比較的意識されやすいように思いますが、食欲に関しては食べられないわけではないのでサインとしては気づきにくいかもしれません。メンタルの不調からくる体調不良は朝が一番良くない状態で、午後から夕方になってくると体調不良が和らいでくることが多いのですが、朝食をとらなかったり少なかったりする場合は特に意識されにくいと思います。
4.メンタル不調について自分で改善を試せる各種方法
メンタル不調は軽度の状態から重度の状態へ進行していくものです。重度に至る前に対処することができれば、それ以上の悪化を防ぐことができますし、日頃からストレス発散や気分転換をしていることで、メンタル不調に陥る可能性を下げることもできます。
メンタル不調への対処法は身体と心の両面から考えることが大切です。身体と心の状態はリンクしているので、身体の状態が悪ければ心の状態も悪くなりやすいですし、心の状態が悪ければ身体の状態も悪くなりやすいです。身体の健康にとって有効なことでもそれが心理的に大きな負担になっているとすれば、対処法の効果が減じてしまうどころ、場合によっては逆効果になることもあるかもしれません。
ある人にとっては有効な方法でも別の人にとっては有効でないことがあるので、不調への対処法は自分に合った方法を見つけておくことが大切です。いくつかの方法を挙げてみましたが、合わないと感じた場合には、アレンジしたり別の方法を模索したりすることが重要です。
4-1.自宅で試せる効果的な改善法
上の方でも触れましたが、メンタルの不調にはストレスや疲労の蓄積が関係しています。そのため疲労回復のための休息をとったり、意識をストレス源から離せる時間を設けたりすることができれば不調の改善につながります。
疲労は緊張状態にある時により蓄積されやすくなります。同じ時間活動していたとしても仕事をしている時と好きなことをしている時では疲労感は異なると思います。休日で休んでいてもなかなか疲れがとれない場合は平日の緊張感を休日まで引きずっていることが多いのですが、そういった場合にはリラックスする方法を取り入れることが効果的です。筋肉の緊張を和らげたり呼吸を整えたりすることも効果がありますし、ティータイムなどを設けてもいいと思います。
緊張感を引きずっている時には、身体の緊張だけではなく、心理的な緊張も続いていることがあります。そのような状態ではなかなか考えや気持ちの切り替えが難しくなります。自生的な思考から完全に離れることは難しいですが、瞑想などの方法によって一時的に自生的思考から離れることはできるかもしれませんし、散歩なども多少の気分転換になるかもしれません。
方法によっては練習することも必要になるので、自分に合った方法を普段から探しておくことが大事です。少しでも緊張を和らげたり解放されたりする時間をつくることができれば、そこから不調の改善につなげていくことができるのではないかと思います。
4-2.効果的な食事と運動
食事と運動は身体の健康を維持していくために重要ですが、それは心に健康にとっても同様です。食事や運動に対する関心の強さや好みの問題もあるため、どのくらいが適度なのかは人によって変わってきますが、自分にとって丁度良い食習慣や運動習慣を見つけていくことで不調の防止や改善につながると思います。
食事に関して、栄養バランスの良い食事をとることや暴飲暴食を避けることが大事とはよく言われますが、一食毎にあまり気を遣いすぎてしまっても気疲れしてしまいますし、食べること飲むことがストレス解消になっている場合には、我慢しすぎると却ってメンタルの不調をまねいてしまうかもしれません。これらのことは1週間、1ヶ月単位でバランスがとれていることが大事です。有りか無しかで考えるのではなく、偏った食事を摂った次にはバランスよく食べるなど、過度にならないよう心がけることが重要です。
運動はやらなきゃと思いつつも習慣にできない人も少なくないのではないでしょうか。生活の中で一定の時間を割いて続けていくことはなかなか大変ですし、食事と同様無理にやろうとしても逆効果になってしまうかもしれません。ただ運動自体は心身の健康にとって効果的なことが多いですし、今の生活状況で無理なく取り入れられるタイミングを見つけることで続けていくことができるかもしれません。たとえば移動時に乗り物を使っている区間を時々徒歩に変えてみるなど、できることを探してみると何かしら浮かぶことがあるかもしれません。
4-3.メンタル不調に効く考え方や捉え方
メンタルの調子が下がっている時には、考えやものの見方がネガティブになりがちです。物事を否定的に捉えてしまうために気分が落ち込んでしまい、気分が落ち込むと反転させることが難しくなり、さらに調子を落としてしまうという悪循環に陥ってしまいます。
悪循環がそのままになってしまうと悪化する一方になってしまうので、どこかでその循環を断ち切っていく必要があります。事実関係は様々なので一概には言えませんが、メンタル不調の状態の時には、ポジティブネガティブ両面で捉えられる事柄でも気分に引っ張られてネガティブな見方しかできなくなることがあります。
