感情と記憶
1.気分と連動する記憶
楽しい気分の時には楽しい考えや思い出が。
悲しい気分の時には悲しい考えや思い出が。
普段あまり意識することはないかもしれませんが、気分・感情とその時に頭に浮かぶ考えや記憶は色合いが一致していることが多いように思います。楽しい気分の時に悲しい出来事を思い出すのは、意図的に思い浮かべようとしない限りはほとんどないかもしれません。
逆に意図せずに気分・感情と一致しない考えや記憶が浮かんでくる場合は、個人のもつ性格などの傾向かもしれませんし、無意識的な何らかのサインかもしれませんし、解決されていない心理的問題の現われかもしれません。いずれにしても気にかけておいた方がいい何かがあるのだと思います。
ポジティブとネガティブであれば、ポジティブな気分や記憶が多い方が良いように感じられますが、どちらか一方に極端に偏ることは精神衛生上好ましいことではないように思います。ポジティブへの偏りは躁状態と関係しているかもしれませんし、ネガティブへの偏りは鬱状態と関係しているかもしれません。ただ、問題になりやすいのはやはりネガティブへの偏りかと思います。
2.ネガティブに偏った記憶
気分・感情と思考・記憶の関連は感覚的には了解しやすいものだと思いますし、その事に関する研究も行われていましたが、神経学的なメカニズムについては不明瞭な点も残されています。この点の研究に関して、先日富山大学からプレスリリースが出されていました。
富山大学・プレスリリース
上記のプレスリリースでは、不安や抑うつ的になりやすい人について、ネガティブな記憶の想起に関わる神経学的メカニズムが明らかになったと発表されています。
詳しい内容についてはリリースや論文詳細を参照してもらえたらと思いますが、いくつかの神経機能や神経伝達物質などが、ネガティブに偏った記憶の想起や保持、ネガティブな情報をより多く取り込むことに影響を及ぼしており、それらは明確な意識を伴わないまま為されているということでした。
神経機能と情報の取り込みや記憶の想起・保持が相互に影響することで個人の性格傾向、そして不安や抑うつなどの症状が維持されているのだと考えられますし、またそれらが意識されない領域で進んでいるため変化させることが難しいのだと思います。
3.起こっていることに気づくこと
ネガティブな出来事を体験して不安や気分が落ち込むことはよくあることですし、それが一時的なもので終わり、気持ちの整理がついて気分を変えていければ、それは自己の成長につながるものだと思います。ただ、ネガティブな記憶が繰り返し想起され、そのたびに不安が増したり気持ちが落ち込んだりする。さらに不安や気持ちの落ち込みがネガティブな記憶を呼び起こすような循環が出来てしまうと、そこから抜け出ることは難しくなります。
上記の研究でも示されていましたが、このような記憶の想起と感情状態の関連は意識されないまま進んでいることが多いものですし、意識されないということは自分が何故そのような状態になっているのかわからないということでもあります。わからないまま改善策を講じようとしてもうまくいかないことが多いと思います。
そのため、改善させていくための第一歩として大事なことは、自分が改善したいと思っている事柄と関連するものを見つけることだと思います。それは外的な現実の出来事かもしれませんし、心の中で起こっていることかもしれませんし、その両方かもしれません。
たとえば、気持ちが沈んでいる状態が続いている。そういえば少し前に友人とけんかをした。自分ではあまり気にしていないつもりだったけれど、悪いと思っているし謝りたいと思っている。この場合は、友人とけんかをしたという出来事と、それを気に病み続けていたことが気持ちが沈んでいたことと関連しているのかもしれません。
実際にはこんなにシンプルなことは少ないでしょうし、簡単に解決できるものではないかもしれませんが、すぐには見つからなかったとしても、関連性を探していくことは問題を解決するために必要なことでしょう。
4.他者とのコラボ
自分が気づいていない事柄に気づくこと、といいましたが、実際にはそれが一番難しいことかもしれません。自分が気づいていない事柄が明確であれば、そもそも気づいていないということはあり得ないからです。
自分が意識せずに行っていることは、多くの場合、そのことが自分にとっては当たり前だったり自然なことだったりするため、違和感や疑問を持つことはほとんどありません。それゆえ気づかないまま長期間続いてしまうのです。
このような時には他者の視点が役に立つことが多いと思います。自分にとっては当たり前のことであっても他者にとってはそうとは限らないので、自分は気づいてなくとも他者は気づいているということがあるからです。
自分から見た私と他者から見た私は異なっている見えている可能性が高いので、人には自分がどう映っているのかを聞いてみることは自分が知らない自分の一面を知るのに役立つことが少なくないと思います。
もちろん、人に相談したからすぐに問題が解決するというものではないですが、行き詰まっている時には一人で考え込まずに誰かに話してみることが状況を変えるための端緒になるかもしれません。
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「文責:川上義之
臨床心理士、公認心理師。病院や福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています」
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