そのような時は意識的にポジティブな見方をもつことが重要です。”このまま悪い状態が続くだろう”という考えが浮かんだとしたら、”いずれ良い方向に改善していくだろう”と考えてみるなどです。またそこから思考を広げていくことも効果的だと思います。どんなことなら改善と思えるか、自己・他者・状況のどこなら変化を起こせるか、他者への働きかけが難しいなら自己をどう変化させられるかなど、複数の視点から考えてみることで悪循環を断つポイントが見つかるかもしれません。
4-4.メンタル不調を克服するための習慣
メンタルの不調を予防したり、不調から回復していくためには心身の状態を高める行動を継続することが大切ですが、不調が進んでいくと活動性が低下してしまい、新しい活動を始めることはおろか、それまでできていたこともできなくなってしまうことがあります。
不調を感じてから回復のための習慣をつくろうとするよりは、普段から不調を予防するための習慣をつけておいた方が、不調に陥っても続けられる可能性はありますし、それが回復につながっていくのではないかと思います。
不調を克服するための特別な習慣があるというよりは、上で挙げたような生活や心身のバランスを整えるような方法を普段から習慣づけておくことが、不調に陥った際にも役立つと思います。また習慣はひとつよりも複数あった方が、ひとつができなくても他の方法を続けることはできるかもしれません。時間と労力のかかる方法と気軽にできる方法の最低でも二通りあると不調の時にも続けられる可能性が高くなるのではないかと思います。
4-5.信頼できる人への相談の仕方
人間関係は緊張や不安を感じるものでもありますし、それによってストレスがかかることもありますが、他者との気の置けない関係はメンタルの状態を安定的に保つ上で、また不調に陥った際にそこから回復する上でも重要なものです。信頼できる相手との関係でストレスを感じることがないわけでありませんが、相談ができる相手がいるというのは不調を感じた時に心強く感じられると思います。
同じように信頼できる相手であっても、たとえば仕事で付き合いのある人とプライベートで付き合いのある人では話す内容は変わってくると思います。自分が何に困っていて、どんなことを相談したいのかがある程度明確になっていると、話もしやすいと思いますし、相談相手も応えやすいかもしれません。
信頼関係といっても色々な信頼があり得ると思います。なんでも話せる信頼関係もあれば、特定のことなら気兼ねなく話せる関係もあるでしょう。不調に陥った時に実際に相談するかどうかはさておき、困った時に相談できるように、周囲の人たちとの関係を築いておくことが大事になります。
コミュニケーションの得手不得手があるので、人によっては相談できる関係を築いておくことが難しいこともあるかもしれません。そのような場合には、困った時に相談できる場所を見つけておくと不調を感じた時に役立つかもしれません。
5.メンタル不調の人への接し方
上でも述べたように、メンタル不調の状態はある時を境に一気に状態が悪くなってしまうわけではなく、軽度の状態から重度の状態へと進んでいくものです。悪化する前に対処することができれば、それ以上の悪化を食い止め回復していくことができますが、放置されてしまうと悪化の一途をたどってしまいます。
ただ不調の初期には本人自身も不調に気づかなかったり気にしなかったりして見過ごしてしまうことがありますし、不調に気づいていたとしても、なかなかそれを言い出せないこともあるかもしれません。
そのような時には他者からの声掛けがあることで楽になれることもあると思います。特に問題を一人で抱えがちの人には声掛けが必要なことが多いと思います。周囲の人々がメンタル不調に悩む人の問題を解決してあげることは難しいですが、人からの声掛けがあることで、不調に気づくことができたり対処行動に動いたりすることがしやすくなるのではないかと思います。
5-1.職場の上司や同僚が知っておくべきポイント
職場におけるメンタル不調は、やはり業務のパフォーマンスに現れやすいと思います。意識を集中させることが難しくなるので、業務の能率が下がる、ミスが増えるという形で不調が現れることがあります。またぼんやりしていることが多くなることもあるかもしれません。
そのような様子に気づいた時は調子を尋ねたり、「疲れているように見える」と伝えたりして話をするといいと思います。自分からは言い出しづらいことであっても聞かれれば答えやすくなりますし、話をすることで本人の気づきにもつながると思います。
不調が改善せずに続いている場合には何らかの対処が必要になりますが、その場合もまずは本人の意向を確認することが重要です。業務の調整が必要なのか、休養が必要なのか、外部への相談が必要なのかなど、本人の意向と会社として可能な対応を確認しながらすり合わせていくことで先の見通しを持ちやすくなりますし、改善に向けた取り組みを進めやすくなると思います。
5-2.家族が知っておくべきポイント
職場では抑制的、あるいは普段通り振舞おうとする傾向が表れやすく、メンタル不調の情緒面への影響は見えづらくなりますが、家庭では職場に比べて緊張が和らぐため、たとえばイライラしていたり、落ち込んだ様子だったり、変にテンションが高かったりなど、情緒の不安定さが表れやすいと思います。また籠りがちになったり回避的になったりすることもあるかもしれません。
家族としての対応もまずは最近の調子について話をしてみることが基本になると思いますが、情緒的なつながりが強いために、むしろ家族だからこそ話しづらいということもあるかもしれません。そのような場合には、無理に話を聞こうとはせずに気分転換に誘ってみたり、家族以外の人に相談することを提案してみたりしてもいいと思います。
気持ちに変化があれば話をしようと思うこともありますし、家族以外に相談して改善に取り組むことになれば、家族の協力を求めることもあると思います。家族関係は距離が近いからこそ力になれることもあれば、関わり方が難しくなってしまうこともあります。そのため本人の様子によっては、気に掛ける、見守るというスタンスで関わることも大切なことがあると思います。
6.メンタル不調の専門的ケアとは
メンタルの不調が初期であったりそれほど悪化していない状態であれば、自分なりに対処したり身近な人に相談したりすることで改善していくこともできますが、状態がかなり悪化してしまうと自力で改善することは難しくなります。悪化してしまった場合にはやはり医療機関や専門の相談機関に相談することが必要と思います。
どんなタイミングで相談に行くかはなかなか難しい問題です。状態が悪いなと感じてから相談に行くのもタイミングのひとつかもしれませんが、悪化の状態が進むほどそこからの回復には時間がかかってしまいます。なので、自力での対処が難しいと感じた時、あるいは不調に気づいたタイミングで相談に行くことを検討してもいいのではないかと思います。
相談のハードルは決して低くはないと思いますが、自力での対処が行き詰まってしまった時には、相談することで別の視点を取り入れてみることは状況を変えるためにも重要になると思います。
6-1.カウンセリングルームでの対応
カウンセリングには様々な種類があるので、たとえば絵画療法や音楽療法など、実際の行為を用いた治療を行っているところもあると思いますが、多くのカウンセリングでは相談者とカウンセラーが話をすることを通して状態や状況の改善を目指していきます。
カウンセリングの目的は人によって様々で、自分が置かれた状況に具体的にどう対処していくかを話し合うこともありますし、自己に何らかの変化をもたらすことを目的としてカウンセリングが行われることもあります。いずれにしても自分自身に焦点が当たることが多いので、自己の特徴に対する理解が深まり、その理解を基に悩みや困りごとにどう対しするかを考えることができます。
ただ、自分自身について考えていくというのは大なり小なり負担のかかる作業なので、あまりに状態の悪い時はカウンセリングを控えるか、医療機関への相談と併用した方がいいかもしれません。
6-2.精神科や診療内科での対応
医療機関での対応は医師の診察と投薬治療が中心になります。心身に生じている症状の治療を受けたい場合には、やはり医療機関への相談が優先順位の高い選択肢になると思います。
多くの病院ではたくさんの患者さんを抱えており、悩みや困りごとについて相談したいと思っても話をする時間を確保することができない場合が多いようです。中には診察の時間を長めにとって医師が精神療法を行っている病院もありますが、そういった診察を行っている病院は少数だと思います。
ただ、最近では心理師の所属する病院も増えてきており、希望すれば診察とカウンセリングを併用することができる病院もあると思います。医学的治療とカウンセリングを併用することは状態の改善に効果的と言われていますし、投薬治療で症状を緩和しながらカウンセリングで自分が抱える問題に取り組んでいけると改善につながりやすいかもしれません。
7.まとめ
メンタルの不調はストレスと関連が深く、誰でもなってしまう可能性のあるものです。ストレスには個人要因だけでなく、環境要因もあるため一人で問題に対処することが難しいことも少なくありません。また、不調の影響は心身両面に現れるため、気力・体力ともに落ちてしまって改善に取り組もうと思ってもできない場合もあります。そのため不調を感じた場合には周囲の人に相談することが大切です。
不調は重度に悪化した状態がいきなり現れるわけではなく、普段と少し違う程度の状態から徐々に進んでいくものです。不調の始まりには心身に何らかのサインが表れていることが多いですが、違和感ほどの些細なサインの場合にはそれに気づかないこともあります。普段から自分の状態に気を配っておくことで変化のサインに気づきやすくなると思います。また日頃から心身の健康を保つことを習慣づけることで、メンタル不調の予防にもなりますし、不調に陥った際も改善につなげやすくなります。
不調が悪化してしまうと、周囲の人たちの協力を得られたとしても独力で改善に取り組んでいくことは難しくなります。その場合には、医療機関や専門の相談機関を利用することを選択肢として検討することも必要と思います。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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